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8話
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大股で足早に歩くベルナルドの顔を見上げるような形で抱かれているフェンリエッタ。
美形はどこから見ても完璧なのね。
そう思っているうちに医務室へと到着した。
「失礼します」
人が近付くと自動で開くドアをくぐって室内に入ると、丁度保険医は不在のようだった。
「取り敢えず冷やす…か?」
手慣れた様子でタオルを取り出し、水に濡らしてから絞ると差し出してくる。
私はきっと、このタオルがあの棚に入っているなんてわからずに探していただろう。
「もう痛みはあまりありませんし、大丈夫ですよ?」
ベルナルドに座るよう促されて、患者用の椅子に腰かける。
頬にタオルを当てて様子をみるも、女性の力で叩かれたのと爪が皮膚をかすらなかった事もあり、痛みはその場だけで腫れてもいなそうだとフェンリエッタは思う。
誰かに叩かれた記憶など1度もないからか、少し驚いただけなのだ。
それより何より、あのときのフェルディナンドとマリアの顔を思い出すと顔が笑ってしまう。
「馬車は待たせてありますか?今日はこのまま侯爵家へと向かうのでしょう?」
「はい。お父様にもそうするようにと…」
「ならば、何かあってはいけませんが、私の馬車でお送りして昨日と今日の謝罪と説明を」
「大丈夫ですわ、些末な事ですもの」
流石に婚約破棄は些末な事ではないが、もう済んでしまった事は仕方ない。
昨日のうちに簡単な手紙を送ってはあるため、今頃父は王宮に登城したことだろう。
「それに、ベルナルド様も色々とお仕度もありますでしょう?」
早くお帰りあそばせ。
とは言えないが、昨日の求婚は無かったことにしたいし、父親に会わせるなんてもっての他だ。
「気にしなくていいよ、じゃあ馬車の手配をしてくるから此処にいてくださいね…王子達が来なければいいけれど」
ひとりにしておくのは心配だとベルナルドはちらりとこちらを見てきた。
「もう行けますわ…残ってしまっては他の生徒の邪魔になりますもの」
「そうですか、なら寮までは一緒に」
優しい気遣いにありがたいとは思うけれど、従者でも恋人でもない男性とふたりで歩くこと…まぁ、これ以上悪評が立つことはないかと、諦めて差し出された手を取った。
たぶん、ベルナルドには何を言っても上手く丸め込まれそうな気がする。
何年も学業で1位を、とってきただけはある。
また、あまり接点がなく話したことは無かったが、社交も悪くはない。
比べるにはベルナルドに失礼だが、あのどこぞの王子とは雲泥の差なのだ。
「よろしくお願いいたします」
借りてしまった医務室のタオルと、ベルナルドのハンカチは返さなければと思いながら握り締めていたのだった。
美形はどこから見ても完璧なのね。
そう思っているうちに医務室へと到着した。
「失礼します」
人が近付くと自動で開くドアをくぐって室内に入ると、丁度保険医は不在のようだった。
「取り敢えず冷やす…か?」
手慣れた様子でタオルを取り出し、水に濡らしてから絞ると差し出してくる。
私はきっと、このタオルがあの棚に入っているなんてわからずに探していただろう。
「もう痛みはあまりありませんし、大丈夫ですよ?」
ベルナルドに座るよう促されて、患者用の椅子に腰かける。
頬にタオルを当てて様子をみるも、女性の力で叩かれたのと爪が皮膚をかすらなかった事もあり、痛みはその場だけで腫れてもいなそうだとフェンリエッタは思う。
誰かに叩かれた記憶など1度もないからか、少し驚いただけなのだ。
それより何より、あのときのフェルディナンドとマリアの顔を思い出すと顔が笑ってしまう。
「馬車は待たせてありますか?今日はこのまま侯爵家へと向かうのでしょう?」
「はい。お父様にもそうするようにと…」
「ならば、何かあってはいけませんが、私の馬車でお送りして昨日と今日の謝罪と説明を」
「大丈夫ですわ、些末な事ですもの」
流石に婚約破棄は些末な事ではないが、もう済んでしまった事は仕方ない。
昨日のうちに簡単な手紙を送ってはあるため、今頃父は王宮に登城したことだろう。
「それに、ベルナルド様も色々とお仕度もありますでしょう?」
早くお帰りあそばせ。
とは言えないが、昨日の求婚は無かったことにしたいし、父親に会わせるなんてもっての他だ。
「気にしなくていいよ、じゃあ馬車の手配をしてくるから此処にいてくださいね…王子達が来なければいいけれど」
ひとりにしておくのは心配だとベルナルドはちらりとこちらを見てきた。
「もう行けますわ…残ってしまっては他の生徒の邪魔になりますもの」
「そうですか、なら寮までは一緒に」
優しい気遣いにありがたいとは思うけれど、従者でも恋人でもない男性とふたりで歩くこと…まぁ、これ以上悪評が立つことはないかと、諦めて差し出された手を取った。
たぶん、ベルナルドには何を言っても上手く丸め込まれそうな気がする。
何年も学業で1位を、とってきただけはある。
また、あまり接点がなく話したことは無かったが、社交も悪くはない。
比べるにはベルナルドに失礼だが、あのどこぞの王子とは雲泥の差なのだ。
「よろしくお願いいたします」
借りてしまった医務室のタオルと、ベルナルドのハンカチは返さなければと思いながら握り締めていたのだった。
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