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122話

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「キリルは俺が抱いてくよ」

仔猫のキリルはすっぽり腕の中にはいる大きさ。
これからミトさんの家に向かうには少し時間がかかるのだが、距離を考えるとかなりの距離をこの小さな足で駆けてきたと思うと、無事で良かったと思う。

「いや、俺が抱いていく。約束だからレヴィと一緒に魔獣に乗れよ?」

ひょいとリルがキリルの首根っこを掴んで持ち上げ、ジャケットの袷からポイと中に入れるも、キリルはお腹がいっぱいなのか起きる気配がない。
大物になるかも。

「早めに出ないと……野宿が多くなるからな……」

レヴィに抱き上げられて魔獣の背中に乗ると、隣でリルが別の魔獣に乗る。
ふたりが魔獣の脇腹を蹴ると、魔獣は勢い良く駆け出した。

「ちょっと無理をするが、駄目なようだったら早めに言ってくれ」

レヴィの低音が耳元に吹き込まれる。

「ん」

流れる景色と渦巻く風に俺は頷く事しか出来ない。
レヴィに抱き込まれるようになりながら、真剣に前を向くレヴィを横目で見つつ、俺はその広い胸に身体を預けるしか無かった。


☆☆☆☆☆☆☆


「……ミトがいるか?」

魔獣の動きが止まると、少し遠くからリルの声が聞こえてきた。

「ルーファスとミトの子、リルとレヴィ、リクトが来た。
途中でキリルを見つけたから連れてきたが…その両親も居たら呼んでくれ」
「大丈夫か?リクト…下ろすぞ?」

リルとレヴィの声が重なって聞こえる。
ぼんやりとしてしまった俺はレヴィに魔獣から下ろされるとぽかんと辺りを見回してしまった。
其処はあまり大きくない街。
石垣の向こうにはカントリー風の家が建ち並んでいる。
可愛い。
家の庭にリンゴの木とか植わっていてもおかしくないイメージだなぁと思いながら俺はゆっくり伸びをする。
同じ体勢でいたため、色々な所が痛い。

「レヴィも俺がいたから大変だっただろ?ありがと」
「いや、大丈夫だ」

レヴィが手綱を握ってゆっくりと魔獣とリルへと近付く。
すると、門番だろう犬科の獣人が、ウォオと遠吠えのような声を上げた。
それに呼応するようにどこかからか同じような声が届く。
そして直ぐに聞きなれた声がした。

「いやんリクトちゃん!直ぐに逢えると思わなかったわぁ!」

ミトさんだ。
いきなりぎゅうっとハグをされ、ちょっと痛い。

「ミトさん……来ちゃいました」

色々あるけれど、逢えたのは嬉しい。
俺はミトさんを抱き締め返した。
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