-PEACE KEEPER- (バルバロイR2)アルファ版

ずかみん

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アリシアの不協和音

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「アリー、そこを通してくれ。戦力差は明らかだ。今後も機会があれば、きみたちと作戦を共にしたい」

 無線通信からの声は、何度か聞いたことがある。ウィルソンとかいう若い兵士。門外漢のミラー中尉とは違って、戦場で育った本物の兵士だ。
 一度だけ防疫キャンプに顔を出したことがあるけれど、生真面目な印象の黒人青年だった。もちろん、悪人には見えなかった。

「べつにあんた達を非難するつもりはないけど、それは無理。……他に方法はないの?」
「残念だけど、選択の余地はない。アリー、君の家族を守る為でもある」

 通信は途絶え、米軍の軽機動戦闘車両部隊は応答しなくなった。
 アリシアの頭には、拭いようのない違和感が残った。この成り行きは、なにかがおかしい。

 米軍の部隊を指揮しているのはミラー中尉ではなかった。彼らは、なにも考えず闇雲に命令に従っているわけでもない。自分がなにをしようとしているか十分理解しているようだし。自分を責めながら残りの人生を送る覚悟も出来ているようだった。
 その事実も、アリシアの不協和音を大きくしていた。

 戦闘で培ったアリシアの本能が、誰かがアリシアを嵌めようとしている、と訴えていた。
 だが、考えても、誰がどのように、とまではわからない。

「アリーの考えている通りだ。おかしいよ、これ」

 唯斗の声だった。どうしてあたしの考えていることがわかるのよ! と一瞬だけ考えたけれど、事態は緊急を要するので、取り敢えずは言葉の先を聞いた。

「普段ぼく達は、一緒に作戦を展開する時しか、米軍の活動については知らない。本当であれば、敷設した警戒網にかかるまで、ぼく達は、米軍の動きを知ることは出来ない筈だ。なのに、まるでタイミング良く知らせるように――シモーヌにその情報を伝えたのは、誰だと思う? なんでミラー中尉は、この局面に居合わせていない?」

 そうだ、シモーヌが米軍の秘匿情報を知ることなど出来ない。誰かがタイミングをはかって、それを伝えたのだ。

「これは時間稼ぎだよ、アリー。誰かが『ハルシオン』と米軍を噛み合わせようとしている――防疫キャンプが危ない」

 警備の当事者は、双方ともここで衝突しようとしている。その誰かは防疫キャンプをもぬけの空にしたかったのだ……いったい、何の為に?

「キオミ。なんとかなる?」

 ここから【ピクシー】で向かっても間に合わない。機体は放置して、強化外骨格XOS-5に操作を移すのが最短だ。

『なんとかするしかない。わたしも作戦に加わる』

 キオミは自分自身で【ピクシー】を操縦する気らしい。言わせてもらえば、それも明白な内部規定違反だ。

 やっぱり、最初にぶーたれたのはトラッシュだった。

「無茶振りだよアリー。【ピクシー】の十倍は値の張る新鋭機六台を、四台だけでとか……」

 笑いを含んだ声で、チャーリーが言った。

「ぷふっ……トラッシュは無理なんだ。ぷ」
「いや、べつにやれるけどさ。割に合わないってことだよ」

「じゃあ、カイト、悪いんだけど」

 唯斗もアリシアも抜けた場合、次点のチームリーダーはカイトだ。唯斗よりはチームリーダーに向いている。能力の点で不安はない。

「早く行けよ。俺たちの苦労を無駄にするなよ」
「行くわよ、ヌエ」

 アリシアは、メニューを開いて、強化外骨格のアイコンを選択した。
 視覚野が一瞬だけ、溢れる虹色の光に溢れ、暗転し、パソコンを起動するようなシステムメニューが現れた。気がつくとアリシアは防疫キャンプのミーティングルームだった。

「ヌエ、異常ない?」
「起動チェックシークエンスが、あと三十秒」
「なんか、武装えものが必要だと思うんだけど」

 もう、なんとなく想像がつき始めていた。アリシアの思う通りなら、タフな戦闘になる。丸腰では、ちょっと分が悪い。

「それは確保してある。目印がちゃんと見つかるかな……」

 確保って……武器を隠してたの? 唯斗、あんた奉仕活動中になにをしてるのよ?

「先に行くわ。あんたが言う宝箱の座標をちょうだい」
「……了解。くそぉ、ぼくが使ってみたかったのに」

 唯斗の声は、心底悔しそうだった。
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