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1話
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「……これで、いいかな? 初めて作っちゃったけど……」
レシピと、僕は目の前の試験管の中身を交互に見た。
レシピには出来上がった薬液は薄い桃色と書いてあったけれど、どう見てもこれは赤褐色に見える。
けれど、調合工程に間違いは無い。
初めてと言ったが、作った回数は既に五回を越えている。
何度も繰り返して、同じようなものが出来上がったのだから間違いはないと思いたい!
頼まれた薬は精力剤。
頼んできたのは依頼者の名誉にかけて多言できないけれど、僕に依頼してくれた時に話をしてあるが精力剤は作ったことがないと伝えたのにもかかわらず、それでもいいと任せてくれた。
出来上がった薬を小瓶に移し替えているのはフェイ。
この街一番の薬師と呼ばれているものの本人はそれを知らない。
柔らかな髪を背中で一つに纏めてはいるが、その髪色は白にも水色にも薄い黄緑にも見える不思議な色をしていた。
「効いてくれるといいな」
試しに試作したものを飲んでみたりもしたが、効果は特段強く出て危険だと言うことは無かった。
他人には言えないが、フェイが使ってもそれなりの効果はあったのだ。
少しでも役に立てればいいなと思いながらフェイは出来上がった精力剤を小瓶に移し替えて次の仕事に取り掛かる。
向かいの八百屋のおばあちゃんの腰痛の塗り薬。
目の前の板には購入希望を書いたメモが沢山貼ってあり、それを見ながら順番に作っていく。
「あー……宵待草が少なくなってきちゃったか」
壁に備え付けた薬箱の中身を見て残が少ない事に今更になって気づいた。ついでだからと一つずつ引き出しを開けると、宵待草と双樹花が少なくなっていた。
この二種は痛み止めに使うことが多い。
特に宵待草は痛み止めだけでなく解熱剤にもなるのだ。
「新鮮な物が欲しいから自分で取りに行こうかな……」
いつもなら、ギルドを通じて採取をお願いするところだけれど、場合によっては時間がかかりすぎる。
でも、在庫はあるには越したことのない薬草のため自分で採取しながら依頼もしておこうと呟きながらフェイは立ち上がる。
そして、店の入口に外出中の板を掲げると少し距離があるが歩きでギルドへと向かったのだった。
フェイはざわざわした喧騒を聞きながら、開いている店の軒先をひやかし歩いていく。時折声を掛けられ薬を依頼される事もある。
「ごめんなさい、在庫のない薬は作らないといけないので後で僕の薬局に来てください」
症状によって調合を変えることもある薬のため、フェイは無意識に医者の真似事もする時がある。
「さてと、こんにちは」
一軒の建物の前でフェイは足を止めた、綺麗な彫り物がされている厚い扉を引くと、チリンと高く澄んだ鈴の音がして来訪者を告げると中では可愛らしい女性が立っていた。受付嬢だ。
「いらっしゃいフェイさん」
「こんにちは、今日は薬草の採取をお願いしに来たんです」
フェイが声を掛けると受付嬢ににこりと微笑まれ、フェイは頭を下げた。
「必要な薬草の種類と数をこちらの用紙に記載してください」
「はい」
言われるがまま慣れた手つきでフェイは依頼内容を記載して、受付嬢に内容を確認をしてもらったら掲示する許可をするための印を押してもらい壁に掲示すると採取者がそれを見て屋外で採取してきてくれる。
採取済みの連絡があるとそれを確認して支払いをする。
「承りました」
「数は記載しましたが、あればあっただけありがたいです」
「伝えておきますね?採取連絡がありましたら、ご連絡いたします」
「お願いします」
いつもの会話を繰り返してからフェイはぺこりと頭を下げて用事が終わったとギルドを出ようとしたところで入ってきた人とぶつかりそうになった。
