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ドキドキ同棲編
夏の記憶④【由香里視点】
大柄な男に頭突きをしたせいだろうか、可愛らしく結い上げられていた髪が乱れている。
繋いだ手を震わせながらも、アタシを守ってくれたおねぇ。
「おねぇ、こわくなかった?」
「さっきの?……怖かったけど、由香里を守らなきゃいけないから、頑張ったよ」
「おねぇ、かっこよかった!!ジミセブンのキミドリよりかっこよかった!!!」
「にゃはは!由香里の一番好きなキミドリよりも?ふふふ。頑張った甲斐があるなぁ」
アタシの目にはおねぇが戦隊もののヒーローよりも格好良く見えた。
思えば、アタシが近所のガキ大将にいじめられてても駆け付けて追い払ってくれる無敵のヒーローだった。
「…由香里は、私がちゃんと守るからね」
「ん!!げんまん!!!」
おねぇと指切りげんまんをして、お互いの顔を見合わせて笑っていると、最初の花火が打ち上げられる。
ドッパーーーンという派手な音を立てながら、大空一面に大輪の花を咲かせる光が美しかった。
「おわ~!!」
「始まっちゃったね。急がないと、もっと人が多くなる」
「にぃにぃたち、いつものところに、いるかなぁ」
「きっと、源助さんの屋台にいると思うんだけど…」
源助さんとは近所のタバコ屋のおじさんで、毎年花火大会の日は焼きそばの屋台を出す。
その場所は花火を見るのに絶好なポジションで、その場所は源助さんの場所と暗黙のルールで決まっているのだ。
アタシたちは毎年その場所で花火を見させてもらうことになっていて、今年もそこに向かうことにしていた。
「いそがなくっちゃ、なくっちゃねぇ~♪」
「にゃはは。それ、ジミセブンのオープニングだね」
「うん!ゆっか、おぼえた!!」
「あれだけ毎週見てればねぇ…」
「ジミジミジミ、だけどアッパレ、アッパレジミセブン♪」
「すごい、すごい!上手だよ由香里」
アタシは当時、毎週日曜日にやっているヒーロー戦隊が大好きで、ジミセブンという「地味な色だけど頑張ってるんだから!」がキャッチコピーのシリーズにドはまりしていた。
アタシの推しメンはキミドリだ。
顔をしわくちゃにして笑って、義理人情に厚いお兄さん。
今の彼ぴも、キミドリに似ていたから付き合ったんだ。余談だけど。
「おねぇは、ジミセブンのだれがすき~?」
「えー?お姉ちゃんはねぇ、誰かな~…。ムラサキ?かな」
「ちがうよ!フジムラサキだよ!!」
「あ、あぁ、そうなのね…」
おねぇはアタシの手をしっかりと握りながら、人混みを掻き分けて歩を進めた。
にぃにぃたちを見逃すまいと周囲に目を配り、アタシが転んでしまわないように気にかけてくれる。
アタシと言えばジミセブンの話に夢中になってしまい、にぃにぃと急いで合流しないといけないことをスッカリ忘れてしまっていた。
「ごめん、由香里、もうちょっと早く歩ける?」
「えぇ~?ゆっか、も~、つかれたよ~」
「ごめんね、ごめん。でも、これ以上、人が増える前に合流しなくちゃ…」
「あ~~!!!おねぇ!あそこ、キミドリがいる!!!あそこ、行く!!!」
「ダメだよ由香里!先にりゅうにぃを探さなきゃ…」
「ぃやだっ!!!!」
「由香里…!」
歩いていた側と反対方面にあった屋台に、大好きなキミドリのお面が飾られていて、アタシは思わずおねぇの手を振り払ってしまう。
そのまま人に流されつつも、目的地に辿り着いて後ろを振り向くと、背の低いおねぇは人垣に埋もれて見えなかった。
そもそも人が多すぎて、少しでも離れてしまえば、あっという間に迷子の出来上がりだ。
アタシは迷子になってしまった。
「…おねぇ?」
ヒュルヒュルヒュルヒュル…、ドドーーーン、…パラパラパラパラ……
続けて上がる花火の音と、それに息を飲む大勢の感嘆の声
頭上から降ってくるのは知らない人たちの息遣いと騒音だけだ
