窓側の指定席

アヒルネコ

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平成30年1月11日

仲良し夫婦

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 たまには自分が晩御飯を作ろうと思い立ち、キッチンの上に彩られた野菜をみて、霧島悠一は自分が準備した材料にも関わらず頭を悩ませていた。普段、妻は何の説明書も見ずに体が勝手に動いて料理しているように見えるが、それはこれまでの経験が物を言うのだろう。いざ自分がやると、漠然とその場に立ち続け、動く時間の2倍以上に考える時間が必要だと感じている。

 現在時刻は午後4時、妻が帰宅する午後6時までに形にしなくては。悠一は予定通りスープカレーのレシピを携帯で調べながら料理に取りかかった。

 この北海道、砂川の土地に来て、2年半が過ぎた。雪が非常に多く、玄関のドアが悲鳴をあげている。職場へは歩いて10分程度であり徒歩通勤でいけることが救いで、職場の人間が、朝の雪かきに四苦八苦していることを小耳に挟むと、なんだか勝ち誇った気持ちになる。職場は上司を含め7人の小さな会社だが、そこそこの業績をあげている。人材派遣を専門としており、時には人材派遣先とのトラブルもあり辛いこともあるが、やりがいを感じで取り組めている。
 悠一は北海道に来る前に東京でソフトウェア開発に取り組んでいたが、段々と自分の仕事に疑問を感じ、人と関わる仕事がしたいと思い立ち退職届を提出、現在の北海道、砂川に移り住んだ。妻はソフトウェア開発時代の同僚であり、自分の思い立った転職にも文句を言わずについてきてくれた。だがそれも新婚だったからなのか、結婚して5年が過ぎた今は明らかに妻の立場が強い。普通、子供が出来ると妻は変わると聞くが、霧島家は子供が居なくても強くなるようだ。

 無事にスープカレーを作り終えた悠一のところに、妻の綾が帰ってきた。

 「ただいまー」少し疲れた声が玄関から響いた。玄関に迎えにいった悠一は、妻に優しく「おかえり」と告げた。
「なにかいい匂いがする、カレーかな?買ってきたの?」
「買ってないぞ、作ってみたんだ。美味しいぞ、多分」すこしにやけながら悠一は綾に言った。
「えーすごーい!やる気になったんだね!」

「どういういみさ」

「なんでもない」

互いにすこしにやけながら、その場に漂う雰囲気を楽しんだ。


 意外にも美味しかったスープカレーを惜しみながら、夫婦で食器を洗っていた。

「たまに午後休みとるのもわるくないな、思ったよりリフレッシュできたよ」

「あら、それはよかったね、私もパート休んじゃおっかな」綾が顔を少し上にあげながら楽しそうに言った。

「好きにしていいよ、無理のしない範囲で仕事できたらいいんじゃないか?」

 悠一は優しく綾にそうつぶやくと、微かに綾はニコッと笑った。
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