-PEACE KEEPER- (バルバロイR2)アルファ版

ずかみん

文字の大きさ
35 / 85

自分勝手でもかまわない

しおりを挟む
 二週間の経過観察が終わり、感染していないことが分かると、レヴィーンは隔離病棟から解放された。
 徹底洗浄で肌は擦り切れそうになったし、隔離の間に体重が増えた。ほんとにろくなことがなかった。

 あれから、イツキは面会に来てくれなかった。
 自分が意地悪をしたのだから仕方がないことだし、それにこうなるよう面会しなかったのだから、これはレヴィーンが望んだ結果だ。
 べつに、悲しむようなことじゃない。
 わたしなんかに構わない方が、イツキの為にはいいのだ。

 職場に復帰したレヴィーンを、スタッフのみんなはお祝いしてくれた。ランチを兼ねたピザパーティだった。というかレヴィーンがいない間に、レトルトの食品とピザがすべて無くなっていた。スタッフの栄養状態が心配だった。

 ミーティングルームは、リボンとか、風船とか、ペーパーフラワーとかで飾り付けられていた。有り合わせの物なので、よく見ると、風船は手術用手袋やコンドームだったし、ランプはピルケースや採尿カップで、リボンは注射器の入っていた包装、ペーパーフラワーはガーゼと脱脂綿だった。

 今回の件で、レヴィーンには傷痍手当が支給されるそうだ。例えば傷痍手当は、治療中に感染しまった場合などに支給されるのだそうだ。

「傷痍手当をもらって、まだ命があるなんて、レヴィーンはとてもラッキーよ」
 と、シモーヌ医師は言った。

 どこから持ち込んだのかシャンペンが空けられていて、何人かはもう、酔っ払っていた。
 酔っぱらいの相手をしているのは、コディだった。若い男性医師は、コディの装甲にマジックで落書きをしていた。子供と一緒だ。
 みんながレヴィーンのお皿を食べ物で一杯にして、これ以上体重は増やせない、と思ったレヴィーンは、コディの脚装甲の裏に、こっそり食べ物を押し込んだ。あとで冷蔵庫にしまって、小分けにすればいい。貴重なカロリーを浪費してはいけない。

 コディが部屋にいるので、レヴィーンはイツキの姿を探してしまった。
 隅々まで眺めても、テーブルの下にも、イツキの姿はなかった。

 誰かが、アイスのカップを手渡したので、レヴィーンはスプーンをくわえた。もう体重はべつにいい。お腹を壊すまで食べたってかまわない。


 ようやくパーティから解放されて、レヴィーンは部屋に戻ることにした。酔っ払い達に毛布を掛けてやり、簡単に食器の片づけをして――当直のスタッフはアルコールを控えて、もう仕事に向かっていた――ごみをまとめた。コディが片づけを手伝ってくれた。
 片づけが終わると、コディは部屋の隅にある充電スペースにうずくまった。遊び疲れた子供みたいだった。後で落書きを消さないといけない。コディは、トラ縞でヒゲの長い白猫になっていた。

 部屋に戻る途中で、通路にイツキが立っているのを見つけた。
 たぶん、レヴィーンを待っていたのだ。
 それだけで、もう嬉しくなってしまいそうだったけれど、なんとか気持ちを押えて、レヴィーンは冷たい声を作った。

「通れないわイツキ。ほんと、しつこいのね。ちょっと呆れた」
「レヴィーン、ぼくはなにか、きみを怒らせるようなことをしたかな?」

 そんなわけないじゃない。そんなことあるわけないじゃない。

「べつに怒ってないわ。でも、もうなんとなく無理。わたしのことは放っておいて」

 イツキは、ぼんやりとレヴィーンを見つめていた。レヴィーンは視線を合わすことが出来なかった。

 あんなことがあって、あらためて、自分なんかはイツキには釣り合わない、と感じた。
 レヴィーンのせいで、イツキは人を殺してしまった。
 イツキは、誰も死なない、誰も誰かを傷つけない遠い国の人で、こんな場所に来てしまったのは何かの間違いで、レヴィーンは、イツキをこんなことに巻き込んでしまうべきではないのだ。
 いつか、自分の場所に戻って、こんな場所やレヴィーンのことなんか、なにもかも忘れてしまうのが、いちばんいいいのだ。
 そう、あきらめていた。
 イツキは、なにも恨み言めいたことは言わなかった。ぼんやりした表情の奥で、なにを考えているのかは分からなかった。
 レヴィーンは、イツキの横をすり抜けたけれど、イツキはなにもしなかった。

 もしかしたら、手を掴んで引き止められることを期待していたのかもしれない。でも、そんな映画みたいなことは起こらなかった。

 通り過ぎてから振り向くと、しょんぼりした背中が見えた。べつに背中を丸めているわけじゃないけど、そんな風に見えた。
 もしかして、とレヴィーンは思う。この人はずっとこういうことを繰り返してきたんじゃないだろうか?
 誰にも、いかないでくれ、とお願いしなかったんじゃないだろうか?
 誰にも、優しくして欲しいと、言わなかったんじゃないだろうか?
 わたしと同じように、諦めて背中を向け、それでいいと、無理やり、納得していたんじゃないだろうか?

 背中を向けたまま、イツキは言った。
「気にしないでいいよレヴィーン。そもそも……ぼくがどうかしてた」

 それを聞いた瞬間に、レヴィーンの中でなにかが壊れた。
 自分勝手でもかまわない。思い違いでも、打算と言われても、なんでもいい。自分がどうしたいのかは、ずっと前から明らかだった。

 物も言わずに歩き寄って、レヴィーンはイツキの腕を取った。振り向いたイツキを壁に押し付けて、乱暴に髪をまさぐり、背伸びをしてイツキの唇をさがした。
 イツキの驚く気配があったけれど、いまさら、どう思われたってかまわなかった。

 そういう情熱的な人だとは、夢にも思わなかったけれど――。

 イツキはちゃんと、レヴィーンにこたえてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...