知った声が耳に届かない
「……おねぇ…、おねぇ…」
首をありったけ伸ばしても大好きなおねぇの顔どころか、おねぇに似合っていた浴衣さえも見えない。
「………おねぇ……うぅ…ぐすっ……おねぇぇぇ」
楽しかった気持ちがシャボン玉のように消えてしまって、独りぼっちになってしまった不安だけが募った。
このままおねぇに二度と会えなかったらどうしよう。
なんでおねぇの手を放しちゃったんだろう。
「…あら、迷子かしら?」
涙が後から後から零れてきて、持っていたりんご飴を落としそうになった時、上品そうなおばあさんの声が落ちてきた。
顔を上げると、優しそうな顔のおばあさんとおじいさんが心配そうにアタシを覗き込んでいる。
「お嬢ちゃん、家族とはぐれちゃったのかい?」
「…ずぴっ」
アタシはコクンと頷いた。
「まぁ…。アナタ、迷子センターに連れて行ってあげましょうよ」
「そうだな、この人混みじゃ探し出すのは無理だろうしな」
「お嬢ちゃん、おばあちゃんたちと一緒においで」
「…ずぴぴっ」
アタシは優しくて上品な老夫婦に連れられて、迷子が集まるテントに辿り着く。
そこにはアタシと同じくらいの年の子や、もう少し大きい子など数人がお迎えを待っていた。
老夫婦はアタシを係りの人に預けると、小さく会釈をしてテントから出ていってしまった。
再び独りになってしまった寂しさから、係りの人の質問にも上手く答えられない。
いくつなのか、名前はなんと言うのか、どこから来たのか。
何も答えられないでいると、次から次へと訪れる迷子の対応に追われた係りの人が、「ちょっと待っててね」と席を外した。
アタシは不安で、不安でどうしようもなくて、ジミセブンの歌を口ずさむ。
「…みんなのいうこと、ちゃんときく~♪こまったときは、おもいだす~♪」
おねぇは出掛ける時にはアタシがはぐれないように注意してくれていた。
けど、注意力散漫なアタシは、直ぐにおねぇとはぐれてしまう。
そんなアタシをおねぇは一番に見つけてくれた。
おねぇはいっつも「由香里、はぐれた時は最初に居たところから動かないでね。絶対に私が見つけるから」と言ってくれたのだ。
「…さいしょの、ところ」
アタシは係りの人の目を盗んでテントを後にした。
ドン、ドン、ドン、ドドドドドーーーーーーーーン!!!!
大きな花火が連続で上がる。
花火大会の終わりが近い。
終わってしまったら、会場に居る人が帰宅の為に一斉に流れる。
そうなってしまったら、絶対におねぇに会えなくなってしまう。
アタシは頭が真っ白になりながら、ヒンヒン泣き声を上げておねぇとはぐれた場所に向かった。
「キミドリのおめん、キミドリのおめん、キミドリのおめん、…うぅぅ…おねぇぇぇぇ」
喧騒が迫りくる。
浴衣が足にまとわりついて歩きにくい。
夜風が頬を撫ぜて気味が悪かった。
「おねぇ…おねぇ……うぅぅ…ぅあぁん……おねぇぇぇ……うぁぁぁん…」
何度も転びそうになる。
穿きなれない下駄の鼻緒が食い込んで痛い。
りんご飴がドロドロになって手がベタベタする。
「キミドリのおめん!………おねぇ…?」
おねぇの手を放してしまった場所に何とか辿り着いた。
けれど、そこにおねぇの姿はない。
「う……うぇ……ぅぇぇえええぇぇん…お…お…おねぇぇぇ!!!!」
独りぼっちで抱え込む寂しさの限度を超えてしまって、大声で泣き声を上げる。
鼻水が出るのも厭わず、ボロボロと涙を流し続けた。
すると、喧騒の中、大好きな声が聞こえた。…気がした。
自分の泣き声でかき消されて声の主がどちらからやって来るのか分からない。
「由香里っ!!!!」
人垣の隙間から、髪も浴衣も乱れたおねぇが姿を現す。
そのままアタシを胸に寄せて、ギュウゥゥッと抱きしめてくれた。
アタシの鼻水が付いても気にせず、自分も涙で顔中を濡らしながら「良かった」と繰り返している。
ピンチの時に絶対に駆け付けるヒーローみたいだと思った。
