【BL】ほれぐすり

梅花

文字の大きさ
1 / 6

1話

しおりを挟む
「……これで、いいかな? 初めて作っちゃったけど……」
 レシピと、僕は目の前の試験管の中身を交互に見た。
 レシピには出来上がった薬液は薄い桃色と書いてあったけれど、どう見てもこれは赤褐色に見える。
 けれど、調合工程に間違いは無い。
 初めてと言ったが、作った回数は既に五回を越えている。
 何度も繰り返して、同じようなものが出来上がったのだから間違いはないと思いたい!
 頼まれた薬は精力剤。
 頼んできたのは依頼者の名誉にかけて多言できないけれど、僕に依頼してくれた時に話をしてあるが精力剤は作ったことがないと伝えたのにもかかわらず、それでもいいと任せてくれた。
 出来上がった薬を小瓶に移し替えているのはフェイ。
 この街一番の薬師と呼ばれているものの本人はそれを知らない。
 柔らかな髪を背中で一つに纏めてはいるが、その髪色は白にも水色にも薄い黄緑にも見える不思議な色をしていた。
「効いてくれるといいな」
 試しに試作したものを飲んでみたりもしたが、効果は特段強く出て危険だと言うことは無かった。
 他人には言えないが、フェイが使ってもそれなりの効果はあったのだ。
 少しでも役に立てればいいなと思いながらフェイは出来上がった精力剤を小瓶に移し替えて次の仕事に取り掛かる。
 向かいの八百屋のおばあちゃんの腰痛の塗り薬。
 目の前の板には購入希望を書いたメモが沢山貼ってあり、それを見ながら順番に作っていく。
「あー……宵待草が少なくなってきちゃったか」
 壁に備え付けた薬箱の中身を見て残が少ない事に今更になって気づいた。ついでだからと一つずつ引き出しを開けると、宵待草と双樹花が少なくなっていた。
 この二種は痛み止めに使うことが多い。
 特に宵待草は痛み止めだけでなく解熱剤にもなるのだ。
「新鮮な物が欲しいから自分で取りに行こうかな……」
 いつもなら、ギルドを通じて採取をお願いするところだけれど、場合によっては時間がかかりすぎる。
 でも、在庫はあるには越したことのない薬草のため自分で採取しながら依頼もしておこうと呟きながらフェイは立ち上がる。
 そして、店の入口に外出中の板を掲げると少し距離があるが歩きでギルドへと向かったのだった。
 フェイはざわざわした喧騒を聞きながら、開いている店の軒先をひやかし歩いていく。時折声を掛けられ薬を依頼される事もある。
「ごめんなさい、在庫のない薬は作らないといけないので後で僕の薬局に来てください」
 症状によって調合を変えることもある薬のため、フェイは無意識に医者の真似事もする時がある。
「さてと、こんにちは」
 一軒の建物の前でフェイは足を止めた、綺麗な彫り物がされている厚い扉を引くと、チリンと高く澄んだ鈴の音がして来訪者を告げると中では可愛らしい女性が立っていた。受付嬢だ。
「いらっしゃいフェイさん」
「こんにちは、今日は薬草の採取をお願いしに来たんです」
 フェイが声を掛けると受付嬢ににこりと微笑まれ、フェイは頭を下げた。
「必要な薬草の種類と数をこちらの用紙に記載してください」
「はい」
 言われるがまま慣れた手つきでフェイは依頼内容を記載して、受付嬢に内容を確認をしてもらったら掲示する許可をするための印を押してもらい壁に掲示すると採取者がそれを見て屋外で採取してきてくれる。
 採取済みの連絡があるとそれを確認して支払いをする。
「承りました」
「数は記載しましたが、あればあっただけありがたいです」
「伝えておきますね?採取連絡がありましたら、ご連絡いたします」
「お願いします」
 いつもの会話を繰り返してからフェイはぺこりと頭を下げて用事が終わったとギルドを出ようとしたところで入ってきた人とぶつかりそうになった。
「うわ、すみません!」
「いや、フェイか」
 上から降ってきたのは低音のよく通る声だった。
「ヴィンセントさん!」
 ぶつかりかけてバランスを崩したフェイを軽々と抱き留めてくれたのはここのギルドマスターであるヴィンセントだった。
「こんにちは……薬草の採取依頼に来ました」
 背中に回された手がゆっくりと離れていく。
「そうか」
 短い返事だったがフェイはヴィンセントの手にそっと触れて軽く爪先立ちをする。
「あ、ヴィンセントさん薬が出来上がってますからいつでもどうぞ」
 ヴィンセントの耳に唇を近付け小さな声で囁く。
 あの薬を頼んできたのは目の前のヴィンセントだった。
 まだ40代のはずなのに冒険者から退き、冒険者時に培った知識を使い冒険者ギルドのマスターになった。
 直接聞いたことはないけれど、どうやらS級冒険者だったと聞く。
「あぁ」
 少し照れたように笑ったヴィンセントは小さく頷いた。
「遅くなっても大丈夫ですから」
 僕は大丈夫ですと笑みを向けてヴィンセントを見上げた。
 小柄なフェイよりも頭ひとつ以上大きなヴィンセントは赤茶の髪を掻き上げて照れたように笑った。
 ヴィンセントはすまないと軽く頭を下げてから、ギルドの中に入っていった。
 がっしりとした肩幅や腕まくりをして見える腕は鍛えたそれで、知り合いの冒険者たちと遜色ないように思えた。
 どうして現役冒険者と遜色がないのに引退してしまったのだろうか。なんてことをつい思ったフェイは頭を振る。
 身体のことは繊細なこともあるし、今回の薬は本当に個人的なことなのだ。
 男のフェイにしか頼めないと頭を下げたヴィンセント。
 女性が多い薬師の世界。この街で男の薬師は今はフェイだけなのだ。
 それまでは街外れに年老いた男性の薬師がいたが、流石にもう引退をすると田舎に帰ったのは半年前の事だ。
「さて、僕も昼食ついでに帰ろうかな」
 朝からずっと調合や診察をしていて、食事が疎かになってしまっていたのを思い出しながら自分の薬屋へと歩き出す。昼に向けてそこここの飯屋からは美味しそうな匂いが漂っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

運命が切れたそのあとは。

めっちゃ抹茶
BL
【本編完結】 オメガのフィアは、憧れていた運命の番と出会えて喜んだのも束の間、運命の番が何者かに刺殺されてしまう。目の前で繰り広げられた惨劇にフィアは意識を失い、倒れてしまう。 呼ばれた救急車で二人は緊急搬送されたものの、フィアは一向に目を覚ます気配がない。 身体の深い奥底で繋がっているという運命。それがぷつりと切れたら果たして二人はどうなってしまうのか。そして目を覚ました先に目にしたものとは————。 投稿予約分(4話)は毎日更新。あと数話で完結予定。 遅筆&亀更新なのでゆっくりお待ちいただければ幸いです。見切り発車の突貫工事で書いたお話故、構想はあれど最後まで書き切っておらず、内容に纏まりがないかもしれませんが温かい目で見てください🙏

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

処理中です...