8 / 26
そういうところがかわいいってどうしてわからないんだろう
しおりを挟む
「炎上君のほんとの日本名って离憂っていうんだね」
そうこぼせば、書類を書いていた炎上君はこっちを向いた。一瞬だけ目が合ってから、彼はもう一度書類に目を落として、「そうだな」と頷く。
その視線の先には、役所に提出する書類。
俺が先に書いてて、炎上君が「聞きたいことがある」ってなったからそこを教えながら書いていって。
最後に、署名のところ。
本名のリアス=クロウのほかに、炎上君は日本で使っている方の名前を書いていった。
それをぼんやりと眺めていたら、「炎上」の先には、今まで見覚えのある「龍」ではなくて、「离憂」ときれいな字で書かれる。
そうしてこぼしたのが、その言葉。炎上君は一度書き終えてから、書類を確認するように目を流しつつ。
「読めるんだな」
と。
言われて、今度は俺が炎上君を改めて見た。
「これはこう、学力的な方で言われてる?」
「まさか。お医者様の息子が読めないとは思わない」
その言い方は少しいじわるを含んでいたけれど、決して学力の方ではないとわかったので。
「合ってるよね。りう」
「あぁ」
「いろんな名前あるね、炎上君」
「本来はお前が言った通り、こっちが日本名なんだがな」
理由があって変えたとわかる言い方に、続きを促すように彼を見た。
書類のチェックが終わったらしい炎上君は、背もたれに体を預けてひとつ、指を折る。
「ひとつは読み方。割となんて読むかで突っかかるので時間短縮で、名乗る方は変えた」
そしてもうひとつ。
「クリスティアがな」
「氷河さん」
「あいつ呼ぶときに結構伸びるだろう?」
「のび……?」
―――あぁ。
せんりーとかそんな感じのあれかな。思い出してふふっと笑いながら、頷く。
「そうだね。ふわーっと呼ぶよね」
「そう。それで、あいつなりには”りう”と呼んでいるんだが、どうしても”りゅう”にしか聞こえなくてな」
笑いながら話す様子を見るに、別にそれが嫌というわけではなく。ただただ愛しい思い出のように続けていく。
「呼びづらさもあるんだろうということで、呼び方を”りゅう”にした」
「表記は、変えられなかったの?」
「いや」
変えなかった、と。愛おしそうに指でその名を撫でるから。あぁ氷河さんとのことだろうなとわかって、こっちも微笑んでしまう。
「クリスティア以外は、日本名は頭と後ろをくっつけるような形で決めていてな。レグナなら蓮、カリナなら華凜。クリスティアは本名の関係上どうにも略せないということで、俺が意味をつけて名付けたが。俺はそれで”りう”に」
そのときに。
「俺の漢字は、自分が決めたいと言い出した」
「氷河さんが」
「あぁ。自分の名を決めてくれたから、その礼のような感覚だったんだろうな。当時は辞書なんて手元にないから、図書館にこもって一生懸命調べてたよ」
目に浮かぶその光景に、こっちの頬も緩んでいく気がした。
「そうして決まったのが、この漢字」
「意味も、ちゃんとあるんでしょ?」
「当然」
過去を乗り越え、辛さから離れていく、と。
愛おしげに、その口からこぼれていった。
「嬉しいやつだね」
「それはもう、な。たださっきも言った通り、表記的に読めないことが多く、あいつも呼び方がどうしてもりゅうとなる」
「悲しそうだった?」
「最初はな」
だから言い方を変えた、と。
今度は楽しげに言う炎上君に、身を乗り出して続きを促した。
「大切なときだけに使う、俺達だけの特別な名前と言った」
「特別な……」
「あぁ。こうした公的書類で使うもの。つまりは大事な場面で使う、特別なものだと」
また愛おしそうに名前を撫でて、笑う。
「……そっか」
「期待外れの答えだったか」
「まさか」
むしろ、と。肩を竦めて。
「ごちそうさまとしか言えないくらい甘いお話だなぁと」
「かわいいだろう、クリスティア」
「俺からしたら炎上君もなかなかかわいいと思うよ」
「眼科行くといいぞ」
「あはは、お断りするよ」
だって。
「大事な恋人悲しませたくなくて、絶対変えたくなかったんでしょ、この表記」
「……」
「そのエピソードからそれが伝わるよ。かわいいなぁって思う」
笑っていたら、炎上君は口を開いた。
「……変えたくもないだろう?」
「うん?」
「恋人が図書館にこもってまで、俺に合うような漢字を一生懸命探したんだ。それがどれだけの意味をもつか」
「……」
「何があっても一生変えるものか」
嬉しそうに、愛おしそうに。名前を撫でながら言う炎上君に。やっぱり、と。
「炎上君」
「ん?」
「そういう心が、俺から見たらかわいいと思うんだよ」
そう、言ったら。
「さいで」
彼は「意味わからん」という意味で使う言葉を返してきて立ち上がる。俺もそれを追うように立ち上がった。
「もう行くの?」
「これ以上はお前にからかわれるしな。クリスティアのところにも行くし」
「あはは、照れてるんだ」
「置いてくぞ」
「あ、待ってよ!」
歩き出す炎上君に、急いで荷物をまとめて追いかける。あ、案外足早いな? もう曲がっていっちゃった。まぁ炎上君ならこういうときなんだかんだ待ってるんだよねと走っていけば。
「え、ほんとにいないの!?」
相当なダメージを与えていたのか、角を曲がった先にもう彼はいませんでした。
『そういうところがかわいいってどうしてわからないんだろう』/シオン
そうこぼせば、書類を書いていた炎上君はこっちを向いた。一瞬だけ目が合ってから、彼はもう一度書類に目を落として、「そうだな」と頷く。
その視線の先には、役所に提出する書類。
俺が先に書いてて、炎上君が「聞きたいことがある」ってなったからそこを教えながら書いていって。
最後に、署名のところ。
本名のリアス=クロウのほかに、炎上君は日本で使っている方の名前を書いていった。
