【BL】小さな恋の唄…盲目の私が恋をしたのは…

梅花

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1章

4話

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「あ、薬草の受注してこなきゃ…」

丸薬を作るにも薬草が必要なのだ。
目が見えない私にとっては受注をしなければならないが、とても安い額で薬草を卸して貰えるからありがたい。
自分が食べていけるだけの収入になればいいのだ。
そう思いながら家を出ると、様々な人に声を掛けられる。
野菜売り、魚売り、花売り。

「おはようございます」

「いい天気ですよ」

挨拶を交わしながら歩数を数えて店の前で止まる。

「おはようございます、薬草は買えますか?」

店の中に声を掛けると、女性の声で応答がある。
痛み止用の薬草と、その他にもいくつか纏めた購入をして支払いを済ませる。
もう、慣れたものた。

「ティア、悪いんだけど胃薬ある?」
「ありますよ?」
「3日分欲しいけれど」
「お手数ですが、店にいらしてくださいますか?」
「後で行くわ」

そんな約束をしながら店に帰る。
すると、何だかざわざわとしている。

「お、ティアが帰ってきたぜ?」
「ティア、お客さんだよ」

そんな声が聞こえて、お客に心当たりがなくどうしていいかわからない。
すると、はす向かいの家の女の子が声を掛けてくれて手を繋ぐ。
手を引いてくれるようだ。
それを頼むと、家の前で止まる。

「どちらさまですか?」

普段と嗅ぎ慣れない薬草の香りがした。

「儂は医者のホウアンと申す。薬の件で聞きたいことがあってな…そなたが此処の主か?」
「そうです。狭くて宜しければ中へどうぞ」

少女にお礼を言ってから店に入る。
狭い店だが仕方ない。椅子をすすめてから自分は薬草を畳に置いた。

「思ったよりもこぢんまりした店じゃの?だが、綺麗にしとる」

ホウアン医師は室内を見ているのだろう。
座るように椅子を薦めてから、買ってきた薬草を忘れないうちにしまってしまう。

「で、本日いらしたのは何故でしょうか」

お茶をお出しできず申し訳ございませんと謝りつつ、居心地が悪く私は困ったように天井を見上げた。

「今朝、少年か来ただろう?それに渡した薬に興味があってこうして来させてもらったんじゃよ、よかったらその薬の調合を教えてくれんかの?」

優しげな声に、私は小さく頷いた。

「構いませんが、傷の痛み止は在庫が無くて…作らなければなりませをんが、作るところを見て行かれますか?」

少し時間がかかりますがと聞くと、調合する薬草だけを知りたいと言う。
どうやらゆっくりする時間はあまり無いらしい。
私は引き出しを開けながら、皿に必要な薬草を選び、のせていく。
手触りと匂いで薬草を確認しながら、必要な量を取るのは慣れたもので、薬師は通常重さを計っての調合をするが、私の作業は全て手探りだ。

「おわかりになるかと思われますが」

私は取り出した薬草を見せると、ホウアン氏は、フムフムと何やら書き付けをしていた。
ふわりと香る墨の匂いに懐かしさを感じる。
かれこれ何年も文字を書いたことがないのだ。

「これをそれぞれ粉にしてから混ぜ合わせて丸薬にします」
「なら、あの腹薬は何を使っておる?」
「あれは…」

全て高くない薬草を混ぜ合わせて作るため、患者に負担がかかりにくくしてあるのだ。
そもそもが、儲けたくてやっているわけではない。

「ほうほう、面白い調合よの」

何か感心したように頷くと、ホウアン氏はそろそろ帰るぞと店をあとにした。
何だか台風のようだちどたなと私は笑うと、先程の薬草の調合に入る。
ゆっくり時間をかけて行わなければならない調合に私は没頭した。
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