「ご、ごめんねぇ…。お姉ちゃんがしっかり捕まえてなかったからぁ…」
「…うぁぁぁん……おねぇぇぇ」
「ぶ、無事で…無事で良かったよおぉぉぉ…由香里になにかあったら…あったらぁぁ…」
姉妹二人でわんわん泣いて、人混みが落ち着くまで屋台と屋台の間に身を寄せていた。
その内、にぃにぃたちがやって来て、アタシたちはぐちゃぐちゃな身なりのまま帰路につく。
おねぇは下駄で走り回ったから、足が豆だらけで、何度も転んでしまったのか膝も血まみれだった。
せっかくの可愛い髪もすっごく乱れていたし、浴衣は飾り帯が取れてしまって、着崩れ甚だしい状態だ。
それなのにおねぇはずっとアタシに「ごめんね」と繰り返している。
アタシがおねぇの手を放したのが悪いのに。
いっつもおねぇは謝るんだ。
「…まぁ、何にせよ二人が無事で良かったよぉぃ」
「悪ぃ、お袋。俺がしっかり見てれば…」
「私も、ちゃんと後ろ気にしてたらこんなことには…!」
「いや、俺が面倒ごとに巻き込まれてなけりゃ」
「「「それは、マジでそうな」」」
「……すみません」
いっくんがママたちにお説教をされていた。
アタシが迷子になってから、おねぇは源助さんの屋台に走って、にぃにぃたちに事情を説明して奔走してくれたらしい。
迷子センターにも行ったけど、アタシに似た子が黙って居なくなったって騒ぎになっていたそうだ。
係りの人には悪いことをしたな…。
「お姉ちゃんが言ってたこと思い出したんだよね、由香里」
「…ん。ゆっか、さいしょのところ、いた」
「えらいよ、由香里。お姉ちゃんとの約束守れたね」
「……ん。でも、手はなして、ごめんなさい」
「もう離しちゃダメだよ。お姉ちゃんも離さないからね」
アタシはもう一度、おねぇと指切りをして眠りについた。
その翌日、アタシはおねぇに捨てられたんだ。
繋いだ手を震わせながらも、アタシを守ってくれたおねぇ。
「おねぇ、こわくなかった?」
「さっきの?……怖かったけど、由香里を守らなきゃいけないから、頑張ったよ」
「おねぇ、かっこよかった!!ジミセブンのキミドリよりかっこよかった!!!」
「にゃはは!由香里の一番好きなキミドリよりも?ふふふ。頑張った甲斐があるなぁ」
アタシの目にはおねぇが戦隊もののヒーローよりも格好良く見えた。
思えば、アタシが近所のガキ大将にいじめられてても駆け付けて追い払ってくれる無敵のヒーローだった。
「…由香里は、私がちゃんと守るからね」
「ん!!げんまん!!!」
おねぇと指切りげんまんをして、お互いの顔を見合わせて笑っていると、最初の花火が打ち上げられる。
ドッパーーーンという派手な音を立てながら、大空一面に大輪の花を咲かせる光が美しかった。
「おわ~!!」
「始まっちゃったね。急がないと、もっと人が多くなる」
「にぃにぃたち、いつものところに、いるかなぁ」
「きっと、源助さんの屋台にいると思うんだけど…」
源助さんとは近所のタバコ屋のおじさんで、毎年花火大会の日は焼きそばの屋台を出す。
その場所は花火を見るのに絶好なポジションで、その場所は源助さんの場所と暗黙のルールで決まっているのだ。
アタシたちは毎年その場所で花火を見させてもらうことになっていて、今年もそこに向かうことにしていた。
「いそがなくっちゃ、なくっちゃねぇ~♪」
「にゃはは。それ、ジミセブンのオープニングだね」
「うん!ゆっか、おぼえた!!」
「あれだけ毎週見てればねぇ…」
「ジミジミジミ、だけどアッパレ、アッパレジミセブン♪」
「すごい、すごい!上手だよ由香里」
アタシは当時、毎週日曜日にやっているヒーロー戦隊が大好きで、ジミセブンという「地味な色だけど頑張ってるんだから!」がキャッチコピーのシリーズにドはまりしていた。
アタシの推しメンはキミドリだ。
顔をしわくちゃにして笑って、義理人情に厚いお兄さん。
今の彼ぴも、キミドリに似ていたから付き合ったんだ。余談だけど。
「おねぇは、ジミセブンのだれがすき~?」
「えー?お姉ちゃんはねぇ、誰かな~…。ムラサキ?かな」
「ちがうよ!フジムラサキだよ!!」
「あ、あぁ、そうなのね…」
おねぇはアタシの手をしっかりと握りながら、人混みを掻き分けて歩を進めた。
にぃにぃたちを見逃すまいと周囲に目を配り、アタシが転んでしまわないように気にかけてくれる。
アタシと言えばジミセブンの話に夢中になってしまい、にぃにぃと急いで合流しないといけないことをスッカリ忘れてしまっていた。
「ごめん、由香里、もうちょっと早く歩ける?」
「えぇ~?ゆっか、も~、つかれたよ~」
「ごめんね、ごめん。でも、これ以上、人が増える前に合流しなくちゃ…」
「あ~~!!!おねぇ!あそこ、キミドリがいる!!!あそこ、行く!!!」
「ダメだよ由香里!先にりゅうにぃを探さなきゃ…」
「ぃやだっ!!!!」
「由香里…!」
歩いていた側と反対方面にあった屋台に、大好きなキミドリのお面が飾られていて、アタシは思わずおねぇの手を振り払ってしまう。
そのまま人に流されつつも、目的地に辿り着いて後ろを振り向くと、背の低いおねぇは人垣に埋もれて見えなかった。
そもそも人が多すぎて、少しでも離れてしまえば、あっという間に迷子の出来上がりだ。
アタシは迷子になってしまった。
「…おねぇ?」
ヒュルヒュルヒュルヒュル…、ドドーーーン、…パラパラパラパラ……
続けて上がる花火の音と、それに息を飲む大勢の感嘆の声
頭上から降ってくるのは知らない人たちの息遣いと騒音だけだ
知った声が耳に届かない
「……おねぇ…、おねぇ…」
首をありったけ伸ばしても大好きなおねぇの顔どころか、おねぇに似合っていた浴衣さえも見えない。
「………おねぇ……うぅ…ぐすっ……おねぇぇぇ」
楽しかった気持ちがシャボン玉のように消えてしまって、独りぼっちになってしまった不安だけが募った。
このままおねぇに二度と会えなかったらどうしよう。
なんでおねぇの手を放しちゃったんだろう。
「…あら、迷子かしら?」
涙が後から後から零れてきて、持っていたりんご飴を落としそうになった時、上品そうなおばあさんの声が落ちてきた。
顔を上げると、優しそうな顔のおばあさんとおじいさんが心配そうにアタシを覗き込んでいる。
「お嬢ちゃん、家族とはぐれちゃったのかい?」
「…ずぴっ」
アタシはコクンと頷いた。
「まぁ…。アナタ、迷子センターに連れて行ってあげましょうよ」
「そうだな、この人混みじゃ探し出すのは無理だろうしな」
「お嬢ちゃん、おばあちゃんたちと一緒においで」
「…ずぴぴっ」
アタシは優しくて上品な老夫婦に連れられて、迷子が集まるテントに辿り着く。
そこにはアタシと同じくらいの年の子や、もう少し大きい子など数人がお迎えを待っていた。
老夫婦はアタシを係りの人に預けると、小さく会釈をしてテントから出ていってしまった。
再び独りになってしまった寂しさから、係りの人の質問にも上手く答えられない。
いくつなのか、名前はなんと言うのか、どこから来たのか。
何も答えられないでいると、次から次へと訪れる迷子の対応に追われた係りの人が、「ちょっと待っててね」と席を外した。
アタシは不安で、不安でどうしようもなくて、ジミセブンの歌を口ずさむ。
「…みんなのいうこと、ちゃんときく~♪こまったときは、おもいだす~♪」
おねぇは出掛ける時にはアタシがはぐれないように注意してくれていた。
けど、注意力散漫なアタシは、直ぐにおねぇとはぐれてしまう。
そんなアタシをおねぇは一番に見つけてくれた。
おねぇはいっつも「由香里、はぐれた時は最初に居たところから動かないでね。絶対に私が見つけるから」と言ってくれたのだ。
「…さいしょの、ところ」
アタシは係りの人の目を盗んでテントを後にした。
ドン、ドン、ドン、ドドドドドーーーーーーーーン!!!!
