言の葉のかけら

歌川ピロシキ

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とある戦士に寄せる追想

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 滴るような緑の梢がそよそよと風に揺れる。陽光を浴びて輝く青々とした葉の向こうには、どこまでも澄み渡る蒼い空。
 小鳥たちのさえずりに混じって、柔らかなテノールが穏やかに聖典クルアーンを暗誦している。明るく澄んだ声は山の清浄な空気に吸い込まれ、あの青空の彼方へとどこまでも昇っていく。

 キュイィ……

 大気を切り裂くエンジン音。空の一角で何かが白く輝く。
 数拍して鈍い爆発音。ぱらぱらと吹き飛ばされた岩の破片が降り注ぐ。
 その間も止まぬ祈りの声。
 頭上では銀の翼を翻し、優雅なフォルムの戦闘機が飛び去ってゆく。

 ズズズ……ン

 今度は腹に響く低い音。びりびりと画面が揺れる。絶え間なく降り注ぐ石つぶて。激しい砲撃が加えられているのだろう。

 甲高い風切り音と低い爆発音がたて続き、画面が激しく揺れる中、今は亡き若者の祈りの声がただ静かに響き続ける。
 神は偉大なりAllāhu akbar、と。

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