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2話
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朝食兼昼食として、野菜たっぷりの雑炊と鶏肉の揚げ物を買ってから帰路に着く。
自分で作ることも多いが、つい料理に割く時間をもったいないと思ってしまい料理を届けてもらったり、頂き物を食事にしてしまう。
薬屋は休みはあってないようなものだ。医者に行くような怪我や病気ではないと自己判断をした人たちが直接買いに来るため、深夜でも扉を叩かれればフェイは応対する。
子供が熱を出した。包丁で指を切った。歯が痛いから痛み止めが欲しい。
具合が悪くなるのは日中だけではなく夜間が多いのと、患者は様々な理由からか医者にかかっている時間がないというのもある。
それを知っているフェイは自分が作った薬を渡すときに、必ずお医者さんに診てもらってくださいねとは一言添えるようにはしている。
「ふは、美味しかった」
自宅での一人の食事は慣れるまでは寂しかったがもう慣れた。この街に辿り着いてからはずっと一人なのだ。
「ごちそうさま」
食事の入っていた持ち帰り用の容器を軽く水で軽くすすぐとゴミ箱に入れる。
まだ、日が暮れるには時間があり手持ちの材料で作れる範囲の薬剤を作ろうと調合台に座り、薬の調合に入ると気づいたら陽が傾いていた。
「いけない!明かりを入れなきゃ」
慌てて手元の小さなランプに火を入れる。
ほんのりと部屋の中が明るくなって、部屋の端々に置いてあるランプをひとつずつ灯す。
「ヴィンセントさんが今夜来るかな? 来なくてもいいんだけど……ひと段落したから夕飯にしようかな」
昼は軽めのものを取ったから、夜はちょっとしっかりしたものが食べたいと思いながら、店から続く扉を開く。
そこはあまり大きくないキッチンとその奥に寝室。
もう一枚扉をくぐると風呂とトイレ。
本当に数歩で終わってしまうような小さな部屋だが、一人で住むにはそれでいいと決めたのは自分だった。
一軒家ではあるが、隣の家とは細い路地で隔たれているだけで窓を開けたら隣の家の様子がよくわかってしまうような作りなのだ。
「ここだけ開けておけばヴィンセントさんもわかってくれるかな?」
そう言いながら扉を開けたまま、キッチンに立つ。
残っていた干し肉ともらった野菜を塩と少量の胡椒で炒めとろみをつけた餡を絡めつつ茹で上がった麺をしっかり湯切りしてからその上に作ったばかりの熱々の野菜餡をかける。
食材として胡椒を使えるのは薬屋の特権かもしれない。
「いい香り。いただきます」
鍋の半分をフェイは皿に盛ってからキッチン脇に置いた平置きのちゃぶ台と床に座って食事を始めると、扉にノックがあった。
「どうぞー」
フェイが声を掛けると扉が静かに開く。
そこにいたのはヴィンセントだった。
「いらっしゃいませ」
「薬を取りに来た……が、いい匂いだな」
「こんばんは。ヴィンセントさんは夕飯食べて……ませんよね、きっとギルドが閉まったくらいの時間ですもんね。よかったら僕の作ったものですが食べていきます?」
他人に食事をふるまったことはあまりないが、少し多めに作ってある。でも、ヴィンセントの食事には足りないかもしれないけれど。
「いいのか?」
「大丈夫ですよ? ただ僕の味付けですからお口に合わないかも」
「いや、いただこう」
フェイは立ち上がってからまだ残っていたそばを別の皿に乗せた。
「そちらの机でどうぞ」
流石に自分の自室では狭いため、自分の食べかけの皿と一緒に診察用の机に運ぶ。
そして、フォークや椅子を用意すると、お茶を淹れた。
質素な食事だが、一般人ならこんなものだろう。
「待て、これは胡椒か?」
「あ、少しだけ入れました。苦手ですか?」
「いや?こんな高価な食事を食べてしまって大丈夫だろうか」
手にしたフォークが止まったヴィンセントにフェイは大丈夫ですと手を振った。それもそのはず胡椒は金と同じ価値がある。のは、昔の話で今はもっと安価だけれど、それでもまだ料理に使うほどは安くない。
「もうだいぶ古くて薬にはならないですから、そういうのは瓶に詰めて使ってしまうようにしてるんですよ」
「元々は薬か」
「そうなんですけど、美味しいのでつい……」