大きな花火が連続で上がる。
花火大会の終わりが近い。
終わってしまったら、会場に居る人が帰宅の為に一斉に流れる。
そうなってしまったら、絶対におねぇに会えなくなってしまう。
アタシは頭が真っ白になりながら、ヒンヒン泣き声を上げておねぇとはぐれた場所に向かった。
「キミドリのおめん、キミドリのおめん、キミドリのおめん、…うぅぅ…おねぇぇぇぇ」
喧騒が迫りくる。
浴衣が足にまとわりついて歩きにくい。
夜風が頬を撫ぜて気味が悪かった。
「おねぇ…おねぇ……うぅぅ…ぅあぁん……おねぇぇぇ……うぁぁぁん…」
何度も転びそうになる。
穿きなれない下駄の鼻緒が食い込んで痛い。
りんご飴がドロドロになって手がベタベタする。
「キミドリのおめん!………おねぇ…?」
おねぇの手を放してしまった場所に何とか辿り着いた。
けれど、そこにおねぇの姿はない。
「う……うぇ……ぅぇぇえええぇぇん…お…お…おねぇぇぇ!!!!」
独りぼっちで抱え込む寂しさの限度を超えてしまって、大声で泣き声を上げる。
鼻水が出るのも厭わず、ボロボロと涙を流し続けた。
すると、喧騒の中、大好きな声が聞こえた。…気がした。
自分の泣き声でかき消されて声の主がどちらからやって来るのか分からない。
「由香里っ!!!!」
人垣の隙間から、髪も浴衣も乱れたおねぇが姿を現す。
そのままアタシを胸に寄せて、ギュウゥゥッと抱きしめてくれた。
アタシの鼻水が付いても気にせず、自分も涙で顔中を濡らしながら「良かった」と繰り返している。
ピンチの時に絶対に駆け付けるヒーローみたいだと思った。
「ご、ごめんねぇ…。お姉ちゃんがしっかり捕まえてなかったからぁ…」
「…うぁぁぁん……おねぇぇぇ」
「ぶ、無事で…無事で良かったよおぉぉぉ…由香里になにかあったら…あったらぁぁ…」
姉妹二人でわんわん泣いて、人混みが落ち着くまで屋台と屋台の間に身を寄せていた。
その内、にぃにぃたちがやって来て、アタシたちはぐちゃぐちゃな身なりのまま帰路につく。
おねぇは下駄で走り回ったから、足が豆だらけで、何度も転んでしまったのか膝も血まみれだった。
せっかくの可愛い髪もすっごく乱れていたし、浴衣は飾り帯が取れてしまって、着崩れ甚だしい状態だ。
それなのにおねぇはずっとアタシに「ごめんね」と繰り返している。
アタシがおねぇの手を放したのが悪いのに。
いっつもおねぇは謝るんだ。
「…まぁ、何にせよ二人が無事で良かったよぉぃ」
「悪ぃ、お袋。俺がしっかり見てれば…」
「私も、ちゃんと後ろ気にしてたらこんなことには…!」
「いや、俺が面倒ごとに巻き込まれてなけりゃ」
「「「それは、マジでそうな」」」
「……すみません」
いっくんがママたちにお説教をされていた。
アタシが迷子になってから、おねぇは源助さんの屋台に走って、にぃにぃたちに事情を説明して奔走してくれたらしい。
迷子センターにも行ったけど、アタシに似た子が黙って居なくなったって騒ぎになっていたそうだ。
係りの人には悪いことをしたな…。
「お姉ちゃんが言ってたこと思い出したんだよね、由香里」
「…ん。ゆっか、さいしょのところ、いた」
「えらいよ、由香里。お姉ちゃんとの約束守れたね」
「……ん。でも、手はなして、ごめんなさい」
「もう離しちゃダメだよ。お姉ちゃんも離さないからね」
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