「うわ、すみません!」
「いや、フェイか」
上から降ってきたのは低音のよく通る声だった。
「ヴィンセントさん!」
ぶつかりかけてバランスを崩したフェイを軽々と抱き留めてくれたのはここのギルドマスターであるヴィンセントだった。
「こんにちは……薬草の採取依頼に来ました」
背中に回された手がゆっくりと離れていく。
「そうか」
短い返事だったがフェイはヴィンセントの手にそっと触れて軽く爪先立ちをする。
「あ、ヴィンセントさん薬が出来上がってますからいつでもどうぞ」
ヴィンセントの耳に唇を近付け小さな声で囁く。
あの薬を頼んできたのは目の前のヴィンセントだった。
まだ40代のはずなのに冒険者から退き、冒険者時に培った知識を使い冒険者ギルドのマスターになった。
直接聞いたことはないけれど、どうやらS級冒険者だったと聞く。
「あぁ」
少し照れたように笑ったヴィンセントは小さく頷いた。
「遅くなっても大丈夫ですから」
僕は大丈夫ですと笑みを向けてヴィンセントを見上げた。
小柄なフェイよりも頭ひとつ以上大きなヴィンセントは赤茶の髪を掻き上げて照れたように笑った。
ヴィンセントはすまないと軽く頭を下げてから、ギルドの中に入っていった。
がっしりとした肩幅や腕まくりをして見える腕は鍛えたそれで、知り合いの冒険者たちと遜色ないように思えた。
どうして現役冒険者と遜色がないのに引退してしまったのだろうか。なんてことをつい思ったフェイは頭を振る。
身体のことは繊細なこともあるし、今回の薬は本当に個人的なことなのだ。
男のフェイにしか頼めないと頭を下げたヴィンセント。
女性が多い薬師の世界。この街で男の薬師は今はフェイだけなのだ。
それまでは街外れに年老いた男性の薬師がいたが、流石にもう引退をすると田舎に帰ったのは半年前の事だ。
「さて、僕も昼食ついでに帰ろうかな」
朝からずっと調合や診察をしていて、食事が疎かになってしまっていたのを思い出しながら自分の薬屋へと歩き出す。昼に向けてそこここの飯屋からは美味しそうな匂いが漂っていた。
レシピと、僕は目の前の試験管の中身を交互に見た。
レシピには出来上がった薬液は薄い桃色と書いてあったけれど、どう見てもこれは赤褐色に見える。
けれど、調合工程に間違いは無い。
初めてと言ったが、作った回数は既に五回を越えている。
何度も繰り返して、同じようなものが出来上がったのだから間違いはないと思いたい!
頼まれた薬は精力剤。
頼んできたのは依頼者の名誉にかけて多言できないけれど、僕に依頼してくれた時に話をしてあるが精力剤は作ったことがないと伝えたのにもかかわらず、それでもいいと任せてくれた。
出来上がった薬を小瓶に移し替えているのはフェイ。
この街一番の薬師と呼ばれているものの本人はそれを知らない。
柔らかな髪を背中で一つに纏めてはいるが、その髪色は白にも水色にも薄い黄緑にも見える不思議な色をしていた。
「効いてくれるといいな」
試しに試作したものを飲んでみたりもしたが、効果は特段強く出て危険だと言うことは無かった。
他人には言えないが、フェイが使ってもそれなりの効果はあったのだ。
少しでも役に立てればいいなと思いながらフェイは出来上がった精力剤を小瓶に移し替えて次の仕事に取り掛かる。
向かいの八百屋のおばあちゃんの腰痛の塗り薬。
目の前の板には購入希望を書いたメモが沢山貼ってあり、それを見ながら順番に作っていく。
「あー……宵待草が少なくなってきちゃったか」
壁に備え付けた薬箱の中身を見て残が少ない事に今更になって気づいた。ついでだからと一つずつ引き出しを開けると、宵待草と双樹花が少なくなっていた。
この二種は痛み止めに使うことが多い。
特に宵待草は痛み止めだけでなく解熱剤にもなるのだ。
「新鮮な物が欲しいから自分で取りに行こうかな……」
いつもなら、ギルドを通じて採取をお願いするところだけれど、場合によっては時間がかかりすぎる。
でも、在庫はあるには越したことのない薬草のため自分で採取しながら依頼もしておこうと呟きながらフェイは立ち上がる。
そして、店の入口に外出中の板を掲げると少し距離があるが歩きでギルドへと向かったのだった。
フェイはざわざわした喧騒を聞きながら、開いている店の軒先をひやかし歩いていく。時折声を掛けられ薬を依頼される事もある。
「ごめんなさい、在庫のない薬は作らないといけないので後で僕の薬局に来てください」
症状によって調合を変えることもある薬のため、フェイは無意識に医者の真似事もする時がある。
「さてと、こんにちは」
一軒の建物の前でフェイは足を止めた、綺麗な彫り物がされている厚い扉を引くと、チリンと高く澄んだ鈴の音がして来訪者を告げると中では可愛らしい女性が立っていた。受付嬢だ。
「いらっしゃいフェイさん」
「こんにちは、今日は薬草の採取をお願いしに来たんです」
フェイが声を掛けると受付嬢ににこりと微笑まれ、フェイは頭を下げた。
「必要な薬草の種類と数をこちらの用紙に記載してください」
「はい」
言われるがまま慣れた手つきでフェイは依頼内容を記載して、受付嬢に内容を確認をしてもらったら掲示する許可をするための印を押してもらい壁に掲示すると採取者がそれを見て屋外で採取してきてくれる。
採取済みの連絡があるとそれを確認して支払いをする。
「承りました」
「数は記載しましたが、あればあっただけありがたいです」
「伝えておきますね?採取連絡がありましたら、ご連絡いたします」
「お願いします」
いつもの会話を繰り返してからフェイはぺこりと頭を下げて用事が終わったとギルドを出ようとしたところで入ってきた人とぶつかりそうになった。
「うわ、すみません!」
「いや、フェイか」
上から降ってきたのは低音のよく通る声だった。
「ヴィンセントさん!」
ぶつかりかけてバランスを崩したフェイを軽々と抱き留めてくれたのはここのギルドマスターであるヴィンセントだった。
「こんにちは……薬草の採取依頼に来ました」
背中に回された手がゆっくりと離れていく。
「そうか」
短い返事だったがフェイはヴィンセントの手にそっと触れて軽く爪先立ちをする。
「あ、ヴィンセントさん薬が出来上がってますからいつでもどうぞ」
ヴィンセントの耳に唇を近付け小さな声で囁く。
あの薬を頼んできたのは目の前のヴィンセントだった。
まだ40代のはずなのに冒険者から退き、冒険者時に培った知識を使い冒険者ギルドのマスターになった。
直接聞いたことはないけれど、どうやらS級冒険者だったと聞く。
「あぁ」
少し照れたように笑ったヴィンセントは小さく頷いた。
「遅くなっても大丈夫ですから」
僕は大丈夫ですと笑みを向けてヴィンセントを見上げた。
小柄なフェイよりも頭ひとつ以上大きなヴィンセントは赤茶の髪を掻き上げて照れたように笑った。
ヴィンセントはすまないと軽く頭を下げてから、ギルドの中に入っていった。
がっしりとした肩幅や腕まくりをして見える腕は鍛えたそれで、知り合いの冒険者たちと遜色ないように思えた。
どうして現役冒険者と遜色がないのに引退してしまったのだろうか。なんてことをつい思ったフェイは頭を振る。
身体のことは繊細なこともあるし、今回の薬は本当に個人的なことなのだ。
男のフェイにしか頼めないと頭を下げたヴィンセント。
女性が多い薬師の世界。この街で男の薬師は今はフェイだけなのだ。
それまでは街外れに年老いた男性の薬師がいたが、流石にもう引退をすると田舎に帰ったのは半年前の事だ。
「さて、僕も昼食ついでに帰ろうかな」
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