【BL】空と水の交わる場所~ゲーム世界で竜騎士になりました。

梅花

文字の大きさ
114 / 124
9章 これから

9-7

しおりを挟む
「お花はいかがですか?」

花売りに声を掛けられると、アイヴィスは1つ貰おうと、花束を買ってはセラフィリーアに渡す。
花束と言っても、一束は数本の花しかないのだが、それが5束、10束になると落としそうでハラハラする。
見かねたルシウスが花籠を買うと手渡してくれた。

「アイヴィス程々にしろよ?」

ルシウスの声にアイヴィスはにこにこと笑う。

「セラに花を贈りたいんだ。幸せの象徴だろう?」

毎朝届けられる花は、アイヴィスが庭から選んでくれるものだと聞いている。
だが、これ以上買って貰うのも申し訳ない。

「アイヴィス様、アイヴィス様。あの…買っていただけるのは嬉しいですが、アイヴィス様と手を繋ぎたいので…この花は騎士団の方に離宮に運んで貰っていいですか?」

アイヴィスの袖を軽く引いて耳元で囁くと、アイヴィスは一瞬動きを止めてからルシウスに篭ごと渡す。

「ルシウス様、すみません…それと、ここに小銭が入っていますから、できるだけ幼い花売りの子の花束を買って、離宮に届けて貰うようにお願いします」

小さな布袋を取り出してから花篭の中に入れる。
セラフィリーアには私服の護衛騎士はわからないが、ルシウスとアイヴィスにはわかっているだろう。
それに、アイヴィスが護衛を呼び寄せるよりは、ルシウスがたまたま見かけた仲間を呼び寄せるように振る舞った方が怪しまれないだろうと思った瞬間、ルシウスはにやりと笑うと道向こうに手を振ると、やはり見知った護衛姿の騎士が親しげに手を上げて近寄ってくる。
一言二言交わした相手は花篭を受けとると、軽く頭を下げてから歩いて行った。

「思ったよりも近くにいるんですね…」

思ったよりもルシウスが手を振った瞬間、ぴくりと反応した人物が意外に多かった。
セラフィリーアがわかったくらいだから、実際はもう少し多いのかもしれない。

「んー?もう一度あいつらも鍛えなおしか」

ぽつりとルシウスが呟くと、アイヴィスが苦笑する。

「ばれたら護衛じゃねぇからな」

そうなのかなと、アイヴィスを見上げるとこくりと頷く。
その辺りは良くはわからないので、任せなければと思いながら露店や店先を見て回る。
そして小さな店の前でセラフィリーアは足を止めた。

「可愛い」

其処は木彫りを扱う店。
窓辺に置かれた木彫りの竜を見て足を止めたのだ。

「アイヴィス様、これルディアスにそっくり」

漆黒の竜。
所々に入った金色。
掌よりも小さなものだが、精巧に作られている。

「あぁ、ルディアスだろう…店の中に入ってみるか?」

「いいのですか?」

扉にも綺麗な花の彫刻がしてあり、美しい。

「こんにちは」

セラフィリーアは躊躇いなく扉を開く。
カランカランという鐘の音がした。
店の奥からはいらっしゃいませと言う明るい声。

「あの、窓際の飛竜を見せて貰ってもいいですか?」

「どうぞ、でもあれは売り物でなくて…」

姿を現したのは30歳前後だろうか、美しい人だった。

「え、そうなのですか?ルディアスにお土産と思ったのに…残念です…でも他のものも見せてください」

「あ、どうぞ…」

「悪い、主人にルシウスが来たと伝えて貰えるか?」

ひょこっとルシウスが脇から顔を出して店員に伝える。

「えっ!あ、少しお待ちください!!」

パタパタと店の奥に入っていった店員が、少ししてから屈強な男を連れて戻ってくる。

「おぅ、ルシウス久し振りじゃねぇか!ん?そっちは陛下か。じゃあ、そっちは王子かぃ?」

豪快に笑ったのは髭面の40歳台に見える男だった。
ルシウスとがしっと包容したかと思うとアイヴィスとも気軽に握手をしてから、セラフィリーアを抱き締めようとして二人に止められていた。

「セラ、ミゲルだ。前の赤飛竜騎士副団長だ。ルシウスの前任だな」

アイヴィスの紹介に、セラフィリーアは慌てて頭を下げる。

「初めまして、セラフィリーアと申します」

「おうおう、陛下、ずいぶんと別嬪な王子さん掴まえたな。っつーかずっとこの王子しかいらねぇっつってたもんなぁ。
おめでとさん」

アイヴィスの髪をくしゃくしゃと撫で回す姿に、鬘が取れてしまわないかとハラハラしつつ、豪快に笑うミゲルを見上げる。
この人が木を彫ったのだろうか。
太い腕からあんな繊細な物が作れるのだろうかと思うのは失礼なのだろう。

「あー…もし良かったら作りたて何だが貰ってくれるか?」

ミゲルが棚の奥から小箱を取り出してくると、その中にはシュクラがいた

「シュクラ!!」

「あの飛竜が綺麗でさ、つい彫っちまった。店には出せねぇし、どうするかと思っていたんだが良かったら貰ってくれ。あの窓辺の黒い飛竜と対になってんだ。良かったらあっちも」

「えっ!でも…」

セラフィリーアは戸惑いを隠せない、こんなに素晴らしいものなのだから、対価は支払わなくては。
ただ、今の自分の手持ちだけで足りるとは思えない。
アイヴィスが貸してくれるだろうか。
ちらりとアイヴィスを見上げるとアイヴィスからは笑みが帰ってくる。

「遠慮しないで貰っておけばいい。今度近くでシュクラを見たいって言ってくるだろうから、シュクラにお願いをしておけばいいよ」

「お、陛下わかってるね、あの飛竜…ちょーっと近くで見させて貰って、スケッチなんかさせてくれりゃそれでいいんだがなぁ?」

窓際のルディアスをミゲルはつまみ上げてシュクラと一緒に箱に入れる。

「ありがとうございます、シュクラに頼んでみますね!」

シュクラを見ながら、時間があればミゲルをもてなしつつ何かお返しをすればいいかと考えながらセラフィリーアは箱を胸の前で抱く。
帰ったら飾ろう。そう決めて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

処理中です...