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赤を纏う少女
皇太子殿下のお見合い係3/3
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「チェルシャー、悪ふざけが過ぎるぞ」
「だぁってぇぇ~、一回で僕の正体を見破るなんて感動しちゃったんだもぉん♡」
ミカエラが瞠目している内に、その目玉と大きな口は空間に溶け次の瞬間には一人の男性の姿になった。鮮やかな紫色の髪に程良い筋肉のしなやかな体躯の彼は、その頭に猫耳を付けている。そして紫とピンクの縞々模様のフサフサな尻尾も有していた。
「…本当に猫だわ」
呆気にとられた顔のままピコピコと動く猫耳と、ピーンと立って先端だけ左右に揺れる尻尾を見ながらミカエラが呟く。
「あんれぇぇ?お后ちゃん、僕みたいな獣人を見るのは初めてぇぇ?」
「じゅう…じん……。あ…、あぁ!!お目にかかるのは初めてです!」
「クフフフフ♡みぃぃんな地方に住んでるもんなぁ。首都に居る奴は城に缶詰めだしねぇぇ」
この帝国内には動物と人間の能力を併せ持つ種族、獣人が存在する。その多くは彼のように人型の容姿に獣耳や尻尾を残すだけだが、動物の姿のままで人語を喋るだけの者もいる。
「物語の中のお話かと思ってました…」
「クフフフフ♡そんなこと言ってぇぇ~、お后ちゃんだって、今や魔力持ち。正真正銘の物語の世界に居る魔法使いじゃぁぁ~ん♡だから僕の術を見破ったんだしぃ☆」
糸目の彼の目が薄く開かれると、ピンク色の瞳が鋭くミカエラを見据えた。ポカンと口を開くミカエラを充分に堪能し、その瞳は再び閉じられる。
「僕はチェルシャー。殿下の特殊任務部隊の『猫』に所属してるよぉ~。仲良くしてねぇ、お后ちゃん♡」
「…その呼び方やめてください……」
獣人の多くは特殊な能力を持っており、その能力は人間が使う魔法とはまた違う属性だ。けれど、彼らの特殊な能力を見破るには魔力が必要なため、帝国内で獣人を従えられるのは魔力をその血に汲む皇族だけである。
「いずれ事実になるのですから良いじゃありませんか!」
「ですから…」
アドとミカエラの笑顔の牽制試合が再び開幕しようとしたところで、ジークが大きくため息を吐いた。
「……ミカ、これからの行き先について話を戻すぞ。チェルシャーは主に諜報活動を行っていてな。各地方の色々な情報を集めさせている。チェルシャーの能力は擬態だ。先ほどのように自分の姿を空間に溶け込ませることが出来る。故に表立って集められない情報の収集も容易い」
「例えば各所に散らばる殿下のお見合い候補のお嬢さん情報とかねぇぇ~♡」
そう言ってチェルシャーが紙切れをピラピラと掲げる。それをミカエラに手渡すと、得意げに言葉を続けた。
「首都から近い順にリストあげたから、この通りに巡っていけば候補者全員に会えるよぉ~☆」
「無闇に進むより、チェルシャーの情報を頼りにした方が無駄がないだろう」
「…すごい。助かりますわ」
ミカエラはチェルシャーが用意したリストに一通り目を通すと感嘆の息を上げる。
「クフフフフ♡僕ってばお仕事出来る系男子なんだよぉ~☆」
「その分タチが悪いのが厄介ですよね、チェルは」
「もぉぉ、相変わらずアドって意地悪だよねぇ~!お后ちゃんは僕のこと褒めてくれるよねぇ?」
「私は后でも何でもないですが、このお仕事ぶりは素晴らしいと思います。リストの書式も読みやすいですし」
「ほらぁぁぁ!僕を褒めるときは膝の上に抱っこしてぇ~♡」
「え?え??」
チェルシャーが本当に膝に乗る仕草を見せたものだから、ミカエラは狼狽してしまう。しかし、チェルシャーの暴挙は果たされることはなかった。ミカエラの隣りに座るジークが、チェルシャーの喉元に短剣を突き立てたのだ。
「クフフフフ!こわぁぁぁい♡こんなの僕のいつもの悪ふざけだってわかってるでしょぉ?そもそも僕には可愛い彼女が居るんだから、お后ちゃんに手を出したりはしないよぉ~☆」
「痴れ者め。お前はしばらくミカに近寄るな」
車内がピーンと張り詰めた空気で満たされる。ミカエラは居た堪れなくなって、誰にともなしに質問を投げかけた。
「さ、最初の行き先になっているヴォルターフとはどんな街なのでしょうか?」
「……ヴォルターフは僕たち獣人の中で一番数の多いウルフ族の街だよぉ~☆その街にはすんごい美少女が居るんだってぇ☆」
ジークと対峙していたチェルシャーが戯けた調子でミカエラに答える。ジークも短剣を戻し、姿勢を直した。
「でもねぇ、なんだか少しだけ様子が変なんだよねぇ~」
「様子が変とは?」
「…………まぁ、それは行ってみてのお楽しみ、ってことでぇ☆」
