18 / 32
お花畑転生娘と大監獄
お花畑転生娘と現実逃避
しおりを挟む
どのくらい呆然としていたのだろう。微かなノックに気がつくと、あたりはすっかり暗くなっていた。
「お腹がすいたでしょう? 夕食をお持ちしました。大したものはありませんが召し上がれ」
湯気のあがったスープにパン、ふかした芋が載ったトレイを持ったマリーローズが入ってきた。机の上に食事を置き、ミラに椅子に座るよう促すが、ミラは反応しない。
「さすがに結審したばかりで疲れましたか?」
寝台の端に座り込んだままのミラの隣まで来て顔を覗き込むと、何やらブツブツ言っている。
「ミッション失敗のペナルティが処刑エンドなんてあんまりよ。モブも悪役令嬢もシナリオ無視して好き勝手やってるのにあたしにどうしろって言うの」
どうやらミラはこの期に及んでも未だにこの世界をあくまで乙女ゲームと同じものとしか見ていないようだ。その頑なさにマリーローズは一瞬だけ呆れたようにため息をつくが、すぐ微笑を作って優しく語りかけた。
「お食事が冷めてしまいますよ。あまり贅沢なものではないので、温かいうちでないと美味しくいただけません」
度重なる拷問で心身が弱っている今は厳しく接したところで現実を受け入れられないだろう。ミラにはきちんと己の行いに向き合わせ、自分が何をしてきたのか理解させてから刑を執行したい。
そのためには今は身体の傷を癒して休息を取らせ、優しく接して安心出来る環境にしなければ。
マリーローズは我が身を憐れむだけの自己中心的な彼女にいささかうんざりしたものの、終始穏やかに語りかけながらなんとか食事をとらせた。食べさせられながらいつの間にかうつらうつらと船をこぎ始める姿は哀れを誘い、もはや怒る気にもなれない。
一応、スープは全て食べさせることができたがパンと芋はうまく飲み込めないようだ。思いのほか衰弱が激しいな、とマリーローズは翌日からの食事を工夫することにする。
翌朝ミラが目を覚ましたのを見計らったかのようなタイミングでマリーローズが独房を訪れた。手にしたタライには湯気を立てた湯が張られており、肩には清潔そうなタオルが二枚かかっている。
「お行儀が悪くてごめんなさいね。人手が足りなくて、一人ではこうしないと一度に持ち運びきれなかったんです」
苦笑するマリーローズにミラは首を傾げる。一体どうする気かと思うと、マリーローズはタオルを一枚湯に浸して固く絞ると寝起きでぼうっとしたままのミラの身体を手早く拭き清め始めた。
「寝汗がひどかったようですから身体はしっかり拭いておきましょう」
「……?」
「さ、顔はご自分で洗ってください。申しわけないのだけれど、今朝は忙しくてあまり時間がとれません。身支度が済んだらすぐ朝食にしますから」
寝起きのはっきりしない頭で手早く身を清められたミラは促されるまま顔を洗うと、差し出されたタオルで顔を拭く。古びてはいるが清潔な布は肌触りが良い。
その間にマリーローズはミラの髪を軽く整えようとして眉をしかめる。
「だいぶ洗ってないから痛んでゴワゴワですね。あちこち毛玉だらけですし。今はちょっと時間がないから、夕方にでも入浴できるようにしますね。髪油も用意しなければ」
「え……?」
思いもかけない言葉にミラはあ然とする。
取り調べのために拘留されていた尋問房では入浴はおろか、冷たい水で顔を拭くことすら許されなかった。それが今朝は温かな湯で顔も身体もきちんと清められたうえ、夜には入浴させてくれるという。
自分は死刑囚なのに。
国中に嫌われ、憎まれて、ただ処刑を待つだけの身のはずなのに、なぜここまでしてくれるのだろう? ミラは数か月ぶりにさっぱりした身体の感触に戸惑い、思ってもみなかった手厚い扱いにただただ呆然とするしかなかった。
「お腹がすいたでしょう? 夕食をお持ちしました。大したものはありませんが召し上がれ」
湯気のあがったスープにパン、ふかした芋が載ったトレイを持ったマリーローズが入ってきた。机の上に食事を置き、ミラに椅子に座るよう促すが、ミラは反応しない。
「さすがに結審したばかりで疲れましたか?」
寝台の端に座り込んだままのミラの隣まで来て顔を覗き込むと、何やらブツブツ言っている。
「ミッション失敗のペナルティが処刑エンドなんてあんまりよ。モブも悪役令嬢もシナリオ無視して好き勝手やってるのにあたしにどうしろって言うの」
どうやらミラはこの期に及んでも未だにこの世界をあくまで乙女ゲームと同じものとしか見ていないようだ。その頑なさにマリーローズは一瞬だけ呆れたようにため息をつくが、すぐ微笑を作って優しく語りかけた。
「お食事が冷めてしまいますよ。あまり贅沢なものではないので、温かいうちでないと美味しくいただけません」
度重なる拷問で心身が弱っている今は厳しく接したところで現実を受け入れられないだろう。ミラにはきちんと己の行いに向き合わせ、自分が何をしてきたのか理解させてから刑を執行したい。
そのためには今は身体の傷を癒して休息を取らせ、優しく接して安心出来る環境にしなければ。
マリーローズは我が身を憐れむだけの自己中心的な彼女にいささかうんざりしたものの、終始穏やかに語りかけながらなんとか食事をとらせた。食べさせられながらいつの間にかうつらうつらと船をこぎ始める姿は哀れを誘い、もはや怒る気にもなれない。
一応、スープは全て食べさせることができたがパンと芋はうまく飲み込めないようだ。思いのほか衰弱が激しいな、とマリーローズは翌日からの食事を工夫することにする。
翌朝ミラが目を覚ましたのを見計らったかのようなタイミングでマリーローズが独房を訪れた。手にしたタライには湯気を立てた湯が張られており、肩には清潔そうなタオルが二枚かかっている。
「お行儀が悪くてごめんなさいね。人手が足りなくて、一人ではこうしないと一度に持ち運びきれなかったんです」
苦笑するマリーローズにミラは首を傾げる。一体どうする気かと思うと、マリーローズはタオルを一枚湯に浸して固く絞ると寝起きでぼうっとしたままのミラの身体を手早く拭き清め始めた。
「寝汗がひどかったようですから身体はしっかり拭いておきましょう」
「……?」
「さ、顔はご自分で洗ってください。申しわけないのだけれど、今朝は忙しくてあまり時間がとれません。身支度が済んだらすぐ朝食にしますから」
寝起きのはっきりしない頭で手早く身を清められたミラは促されるまま顔を洗うと、差し出されたタオルで顔を拭く。古びてはいるが清潔な布は肌触りが良い。
その間にマリーローズはミラの髪を軽く整えようとして眉をしかめる。
「だいぶ洗ってないから痛んでゴワゴワですね。あちこち毛玉だらけですし。今はちょっと時間がないから、夕方にでも入浴できるようにしますね。髪油も用意しなければ」
「え……?」
思いもかけない言葉にミラはあ然とする。
取り調べのために拘留されていた尋問房では入浴はおろか、冷たい水で顔を拭くことすら許されなかった。それが今朝は温かな湯で顔も身体もきちんと清められたうえ、夜には入浴させてくれるという。
自分は死刑囚なのに。
国中に嫌われ、憎まれて、ただ処刑を待つだけの身のはずなのに、なぜここまでしてくれるのだろう? ミラは数か月ぶりにさっぱりした身体の感触に戸惑い、思ってもみなかった手厚い扱いにただただ呆然とするしかなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
52
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる