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コールオブホーリーガール
鉄百合の聖女
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ヤッコのはなし。
「アイシャさん‼︎ こちらに‼︎」
突然の襲撃に、ヤッコはアイシャを連れてギルドの内部を走る。
最悪、ギルドの中での戦闘も視野に入れて臨戦態勢を取っていたヤッコであったが、ギルド内にはホムンクルスは湧いておらず。
「い、一体何の騒ぎですか聖女さま!?」
銃声を聞きつけたのか、慌てた様子のキリサメとヤッコは鉢合わせになる。
「ギルドが襲撃されました‼ 敵はホムンクルス複数体……今はトンちゃんとクーちゃんが囮になっています。︎ キリサメさんは、アイシャさんと非戦闘員を安全な場所に‼︎」
「ぎ、ギルドを襲撃だと!? そんな、なにかの間違いじゃ、このエリンディアナは魔族との戦いも戦争とも無縁で……」
突然のヤッコの言葉に、困惑するようにキリサメは慌てふためく。
だが、その困惑した言葉を言い終わるよりも早く、キリサメの言葉を、軽薄そうな男の声がかき消す。
「間違いじゃねえぜぇ? お嬢ちゃん……ここは、というよりもこのあたりは今襲撃されてる、俺たちによってなぁ」
「っ‼︎ 誰だ‼︎」
ギルド裏口の前から響く声、その場所をヤッコは睨むと、いつからいたのか。
そこにはひとりの長髪の男が槍を構えて立っている。
「あ~あ、もうすこし無能なら、手を出す必要もなかったんだけどなぁ?」
軽薄さを感じる声。
されどその言葉が紡がれるほど、空気は鉛のように重くなる。
――――強い。
素性も、襲撃理由も、所属も不明。
だが危険であるということはヤッコの直感が告げ、キリサメとアイシャをかばうようにすぐさまメイスを構えて立ちふさがる。
「や、ヤッコさん‼︎?」
アイシャは不安げにヤッコの名前を呼ぶが、それに答える余裕がヤッコには存在していない。
気を抜けば、集中を欠けば、間違いなく全員の心臓が穿たれる。
「おーおー、すげえ殺気だなぁ姉ちゃん。 それでいて真っ直ぐだ……いいねぇ、そういうやつと殺し合うのは俺は大好きだからよ。せいぜい全力で抵抗してくれよ」
問答無用……と言わんばかりに白銀の槍を構え、その矛先にてヤッコを捉える。
狭い一直線の通路、攻撃が点となる槍と、線になるメイスではどちらが有利かは言うまでもなく。
「逃げてくださいお二人とも……ここは守り抜きますので、ギルドの中へ」
ヤッコは唇を噛んで二人に逃げるように促しメイスを構える。
「で、ですがヤッコさん……」
「後で追いかけます。 今の私では、あなた方二人を守りながらでは、おそらく10秒もちません」
一切目をそらさぬヤッコの瞳はあれは格上だ、と語っており。
その意図を読み取ったキリサメは、アイシャの手を取ってギルドエントランスへと駆けていく。
「……終わったか? ほかに逃すやつがいるなら待ってやるぜ?」
廊下から消えた二人を確認し、退屈げに男は呟くと、ヤッコは不思議そうに首をかしげる。
「意外ですね、わざわざこれだけ大規模な襲撃を仕掛けたのです。 てっきり背を向けた二人に仕掛けてくると思いましたが」
「なぁに。 金で雇われた傭兵だって、仕事の好き嫌いはあるもんでね。 成り行きとはいえ、女子供を殺す仕事におまけに誘拐なんざ、楽しみの一つでもなきゃやってられないのさ」
「誘拐……というとアイシャさんのことですか」
「あぁ、うちの雇い主は強欲な上に卑怯者なんだ。ウスの異本の行方を知る人間……そいつの目の前に娘連れてきゃ、簡単に口を割るだろうってな」
「なるほど……反吐が出ますね。叩き割ってでもその雇い主とやらの居場所……吐かせてもらいます」
「そりゃ無理な話だ……」
「なぜ?」
額に青筋を浮かべ、小さく呟くヤッコ。
その表情に満足したように男は槍を構え。
跳ぶ。
「そりゃ‼︎ てめえより俺の方が強えからだよ‼︎」
「っ‼︎?」
突進を仕掛けるように放たれた白銀の矛先。
その一撃をヤッコはメイスで弾き、隙だらけの胴体に一撃を叩き込む。
が。
「遅え‼︎」
その一撃を、男は後ろに仰け反ってかわし、ヤッコの腹部に蹴りを放つ。
「うっ……」
数メートル後ろに吹き飛ばされるヤッコ。
ダメージこそ服に仕込んだ鉄板により軽減されたものの。
今の一撃で実力差は歴然となる。
「ふっははは、パワーとタフネスはたしかにすげえよ。俺の蹴り食らって平然としてんだもんな……だけどどんなパワーのある攻撃も、当たらなきゃ意味はねえ」
