窓側の指定席

アヒルネコ

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平成30年1月13日 坂本かえで

疑念

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「ねえ、健介くん。何で札幌駅に来てたの?」
かえでは疑問をぶつけた。

「今日、友人が遊びに来る予定で駅に行ったんですけど、仕事が入ったらしくドタキャンされちゃって。僕も友人も、不定期なシフトで仕事してるんで、しょうがないかなって」
「あら、そうなんだ。ツイてないね」
「でも、こうやってお2人を見つけられたし、結果オーライですよ」

 こんなおばさん2人乗せて、楽しいのだろうか?たたしかに、彼女のお母さんとは言えど・・・

「高速道路乗りますね!お金は気にしないでください!」

 随分と気前が良い。そして、話がうまい。なぜだろう、似たものを感じる。

「健介くんは、ひかりのどこが気に入ったの?」
「全部ですよ!これほんとです!」

 ・・あぁ、多分察するに『顔』だな。全部っていう男は大体同じことを言う。かえでは職業柄、なんとなく男の考えることがわかった。



 新得町(札幌と帯広の間あたり)を過ぎたあたりで、健介は左ウィンカーを出した。

「あれ、帯広まで高速乗らないの?」
陽子は不思議そうに、フロントミラー越しに健介の顔をみた。

「あえてここの十勝清水インターチェンジで降りて、国道の裏道で走った方が早いんです」
「へえ、帯広に詳しいんだね」
「昔、帯広に住んでたんですよ。中学2年生のときに親の転勤で札幌に住むことになって」

 陽子と健介の話しを聞いていると、かえでに、ふと疑問が浮かんだ。

「ということは、遠距離恋愛なの?ひかりと」

「・・・そうですよ、たまにしか会えないんです」

 また妙な間があった。何を隠しているのだろう。
とりあえず、無事にホテルに到着すれば良いのだが。
 そう言えば、友人にドタキャンされた彼は、果たしてどんな理由で帯広に行きたいのだろう。

「健介くんは、帯広に何の用事があるの?」

「本当は、ドタキャンされたやつと帯広で豚丼たべて、夜は中学の時に仲が良かった友達含めて飲み会して適当にビジネスホテルかネットカフェにでも泊まろうかと思ってたんですよ」

「ドタキャン君は、夜一緒にご飯たべないの?」

「そうです、ドタキャン君は帯広にいる友人宅で飲み会するらしくて。要は、足にされてたんです。ハハハ」

「なんかかわいそうだね、今度おばさんのお店来なよ。砂川だけどね」

「そうですね、ひかりさんと行きますよ」


 そうこうしているうちに、十勝第一ホテルに到着した。陽子が、お礼に少ないが現金を渡そうとしたが、健介は頑なに断った。

「すいません、かえでさん。夜にお話ししたいことがあるのですが、電話番号おしえてもらっても良いですか?」

「え、いいけど直接今じゃ駄目なの?」

「あ、出来れば電話が良いのですが・・」

「わかったよ」

 そう言って、かえでは電話番号を伝えた。
夜8時ころに電話するとのことだ。


 ・・・ちょうど良いかも知れない。


 かえで自身も、色々と聞きたいことがあった。


 ・・・この健介という男、多分『夜の仕事』している。そして、ひかりとの関係について何か隠している。


 ・・・まずは、温泉を楽しもう。
かえでと陽子は、ホテルの受付へ向かった。


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