-PEACE KEEPER- (バルバロイR2)アルファ版

ずかみん

文字の大きさ
49 / 85

怯えて暴れるだけの、ただの肉の塊

しおりを挟む
 母親のテントに入れて貰おうとしたけれど、自警団の兵士が、誰も入れないように警備をしていた。レヴィーンが説明しようとしても、話さえ聞いて貰えなかった。

 兵士たちは迷惑そうな顔だった。またこの厄介者たちのせいで面倒なことになった、といった気持ちが、身振りにも表情にも表れていた。このまま緊張が高まれば、住民にさえ発砲しかねない雰囲気だった。

 なんどか押し問答を繰り返して、諦めたレヴィーンは、周囲に誰か知っている人を捜した。
 目についた小柄で肉付きのいい中年の男性は、ジュミルといって、少数民族キャンプの代表を務める人物だった。清廉な人柄で知られるキャンプの有名人だ。
 レヴィーンは人ごみを押し分けて、ジュミルの前までたどり着いた。

「ジュミル! わたしよ。これはどういうことなの?」

 レヴィーンの姿を見て、ジュミルは人の好さそうな赤ら顔を曇らせた。
 こんな状況で甘い見通しにすがるほど、穏やかな人生を送ってきたわけではなかった。ある程度、覚悟は出来ていた。だから、そのように言った。

「もし、説明しにくい話でも、わたしは取り乱したりしない。教えてジュミル。わたしの母は、感染したの?」
「レヴィーン、済まない。少し目を離したすきにキャンプから出て……」
「……野犬に咬まれたのね」
「ほんとうに済まない、レヴィーン。みんなで探したんだが、遅かった」

 母は、野犬を追い払う電撃柵を乗り越え、荒野にさまよい出たのだ。
 可哀想なお母さん……優しい父の姿を捜して徘徊し、父ではなく野犬に出会ったのだ。母は怯えて、父の名前を呼んだだろうか? 助けに来るはずのない父を待ち続けたのだろうか? 母はもう、レヴィーンが誰かもわからなかった。いつも知らない人に――知らないと思い込んでいる人たちに――囲まれて、怯えていた。

「どういう状態なの?」
「咬まれたことを隠していたんだ。まわりが気づいた時には、もう凶暴で、手が付けられない状態だった」
「誰かに被害は?」
「今のところは大丈夫だ」

 誰も傷つけていない、と聞いて、レヴィーンは胸を撫で下ろした。いつか、こんな日がくるのは分かっていた。たぶん、本当の母は、父が処刑されたあの時、父が一緒に連れて行ってしまったのだ。
 ここにいるのは、日差しや、物音に苦痛を感じ、怯えて暴れるだけの、ただの肉の塊だ。

 不用意に近づくと、噛みつかれ、感染の危険がある。自警団の兵士でさえ、近づけなくて右往左往していた。
 もし、可哀想な母の人生に、誰かが幕を下ろさないといけないのだとしたら……それは、わたしの仕事だ。
 他の誰にも、代わりをさせるつもりはなかった。

 ジュミルは、腰に銃を差していた。たぶん一度も使われた事がないだろうと思われる古臭い銃は、よく手入れされて、ピカピカに光っていた。ジュミルにとっては、きっとお守りみたいなものなのだろう。

「ジュミル、その銃を貸してもらってもいい? わたしには、それが必要なの。それから、自警団の兵士に説明をして。わたしが、娘が中に入るって 」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...