香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)

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第三章 雪山へ

玄偽《シエンイ》の謎

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 香 麗然コウ レイランたちは雪山の中を進んでいく。幸いなことに雪は降っていない。
 そのことに安堵した一同は今回の目的について話し合った。

「ここには、狼がいるはずよ。その狼を探してほしいの」

 雪に足を取られながらも香 麗然コウ レイランは彼らに話す。すると曹朱ツァオジュが手を挙げた。

「まあ、それはわかっているが……実際に狼を探して、どうするつもりなのだ?」

 いったいなぜ、狼を探しているのか。

 曹朱ツァオジュの場合は皇帝としての責務からだろう。この山には結界が張られていて、港町まで向かうには迂回うかいしなくてはならなかった。山そのものが、結界の影響で人を迷わせてしまっていたからだ。
 これでは貿易ぼうえきするにしても時間がかかってしまう。その時間を短縮するためにはこの山を突っ切る必要があった。
 すべてはくにのため。

 (曹朱ツァオジュは本当に、國を思っているのよね? でも私は……)

 國というものに興味はなかった。ただたんに、知的好奇心のようなもの。されど、そこには彼女自身の思惑もあった。

 (この山に入ったときから、ずっと気になっていた。この香り……玄偽シエンイに似ている。空虚くうきょだけど、どこか優しくて、寂しそうな香り。でも、どうして?)

 この山自体に、玄武シュエンユーによる結界が張られている。玄偽シエンイ玄武シュエンユーと関係があるのかもしれない。
 香 麗然コウ レイランは密かに考え、それを悟られないように振る舞った。

「ねえ。結界を解除することは、できないのかしら?」

 それを伝えた相手は曹朱ツァオジュではない。玄偽シエンイだ。両目を布で隠した、口の聞けぬ者に、真剣な面持ちで尋ねる。
 
 すると玄偽シエンイは彼女の手を取り、手のひらに何かを書いていった。
 【ここは、玄武シュエンユーの護る地。僕の両目を持つ者、そして声をうばった者がいる】

「奪う? 目と声を、奪われたの?」

 そう尋ねると、玄偽シエンイは首を左右にふる。再び彼女の手に文字を書き連ねていった。

 【違う。目は、僕自身が与えたもの。奪われたのは、声だけ】

 書き終えた玄偽シエンイは肩をすくませる。
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