含みを持たせた笑顔を見せ、チェルシャーは空気に溶ける。彼の姿が見えなくなった車内に、3人分のため息が吐き出された。
「だぁってぇぇ~、一回で僕の正体を見破るなんて感動しちゃったんだもぉん♡」
ミカエラが瞠目している内に、その目玉と大きな口は空間に溶け次の瞬間には一人の男性の姿になった。鮮やかな紫色の髪に程良い筋肉のしなやかな体躯の彼は、その頭に猫耳を付けている。そして紫とピンクの縞々模様のフサフサな尻尾も有していた。
「…本当に猫だわ」
呆気にとられた顔のままピコピコと動く猫耳と、ピーンと立って先端だけ左右に揺れる尻尾を見ながらミカエラが呟く。
「あんれぇぇ?お后ちゃん、僕みたいな獣人を見るのは初めてぇぇ?」
「じゅう…じん……。あ…、あぁ!!お目にかかるのは初めてです!」
「クフフフフ♡みぃぃんな地方に住んでるもんなぁ。首都に居る奴は城に缶詰めだしねぇぇ」
この帝国内には動物と人間の能力を併せ持つ種族、獣人が存在する。その多くは彼のように人型の容姿に獣耳や尻尾を残すだけだが、動物の姿のままで人語を喋るだけの者もいる。
「物語の中のお話かと思ってました…」
「クフフフフ♡そんなこと言ってぇぇ~、お后ちゃんだって、今や魔力持ち。正真正銘の物語の世界に居る魔法使いじゃぁぁ~ん♡だから僕の術を見破ったんだしぃ☆」
糸目の彼の目が薄く開かれると、ピンク色の瞳が鋭くミカエラを見据えた。ポカンと口を開くミカエラを充分に堪能し、その瞳は再び閉じられる。
「僕はチェルシャー。殿下の特殊任務部隊の『猫』に所属してるよぉ~。仲良くしてねぇ、お后ちゃん♡」
「…その呼び方やめてください……」
獣人の多くは特殊な能力を持っており、その能力は人間が使う魔法とはまた違う属性だ。けれど、彼らの特殊な能力を見破るには魔力が必要なため、帝国内で獣人を従えられるのは魔力をその血に汲む皇族だけである。
「いずれ事実になるのですから良いじゃありませんか!」
「ですから…」
アドとミカエラの笑顔の牽制試合が再び開幕しようとしたところで、ジークが大きくため息を吐いた。
「……ミカ、これからの行き先について話を戻すぞ。チェルシャーは主に諜報活動を行っていてな。各地方の色々な情報を集めさせている。チェルシャーの能力は擬態だ。先ほどのように自分の姿を空間に溶け込ませることが出来る。故に表立って集められない情報の収集も容易い」
「例えば各所に散らばる殿下のお見合い候補のお嬢さん情報とかねぇぇ~♡」
そう言ってチェルシャーが紙切れをピラピラと掲げる。それをミカエラに手渡すと、得意げに言葉を続けた。
「首都から近い順にリストあげたから、この通りに巡っていけば候補者全員に会えるよぉ~☆」
「無闇に進むより、チェルシャーの情報を頼りにした方が無駄がないだろう」
「…すごい。助かりますわ」
ミカエラはチェルシャーが用意したリストに一通り目を通すと感嘆の息を上げる。
「クフフフフ♡僕ってばお仕事出来る系男子なんだよぉ~☆」
「その分タチが悪いのが厄介ですよね、チェルは」
「もぉぉ、相変わらずアドって意地悪だよねぇ~!お后ちゃんは僕のこと褒めてくれるよねぇ?」
「私は后でも何でもないですが、このお仕事ぶりは素晴らしいと思います。リストの書式も読みやすいですし」
「ほらぁぁぁ!僕を褒めるときは膝の上に抱っこしてぇ~♡」
「え?え??」
チェルシャーが本当に膝に乗る仕草を見せたものだから、ミカエラは狼狽してしまう。しかし、チェルシャーの暴挙は果たされることはなかった。ミカエラの隣りに座るジークが、チェルシャーの喉元に短剣を突き立てたのだ。
「クフフフフ!こわぁぁぁい♡こんなの僕のいつもの悪ふざけだってわかってるでしょぉ?そもそも僕には可愛い彼女が居るんだから、お后ちゃんに手を出したりはしないよぉ~☆」
「痴れ者め。お前はしばらくミカに近寄るな」
車内がピーンと張り詰めた空気で満たされる。ミカエラは居た堪れなくなって、誰にともなしに質問を投げかけた。
「さ、最初の行き先になっているヴォルターフとはどんな街なのでしょうか?」
「……ヴォルターフは僕たち獣人の中で一番数の多いウルフ族の街だよぉ~☆その街にはすんごい美少女が居るんだってぇ☆」
ジークと対峙していたチェルシャーが戯けた調子でミカエラに答える。ジークも短剣を戻し、姿勢を直した。
「でもねぇ、なんだか少しだけ様子が変なんだよねぇ~」
「様子が変とは?」
「…………まぁ、それは行ってみてのお楽しみ、ってことでぇ☆」
含みを持たせた笑顔を見せ、チェルシャーは空気に溶ける。彼の姿が見えなくなった車内に、3人分のため息が吐き出された。
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