そう他愛もない話をしながら、ヴィンセントはぺろりと餡掛けそばを食べてしまった。
「お口に合いました?」
「あぁ、とても美味かった……食事の材料費くらいは支払わせてくれ」
フォークを置いたヴィンセントはポケットから小銭入れを取り出した。
「いえいえ、初めて誰かと夕食を食べることができたので、逆にありがとうございますとお礼を言わなければならないのは僕ですから。お茶、もう一杯いかがですか?」
フェイは立ち上がると小さなポットを見せる。
もう温くなってしまったかもしれないが、薬草採取の時に見つけると一緒に採取をしてから天日乾燥させてお茶にする葉。
「このお茶も美味いな」
「よかったらどうぞ」
飲みかけのカップに注いで座り直そうとしてふと、薬を渡さないといけないと思い薬箱に近寄り引き出しを引いた。
中に入っているのは小さな瓶の中に入れられた赤褐色の液体。
瓶は親指の先端から付け根くらいまでの長さと太さだ。
それが五本。
必要になる半刻ほど前に飲めば、効くはずだ。
その小瓶を紙袋に入れて、口は閉じずにヴィンセントに差し出した。
「ご依頼いただいていた薬です……上手く効けばいいのですが」
紙袋ごと受け取ったヴィンセントは中身を見てからその中の一本を取り出した。
親指と人差し指で挟むようにして中の液体を明かりに透かす。
「もし、飲んで効かないとか……効きすぎるなんてことがあったら教えていただければ調整しますので」
「試したのか?」
「え、いえ……あの、僕は……」
「若いから必要ない……か?」
クスクスと笑いながら問われてもフェイは何も言えなくなってしまう。
「あー……試してはみましたが、今までそうなりたいと思わなかった……のでと言うか、恋人いない……いた事がないので、使う必要が……なくて」
無理やりにこりと笑みを浮かべてから何とかそれだけを絞り出した。
「まさか! フェイがか?」
ヴィンセントに驚かれて僕はこくりと頷いた。
男性として好まれる容姿は目の前のヴィンセントのような容姿。
高い身長、長い足。
逞しい腕。
低く良く通る声も耳に心地よい。
「僕には必要ない薬なんですよー……逆に飲んだら処理に困ると思います」
「なら、俺が処理してやろうか?」
ヴィンセントはひょいと眉を上げてそう言った言葉にフェイは動きを止めた。
自分で作ることも多いが、つい料理に割く時間をもったいないと思ってしまい料理を届けてもらったり、頂き物を食事にしてしまう。
薬屋は休みはあってないようなものだ。医者に行くような怪我や病気ではないと自己判断をした人たちが直接買いに来るため、深夜でも扉を叩かれればフェイは応対する。
子供が熱を出した。包丁で指を切った。歯が痛いから痛み止めが欲しい。
具合が悪くなるのは日中だけではなく夜間が多いのと、患者は様々な理由からか医者にかかっている時間がないというのもある。
それを知っているフェイは自分が作った薬を渡すときに、必ずお医者さんに診てもらってくださいねとは一言添えるようにはしている。
「ふは、美味しかった」
自宅での一人の食事は慣れるまでは寂しかったがもう慣れた。この街に辿り着いてからはずっと一人なのだ。
「ごちそうさま」
食事の入っていた持ち帰り用の容器を軽く水で軽くすすぐとゴミ箱に入れる。
まだ、日が暮れるには時間があり手持ちの材料で作れる範囲の薬剤を作ろうと調合台に座り、薬の調合に入ると気づいたら陽が傾いていた。
「いけない!明かりを入れなきゃ」
慌てて手元の小さなランプに火を入れる。
ほんのりと部屋の中が明るくなって、部屋の端々に置いてあるランプをひとつずつ灯す。
「ヴィンセントさんが今夜来るかな? 来なくてもいいんだけど……ひと段落したから夕飯にしようかな」
昼は軽めのものを取ったから、夜はちょっとしっかりしたものが食べたいと思いながら、店から続く扉を開く。
そこはあまり大きくないキッチンとその奥に寝室。
もう一枚扉をくぐると風呂とトイレ。
本当に数歩で終わってしまうような小さな部屋だが、一人で住むにはそれでいいと決めたのは自分だった。
一軒家ではあるが、隣の家とは細い路地で隔たれているだけで窓を開けたら隣の家の様子がよくわかってしまうような作りなのだ。
「ここだけ開けておけばヴィンセントさんもわかってくれるかな?」
そう言いながら扉を開けたまま、キッチンに立つ。
残っていた干し肉ともらった野菜を塩と少量の胡椒で炒めとろみをつけた餡を絡めつつ茹で上がった麺をしっかり湯切りしてからその上に作ったばかりの熱々の野菜餡をかける。
食材として胡椒を使えるのは薬屋の特権かもしれない。
「いい香り。いただきます」
鍋の半分をフェイは皿に盛ってからキッチン脇に置いた平置きのちゃぶ台と床に座って食事を始めると、扉にノックがあった。
「どうぞー」
フェイが声を掛けると扉が静かに開く。
そこにいたのはヴィンセントだった。
「いらっしゃいませ」
「薬を取りに来た……が、いい匂いだな」
「こんばんは。ヴィンセントさんは夕飯食べて……ませんよね、きっとギルドが閉まったくらいの時間ですもんね。よかったら僕の作ったものですが食べていきます?」
他人に食事をふるまったことはあまりないが、少し多めに作ってある。でも、ヴィンセントの食事には足りないかもしれないけれど。
「いいのか?」
「大丈夫ですよ? ただ僕の味付けですからお口に合わないかも」
「いや、いただこう」
フェイは立ち上がってからまだ残っていたそばを別の皿に乗せた。
「そちらの机でどうぞ」
流石に自分の自室では狭いため、自分の食べかけの皿と一緒に診察用の机に運ぶ。
そして、フォークや椅子を用意すると、お茶を淹れた。
質素な食事だが、一般人ならこんなものだろう。
「待て、これは胡椒か?」
「あ、少しだけ入れました。苦手ですか?」
「いや?こんな高価な食事を食べてしまって大丈夫だろうか」
手にしたフォークが止まったヴィンセントにフェイは大丈夫ですと手を振った。それもそのはず胡椒は金と同じ価値がある。のは、昔の話で今はもっと安価だけれど、それでもまだ料理に使うほどは安くない。
「もうだいぶ古くて薬にはならないですから、そういうのは瓶に詰めて使ってしまうようにしてるんですよ」
「元々は薬か」
「そうなんですけど、美味しいのでつい……」
そう他愛もない話をしながら、ヴィンセントはぺろりと餡掛けそばを食べてしまった。
「お口に合いました?」
「あぁ、とても美味かった……食事の材料費くらいは支払わせてくれ」
フォークを置いたヴィンセントはポケットから小銭入れを取り出した。
「いえいえ、初めて誰かと夕食を食べることができたので、逆にありがとうございますとお礼を言わなければならないのは僕ですから。お茶、もう一杯いかがですか?」
フェイは立ち上がると小さなポットを見せる。
もう温くなってしまったかもしれないが、薬草採取の時に見つけると一緒に採取をしてから天日乾燥させてお茶にする葉。
「このお茶も美味いな」
「よかったらどうぞ」
飲みかけのカップに注いで座り直そうとしてふと、薬を渡さないといけないと思い薬箱に近寄り引き出しを引いた。
中に入っているのは小さな瓶の中に入れられた赤褐色の液体。
瓶は親指の先端から付け根くらいまでの長さと太さだ。
それが五本。
必要になる半刻ほど前に飲めば、効くはずだ。
その小瓶を紙袋に入れて、口は閉じずにヴィンセントに差し出した。
「ご依頼いただいていた薬です……上手く効けばいいのですが」
紙袋ごと受け取ったヴィンセントは中身を見てからその中の一本を取り出した。
親指と人差し指で挟むようにして中の液体を明かりに透かす。
「もし、飲んで効かないとか……効きすぎるなんてことがあったら教えていただければ調整しますので」
「試したのか?」
「え、いえ……あの、僕は……」
「若いから必要ない……か?」
クスクスと笑いながら問われてもフェイは何も言えなくなってしまう。
「あー……試してはみましたが、今までそうなりたいと思わなかった……のでと言うか、恋人いない……いた事がないので、使う必要が……なくて」
無理やりにこりと笑みを浮かべてから何とかそれだけを絞り出した。
「まさか! フェイがか?」
ヴィンセントに驚かれて僕はこくりと頷いた。
男性として好まれる容姿は目の前のヴィンセントのような容姿。
高い身長、長い足。
逞しい腕。
低く良く通る声も耳に心地よい。
「僕には必要ない薬なんですよー……逆に飲んだら処理に困ると思います」
「なら、俺が処理してやろうか?」
ヴィンセントはひょいと眉を上げてそう言った言葉にフェイは動きを止めた。
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