輝く泉

歌川ピロシキ

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忘れればうまくいく?

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「どういうこと?」

「運命はたしかに勝手にやってくるものだけど、それを選んでつかみ取るのは自分自身だろう?」

「何それ……」

「だって、相性が悪い勤め先も、嘘つきで横暴な恋人も、選んだのは君自身だろう?」

「それは……運が悪くて……騙されてただけで……」

「だからさ。全部忘れてしまったら、また同じものを選んでしまうんじゃないかな、君は」

「なんですって……」

 あんまりな言い様に思わずむっとしてにらみつけるが、彼は全く動じない。

「何もかも他人のせいにして、都合の悪い事はなかったことにしても、君自身は何も変わらないよ」

「な……何も知らないくせに……っ!」

 何をわかったようなことを、したり顔で言っているんだろう。

「そうだね、君のことは君にしかわからない。だから、そうやって自分で自分に言い訳して、一人でいじけているだけなら、この先もずっと同じことの繰り返しだよ」

 突き放すような言葉とともに、不意に彼の姿が消えた。

「僕が代償としていただくのは大切な記憶だ。逃げ出したい、忘れたいだけの記憶なんて、差し出されたところで迷惑なだけだ」

 囁く声が夜の空気に消えていく。

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