婚約破棄を受け入れたら第二王子に攫われました

山田 ぽち太郎

文字の大きさ
15 / 35

15

しおりを挟む
晩餐会からややあって、わたくしたちは最初の一手を講じることになった。
公爵家から訴状が届いたのだ。

「借金の返済を待つ代わりに、侯爵家の領地の採掘権を貰ったはずが、ここ最近卑しい侯爵の者が勝手にコソコソと採掘しているようでしてなぁ~。本当に困っているんですがねぇ~」

王族に謁見していると言うのにヘラヘラと…。
正しい言葉遣いも知らないのかしら、この人は。
あのままだったら、こんな人がわたくしの義父になっていたのね。
今更だけど殿下に連れ去って頂けて本当に良かったわ…。

わたくしは自分の中の拒絶感と戦いながら、殿下の隣で俯き加減に公爵側の訴えを聞いた。
殿下わたくしの髪飾りと対で使用した宝石は、実は我が領地から採掘されたものだったのだ。
それを聞きつけた公爵が、こうして殿下の宮まで駆け付けた。
我が家の領地の採掘権なんて渡していない。
公爵がでっち上げた嘘だ。

「その採掘権を貰ったとする証明書状は持ってないのだろう?それならこの訴状は無効だな」

殿下はピッ、と訴状を投げ棄て、前に座る公爵を見据えた。
公爵は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「しかし!侯爵家の借金を肩代わりしたのは事実!少しでも金になるものがあれば、侯爵家は私に寄越すのが道理ですぞ!!」

クワッと目を見開いて、わたくしを睨む公爵を冷ややかな眼の殿下が制す。

「お前は今、誰と謁見しているのだ?私か?それとも私の未来のきさきか?」
「も、申し訳ございません。人の財布の中身を漁る狐を前に、少々憤りを隠せませんで…」

そう言ってニタァと笑った顔が本当に不愉快で、わたくしは公爵から視線を逸らしたくて堪らなくなった。
けれど、ここで目を逸らしてしまったら負けだ。
胸が上下しない程度に息を吸い込んでお腹に力を込めた。
そして、下卑た笑いを続ける公爵をキッと睨め付ける。

「狐?狐と言ったのか、今。お前の前には私と、私の婚約者しか居らん。さて、お前は今どちらを『狐』と呼んだのだ?」
「えぇ~、いやですねぇ、殿下。私は狐なんて申してはおりませんよ?何を持ってそんな言い掛かりを~…」
「私の傍には優秀な補佐官と、優秀な書記官、そして屈強な兵士が仕えていることを知らぬ訳ではないな?」

公爵をギロリと見下ろす殿下の目は、ジワジワと濃く光り、まるでとぐろを巻いた怒りを瞳に込めているようだった。
片足を立て膝をつく体勢をとっていた公爵は、小さな呻き声とともに崩れ落ちて尻餅をつく。

「わ、私は!私、この国で唯一の公爵です!!万が一、殿下と謁見中に私の身に何か障りがあれば、元老院が黙っておりませんぞ!」

公爵は震える声を張り上げて、唾を飛ばしながら宣った。

「……果たして、お前の持つ『公爵』と言う爵位は、その身にそぐうものなのだろうか。まぁ、それは直ぐに分かるだろうがな」
「ど、どう言う意味ですか?」
「別に、今のお前が知る必要のないことだ。それで?なんの話だったかな?レミティ、公爵はなにが言いたいんだと思う?」
「畏れながら申し上げます、殿下。公爵は我が領地から出た新種の宝石を我が侯爵家から掠め取りたいようでございます。哀れにも採掘権譲渡の虚偽まで口にして、その宝石が欲しいようでございます。なんと卑しく、貧しい心根の領主なのでしょうか」
「な…っ!私から借金をしている身の癖に、生意気なっ!!」
「借金、借金と言うがな?公爵。私の婚約者は公爵夫人教育の一環で、お前に不当に働かされていたらしいではないか。その分の給金はどうなっている?それに、毎年多大な税を侯爵家からせしめているのだから、借金もあらかた返し終わっているだろう?」
「…ぐっ……、で、では、残りの借金は新種の宝石が出た鉱山で手を打ちます。その鉱山を私に寄越せば借金を帳消しにしてやりますよ」

公爵がここまで宝石にこだわるのも無理はない。
あの新種の宝石は、先日のオークションで驚くべき高値がついた。
その利権が喉から手が出るほど欲しいのだ。

「……書記官、今の公爵の言、しかと書き留めよ」
「は!殿下、すでに証書としても認めております!」
「では公爵、これに署名を」
「……チッ」

渋々ながらも我が領地の鉱山を引き換えに、侯爵家の借金を帳消しにすると言う証書に署名と家紋の印を押した公爵は、最後にわたくしに向かって嘲りの笑みを浮かべた。

「そうだ、公爵。お前の息子についてだが…」

その様子を見ていた殿下が口を開く。

「愚息と言えど、お前よりはマシなようだな。お前なんかよりも立派な言葉遣いだったよ。世代交代も近いんじゃないか?早く引退した方が身のためかもな」

底冷えするような声色で、公爵を見送るのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

婚約破棄!?なんですって??その後ろでほくそ笑む女をナデてやりたい位には感謝してる!

まと
恋愛
私、イヴリンは第一王子に婚約破棄された。 笑ってはダメ、喜んでは駄目なのよイヴリン! でも後ろでほくそ笑むあなたは私の救世主!

処理中です...