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コールオブホーリーガール

聖なるひょうたん

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「なるほど、そうして家の一部を破壊して眠っていたところをお二人に助けられた、ということなのですね?」

 二人はとりあえず投げ飛ばしたことを省いて顛末を説明すると、納得がいったように聖女は頷く。

「そういうこと。 ギルドマスターの依頼で、とりあえずは私たちがあなたの護衛を任された」
 
「それはありがたいことです。 しかし、忘却の魔法を操る刺客ともなると相手は行為の魔導師でしょうか? よくもまぁ私もうまく逃げ延びたものです。 これも日々の訓練の賜物といったところですかね。近年魔王信仰の動きも活発になっていると聞きますし、たしかにギルドマスター様の言う通り、しばらくを身を隠した方がいいのかもしれません」

 ふぅと嘆息をつく聖女。その言葉にクレールは冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべて話題を変えた。

「でも、聖女様も戦えるんだな? 力もすごい強かったし」

「ええ、聖女たるも戦いにおいて先陣を切らねばなりませんから、近接戦闘はたたかいの基本ですから……あれ? ですがなぜ私の力をしっているんです?」

 墓穴を掘り、クレールはさらに顔を青くして冷や汗を流し、トンディは呆れたようにフォローを入れる。

「家の看板素手で壊したでしょ。 普通の人間は看板素手で壊さない」

「お恥ずかしい……私としたことがなぜそのような蛮行を行なったのか。大変申し訳ございませんでした」

「はぁ、記憶がないひとを責めてもしょうがない。 それよりも、自己紹介がまだだった。 私、クロノア・トンディ・ハネール。 どこにでもいる冒険者、それでこっちがクレール」

「クロノア……というと、もしやクロノア・ゲイト・ハネール様のご息女様?」

「お父さん、知ってるの?」

「ええ、有名な歴史学者でしたから。 アリアン教会で取り扱う歴史資料のほとんどは、ゲイト様の著書ですので、見習い時代にはよく読んでいました……行方不明になられた事件は、本当に残念でした」

「……その話はもういい。 それで、私たちはあなたのことをなんて呼べばいい?」

 父親の話にトンディは少し表情を曇らせ、話を遮るように聖女へと問いかける。

「あ、そうでした。 私は本名をナグリヤッコ・シャトー・マルゴーと申します」

「すごい名前……フルネーム長いから、ヤッコでもいい?」

「まぁ‼︎ あだ名ですね‼︎ 私あだ名なんて初めてです。そうしたら私は、お二人をトンちゃんとクーちゃんとお呼びしても?」

「構わない。 よろしくね、ヤッコ」

「ええ‼︎ よろしくお願いします」

 ニコニコと笑いながら握手をかわすトンディとヤッコ。

 しかし次の瞬間ヤッコはハッとした表情を浮かべる。

「どうしたの?」

「そういえば、あの、私の荷物は無事でしょうか? よもや賊に奪われていないと良いのですが」

 よほど大事なものが入っているのだろう、そわそわし始めるヤッコ。

 その様子にクレールは首をかしげると。

「とりあえず、ヤッコが倒れてた場所にあったものなら集めてまとめておいたけれど、何かがなくなってたとしても私たちにはわからないぞ?」

「あ、そうですよね。ごめんなさい私取り乱しちゃって。本来何を取られようが神に仕える身、試練と耐えることができるのですが。 おさ……いえ、聖水の収められた聖なるひょうたんだけは失うわけには行かないのです」

「聖なる……ひょうたん? ……これのことか?」

  聖なるひょうたんという聞きなれないキーワードに、クレールは首を傾げながらもヤッコの荷物を漁り、一つのひょうたんを手に取ると、心のそこから安堵したという表情でヤッコはため息を漏らす。

「あぁ、そうです。それです‼︎ よかった、無事でした」

「大切な……ん?」

 トンディは鼻をひくつかせ、ひょうたんの匂いを嗅ぎ、ヤッコは不安そうな表情を見せる。

「あの? 何か?」

「いや、なんでもない。 きっと気のせい。 大切なものなんでしょ? はい」

「うっふふふ、ありがとうございます‼︎ あぁ、これがないとやっぱり始まりません」

「始まる?」

「うふふ、それでは、いっただっきまーす」

 「「‼︎?」」

 瓢箪をうけとるや否や。

 ヤッコはひょうたんの栓を抜くと、ぐびぐびと中身を飲み始め。

「っかあああああー‼︎ 生き返るーー‼︎」

「「!!!!!???」」

 先ほどの聖女らしい立ち振る舞いは何処へやら、おっさんくさい発言とともに豪快に吐息を漏らす。

「な、なんだ‼︎? いきなりどうしたんだヤッコのやつ……てか酒くさ‼︎?」

「やっぱり、その瓢箪の中身お酒……」

 げんなりという表情を見せながらトンディはそう呟く。

 部屋に漂う香りはまごう事なき酒の香りであり、クレールはその事実に目を白黒させてトンディとヤッコを交互に見る。

「え? え? でも、聖職者はお酒飲んじゃダメなんじゃ」

「表向きはそうですけれど、みんな隠れて裏でお酒くらい飲んでますよー?  かくいう私もつらーい修行の末に聖女になりはしましたが、どーしても酒だけはやめられなくてですね。みんなに隠してはもらってはいたんですが……あ、そういえばここに来る前、確か私皆さんと一緒に酒場にいましたね」

「おい、まさかあんた記憶がないのって」

「酒飲んで記憶なくしただけ……?」

「あー、だんだん思い出してきました。 そういえば飲んで泥酔した状態で大暴れした気がします。そのあと気持ちよくなっちゃって……確か馬車の荷台で寝たような?」

「しかもその状態で司祭6人に重傷を負わせたと」

「おい誰だこんな時限爆弾見たいな女家の前に捨てていったやつ。 爆弾処理場じゃねーぞここは」

「と言うか、今すぐお酒飲むのやめて」

「大丈夫ですよー。 変に強いお酒を一気飲みとかしなければ。 それに記憶がなくなるなんて今回がはじめてなんですし」

「と言いながら浴びるようにひょうたんの中身一気飲みしてるぞ?」

「速達でおくりかえそう。 手伝ってクレール」

「よしきた任せろ」

 そう言うとクレールは、酒を幸せそうに飲むヤッコの首根っこを掴むが。

「おーっとー、お話のところ悪いんだけどそーもいかないみたいなんだよねー」

 まるで我が家のように勝手に玄関のドアを開けてアキが再び姿をあらわした。
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