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1章

29話

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「ん…」

こくりと船を漕いで、はっと顔を上げた。

「すみません…」
「いや、疲れているのだろう?横になるといい」

レイジュを椅子代わりにしてうとうとしてしまったようで、抱き締められていた手が離れ横になろうと導かれる。
ふわりと沈む感触と、肌に触れる滑らかな布。
枕はゴソゴソしたものではなくて、程よい固さがありつつもとても眠りやすそうな物だった。

「ふふ、レイジュ…蹴ってしまったらごめんなさい、誰かと寝ることがないから自分の寝相がわからなくて…」
「蹴られても、朝まで一緒にいてやるから」

レイジュの体温が近い。
抱き締められる感覚に無意識に擦り寄ってしまう。

「おやすみなさい」
「おやすみ」

思っていたよりも疲弊していた身体は、すとんと意識を失った。
抱き締められる感触や唇に何か触れたような感触は、夢の中でははっきりせず最後には感覚もなくなるくらいの深い眠りに落ちた。

「ティア…おはう」
「ん…っ!レイジュ!?」
「おはよう」
「おはようございます」

眠ったときと同じ体勢で目を覚ましたらしく、頬にレイジュの手が触れる。

「朝食ができている、食べるか?」
「はい」
「その前に顔を洗うか」

そう言われてこくりと頷く。
レイジュの手を借りて体勢を戻すと、キラ様の声がした。

「おはようございます、お支度ができていますので」
「あぁ、ティアおいで…」
「はい」

手を引かれて向かったのは昨夜の脱衣場。
顔を洗う場所を教えて貰うと、冷たい水で顔が洗えた。
キラ様が水を運びますと申し出てくれたのだが、それは断った。
できることは自分でしたい…そうお願いをした。
それから身支度をして、食事、レイジュを見送って、後はやることがあまりない。
レイジュの帰りを待って今日あったことを話したりふたりの時間を過ごしながら1日が終わる。

それを何日繰り返しただろうか…

漸くホウアン様より連絡が入った。
一度目の塗布ができると。
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