それをぼんやりと眺めていたら、「炎上」の先には、今まで見覚えのある「龍」ではなくて、「离憂」ときれいな字で書かれる。
そうしてこぼしたのが、その言葉。炎上君は一度書き終えてから、書類を確認するように目を流しつつ。
「読めるんだな」
と。
言われて、今度は俺が炎上君を改めて見た。
「これはこう、学力的な方で言われてる?」
「まさか。お医者様の息子が読めないとは思わない」
その言い方は少しいじわるを含んでいたけれど、決して学力の方ではないとわかったので。
「合ってるよね。りう」
「あぁ」
「いろんな名前あるね、炎上君」
「本来はお前が言った通り、こっちが日本名なんだがな」
理由があって変えたとわかる言い方に、続きを促すように彼を見た。
書類のチェックが終わったらしい炎上君は、背もたれに体を預けてひとつ、指を折る。
「ひとつは読み方。割となんて読むかで突っかかるので時間短縮で、名乗る方は変えた」
そしてもうひとつ。
「クリスティアがな」
「氷河さん」
「あいつ呼ぶときに結構伸びるだろう?」
「のび……?」
―――あぁ。
せんりーとかそんな感じのあれかな。思い出してふふっと笑いながら、頷く。
「そうだね。ふわーっと呼ぶよね」
「そう。それで、あいつなりには”りう”と呼んでいるんだが、どうしても”りゅう”にしか聞こえなくてな」
笑いながら話す様子を見るに、別にそれが嫌というわけではなく。ただただ愛しい思い出のように続けていく。
「呼びづらさもあるんだろうということで、呼び方を”りゅう”にした」
「表記は、変えられなかったの?」
「いや」
変えなかった、と。愛おしそうに指でその名を撫でるから。あぁ氷河さんとのことだろうなとわかって、こっちも微笑んでしまう。
「クリスティア以外は、日本名は頭と後ろをくっつけるような形で決めていてな。レグナなら蓮、カリナなら華凜。クリスティアは本名の関係上どうにも略せないということで、俺が意味をつけて名付けたが。俺はそれで”りう”に」
そのときに。
「俺の漢字は、自分が決めたいと言い出した」
「氷河さんが」
「あぁ。自分の名を決めてくれたから、その礼のような感覚だったんだろうな。当時は辞書なんて手元にないから、図書館にこもって一生懸命調べてたよ」
目に浮かぶその光景に、こっちの頬も緩んでいく気がした。
「そうして決まったのが、この漢字」
「意味も、ちゃんとあるんでしょ?」
「当然」
過去を乗り越え、辛さから離れていく、と。
愛おしげに、その口からこぼれていった。
「嬉しいやつだね」
「それはもう、な。たださっきも言った通り、表記的に読めないことが多く、あいつも呼び方がどうしてもりゅうとなる」
「悲しそうだった?」
「最初はな」
だから言い方を変えた、と。
今度は楽しげに言う炎上君に、身を乗り出して続きを促した。
「大切なときだけに使う、俺達だけの特別な名前と言った」
「特別な……」
「あぁ。こうした公的書類で使うもの。つまりは大事な場面で使う、特別なものだと」
また愛おしそうに名前を撫でて、笑う。
「……そっか」
「期待外れの答えだったか」
「まさか」
むしろ、と。肩を竦めて。
「ごちそうさまとしか言えないくらい甘いお話だなぁと」
「かわいいだろう、クリスティア」
「俺からしたら炎上君もなかなかかわいいと思うよ」
「眼科行くといいぞ」
「あはは、お断りするよ」
だって。
「大事な恋人悲しませたくなくて、絶対変えたくなかったんでしょ、この表記」
「……」
「そのエピソードからそれが伝わるよ。かわいいなぁって思う」
笑っていたら、炎上君は口を開いた。
「……変えたくもないだろう?」
「うん?」
「恋人が図書館にこもってまで、俺に合うような漢字を一生懸命探したんだ。それがどれだけの意味をもつか」
「……」
「何があっても一生変えるものか」
嬉しそうに、愛おしそうに。名前を撫でながら言う炎上君に。やっぱり、と。
「炎上君」
「ん?」
「そういう心が、俺から見たらかわいいと思うんだよ」
そう、言ったら。
「さいで」
彼は「意味わからん」という意味で使う言葉を返してきて立ち上がる。俺もそれを追うように立ち上がった。
「もう行くの?」
「これ以上はお前にからかわれるしな。クリスティアのところにも行くし」
「あはは、照れてるんだ」
「置いてくぞ」
「あ、待ってよ!」
歩き出す炎上君に、急いで荷物をまとめて追いかける。あ、案外足早いな? もう曲がっていっちゃった。まぁ炎上君ならこういうときなんだかんだ待ってるんだよねと走っていけば。
「え、ほんとにいないの!?」
相当なダメージを与えていたのか、角を曲がった先にもう彼はいませんでした。
『そういうところがかわいいってどうしてわからないんだろう』/シオン
0
あなたにおすすめの小説
付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた
ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」
三十二歳、独身同士。
幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。
付き合ってもないのに。
夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。
断る理由が、ない。
こうして、交際0日で結婚することが決まった。
「とりあえず同棲すっか」
軽いノリで決まってゆく未来。
ゆるっとだらっと流れていく物語。
※本編は全7話。
※本編完結後、ゆるいSS投稿予定。
※サイドストーリー(切なめ)投稿予定。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる