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1章

19話

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「ティア、湯あみをしておいてくれ…着替えてくる。今夜は一緒に寝てもいいだろう?」

食事をしてから少し時間をおいて立ち上がったレイジュ。
あれ、レイジュは食べていた?
自分ばかり食事をさせて貰っていなかったか?

「あっ、あの…レイジュ」
「ん?ゆっくり浸かれ。補助にキラを置いていくからな?大丈夫だ」

そう言われ、ふいに抱き締められると頬に唇だろう、軟らかいものが触れた。

「直ぐに戻る。着替えは心配しなくていいこちらで用意をしてあるから」
「ありがとう…ござい…ます」

頭を下げて見せるが、どうも腑に落ちない。
レイジュはどうしてここまで私に?
見えないことがこんなにも不安だなんて思いもしなかった。
初めてかもしれない、他人の表情が見えないことがこんなにももどかしいのだ。
レイジュが離れていくと、やがてぱたりと扉の閉じた音がした。

「…っ」

私は椅子に座り、両手で顔を覆う。
この目を取ってしまえば絶対にもう望みはない…わかっているのだ。

「治る見込みのある目を…潰してしまえば、もうこんな…っ」

吐露してしまった言葉。
その瞬間、強い力で手首を掴まれた。

「今、何と仰いました!ティア様!」

それは、キラの激しい声だった。

「キラ…っ…」
「治るの、ですか?」
「そう、言われ…ました、が、莫大な費用が…」
「誰か、誰か居ないか!直ぐにレイジュ様とご典医様を呼んでくれ」

キラがこんなにも声を張り上げたのを聞いたのは初めてだった。
何がこんなにも焦りを呼んでいるのだろう。

「ティア様、どうかこのままで。今レイジュ様を呼び戻します…そうしたら、今の話を詳しくしてください」

いいですね?と言われて頷くことしかできない。
どうして?
何があったの?
私は離れていったキラが掴んだ手首がまだ少しだけ痺れていた。
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