-PEACE KEEPER- (バルバロイR2)アルファ版

ずかみん

文字の大きさ
48 / 85

人数と場所、そして発生の時間

しおりを挟む
 キャンプから、新たな感染者が発生したことを告げるメールが入った。
 シモーヌはメールの内容を確認し、人数と場所、そして発生の時間を頭に入れた。
 さほど、珍しくはない通常の出来事だ。いまだ媒介者ベクターである野犬を駆逐するには至っていない。これは、時折発生する事故のような物だった。

 受け入れの手順は、決まりきっていた。人数分のベッドを開け、兵士を派遣し、二次感染のない装備でキャンプへ連行する。連行、という言葉を使ったのは、文字通り、無理やり疫病キャンプへ連れてくる場合も多いからだ。キャンプの間で、疫病キャンプへ連れて行かれると必ず殺される、と噂が立っていた。
 必ず死を迎える、というその一点において、噂は間違っていなかった。キャンプでは、まだ一人も患者を救えていない。

 感染者は一人だけ――せめてもの幸いだった。
 感染の程度は中期――まもなく凶暴性を発揮し始める頃合いだ。どうしてこんなに連絡が遅くなったのだろう? 頭の中を、考えたくない最悪の可能性がよぎる。感染例の中には、動物に咬まれていないのに発病した、感染ルートの明らかでない症例が存在した。動物ではなく昆虫が媒介者ベクターになったのでは――例えば吸血性昆虫の刺し傷――、という意見もあったが、今のところ解明はなされていない。

 もしも、飛沫感染であったなら――もちろんそうであれば間接接触でも感染する――、感染者がある臨界値を超えた時、止めようがないパンデミックを引き起こす可能性がある。それは、米軍の対応マニュアルに記載された、消毒・・の判断ポイントでもあった。

「心臓に悪いわね」

 シモーヌは、国連平和維持軍の現地指揮官、この場合は少々頼りないけれどミラー中尉へのメールを準備しつつ、発生場所を確認して眉をひそめた。
 それは、今日、レヴィーンが戻った筈の、少数民族が居住する難民キャンプだった。

 不安がシモーヌの胸をよぎった。メールを送ると同時に携帯を手にとって、ミラー中尉へ口頭で要請を伝えた。ミラー中尉からの返答は、いま帰ったばかりだが、すぐに向かえるように準備は出来ている、という物だった。レヴィーンを送る際に、やはり、おかしなことがあったらしい。

 べつに伝える理由も、義務もないのだけれど、シモーヌは当然そうするべきだと感じて、イツキに連絡をいれた。
 それは、抑えようがない胸騒ぎのせいだったかもしれない。

 連絡を受けたイツキは、わかりました、と簡潔に応えただけだったけれど、もちろん、それで納得するわけがないことは、明らかだった。
 キャンプに常駐している『トヨタ』の数は限られている。イツキの為に移動の手段が必要だった。
 シモーヌは、ミラー中尉に連絡を入れ、イツキを待つように申し入れをした。

 もちろんミラー中尉はそれを理解していて、彼の為の席は空けてあります、と短く答えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...