亡き侯爵令嬢と自動人形ためのゾートロープ

桃千あかり

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ハッピリィ・エバー・アフター?

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 その白い塔には、魔導工学の粋を集めた自動人形が暮らしている。所有者は国王だ。彼は足しげく塔へ通い、自動人形へ過去の罪を懺悔する。

「全て貴女が正しかった。公務さえ満足にこなせぬ女を、伴侶に選んではならなかった。私は何故、あんな公の場で婚約破棄など、愚かな真似をしたのだろう。誇り高い貴女が、あれほどの不名誉をこうむれば、どんな選択をするのか、考えれば分かっただろうに。愛するシスル、赦しておくれ」

 人形は、かつて王が王太子であった頃の婚約者を模していた。鮮やかな紫の髪は彼女の遺髪である。
 人の髪には魔力が宿る。遺髪に宿った魔力の名残を読み取ると、亡き令嬢の記憶の断片が、逆から順に頭へ浮かんだ。


 死の暗闇。
 毒酒を満たしたゴブレット。
 馬車の窓を流れていく、涙で滲んだ夜の街並み。
 着飾った人々、好奇と嘲りを浮かべた沢山の目。
 罵倒してくる青年たちの怖い顔。
 若き日の王と王妃が親密に寄り添い、側近の青年たちを引き連れて近付いてくる姿。


 これが婚約破棄かと、人形は思考する。特に感想はない。人形は人形だからだ。

 与えられた役目に従い、王の自己憐憫じこれんびんに耳を傾ける。人形は話が終わるのを、ただ待っていた。

 しかし、その日はいつもと違い、塔へ王妃がやってきた。人形を見た王妃は、驚きに目を見張ると、金切声で王を責めた。王もまた王妃をなじる。

 裏切り者だとか、下賎な女だとか、激しい舌戦の傍らで、人形は自分のとるべき行動を思案した。令嬢の記憶を探ると、類似の状況を発見する。

 少女だった王妃が、令嬢と対峙していた。若き王の背に庇われながら、令嬢へ言葉をかけて、争いを終わらせたのだ。この振る舞いこそ、適切な行動に違いない。

「なんて浅ましい人なの!」

 そう言って王の背へ寄り添う人形。背中に隠れながら、キッと王妃を睨み付ける。

「私たちのまことの愛を責めないで、様。殿下はね、貴女みたいに口やかましい女は、飽きてしまったんですって。お心を引き留められない貴女が悪いのよ。違いますか?」

 人形は一息に捲し立てた。かつての王妃の正確な模倣だ。

 王も王妃も、自動人形の行動が、過去の再現だと気付いたらしい。王は血の気が失せた顔を強張らせ、死人でも見たように怯えている。王妃は髪を振り乱し、けたたましい悲鳴をあげた。

 状況が悪化した。自分が『愛』という概念を持たないせいで、発声に違和感があったのか?

 侯爵令嬢シスルの姿をしたの自動人形は、怪訝そうに首を傾げた。
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