「……なるほど、どうにも相性は最悪のようですね」
「あぁ、その怪力、あんたはバケモンや魔物を倒すにはそら強えだろう。だけど対人戦は素人のそれだ」
「耳が痛いですね」
ヤッコはそういうと、メイスを構える。
先ほどと同じ構え……。
魔法を唱えるでもなく、型も呼吸も同じ。
その姿に、男はやれやれとためいきを漏らす。
「なんだよ、もう打つ手なしかよ。 興醒めだ……せめて苦しまねえように殺してやる」
飽きた……と言わんばかりに突進を仕掛ける構えをとる男。
それに対しヤッコは……。
「え゛ぃりえ゛ん‼︎」
奇声にも近い怒声とともに、メイスで自分の頭を強打する。
「なっ何を!?」
突然の自傷行為に驚愕をする男。
だが、顔面から血を噴き出すヤッコは不敵に笑った。
「私は殴られれば殴られるほど強くなる……もう、貴方の槍は届きません!」
「はん、顔面流血して気合が入ったってか? 気を引き締めようが何しようが、お前は俺の速さについて来れない時点で……死ぬことは決まってんだよ‼︎」
そう言いながら刃をふるう男……だが。
「いいえ、私は死にません……」
ヤッコは身構えることも回避行動を取ることもなく、差し出すようにその額を差し出す。
──────否、頭突きをかます。
「だって今は、私の方が硬いから!!」
額を穿つ槍の矛先……当然鋼で鍛えられた刃に、その男の技量であれば鉄塊にすら風穴を開けるだろう。
だがその一撃すらも、聖女の石頭は砕け散らせた。
「なっなっなっなっ⁉︎ なんだとおおおぉ⁉︎」
「私の体は特異体質でして、出血をした箇所がオリハルコン並みに硬質化するんです」
「固くなるって……ま、まさかお前、アリアン教会の戦闘聖女‼︎ 鉄百合(アイアンリリー)のシャトー・マルゴーか⁉︎ 何でこんな所に‼︎」
「そんなこと、今から吹っ飛ぶ貴方様には関係ないことですよ‼︎」
満足げな笑みとともに、回転を加えたメイスによる渾身の一撃。
「ち、ちくしょおおおぉ‼︎?」
【ダイナミック・フルスイング‼︎‼︎】
振るわれた一撃は、男の腹部を穿ち。
エントランス壁を超えて男をエントランスから冒険者広場まで吹き飛ばす。
「……ヤッコ‼︎? いくらなんでもやりすぎだあぁ‼︎」
なにかが崩れるような音に混じり、悲鳴のようなクレールの声がエントランスに聞こえてきた。
「アイシャさん‼︎ こちらに‼︎」
突然の襲撃に、ヤッコはアイシャを連れてギルドの内部を走る。
最悪、ギルドの中での戦闘も視野に入れて臨戦態勢を取っていたヤッコであったが、ギルド内にはホムンクルスは湧いておらず。
「い、一体何の騒ぎですか聖女さま!?」
銃声を聞きつけたのか、慌てた様子のキリサメとヤッコは鉢合わせになる。
「ギルドが襲撃されました‼ 敵はホムンクルス複数体……今はトンちゃんとクーちゃんが囮になっています。︎ キリサメさんは、アイシャさんと非戦闘員を安全な場所に‼︎」
「ぎ、ギルドを襲撃だと!? そんな、なにかの間違いじゃ、このエリンディアナは魔族との戦いも戦争とも無縁で……」
突然のヤッコの言葉に、困惑するようにキリサメは慌てふためく。
だが、その困惑した言葉を言い終わるよりも早く、キリサメの言葉を、軽薄そうな男の声がかき消す。
「間違いじゃねえぜぇ? お嬢ちゃん……ここは、というよりもこのあたりは今襲撃されてる、俺たちによってなぁ」
「っ‼︎ 誰だ‼︎」
ギルド裏口の前から響く声、その場所をヤッコは睨むと、いつからいたのか。
そこにはひとりの長髪の男が槍を構えて立っている。
「あ~あ、もうすこし無能なら、手を出す必要もなかったんだけどなぁ?」
軽薄さを感じる声。
されどその言葉が紡がれるほど、空気は鉛のように重くなる。
――――強い。
素性も、襲撃理由も、所属も不明。
だが危険であるということはヤッコの直感が告げ、キリサメとアイシャをかばうようにすぐさまメイスを構えて立ちふさがる。
「や、ヤッコさん‼︎?」
アイシャは不安げにヤッコの名前を呼ぶが、それに答える余裕がヤッコには存在していない。
気を抜けば、集中を欠けば、間違いなく全員の心臓が穿たれる。
「おーおー、すげえ殺気だなぁ姉ちゃん。 それでいて真っ直ぐだ……いいねぇ、そういうやつと殺し合うのは俺は大好きだからよ。せいぜい全力で抵抗してくれよ」
問答無用……と言わんばかりに白銀の槍を構え、その矛先にてヤッコを捉える。
狭い一直線の通路、攻撃が点となる槍と、線になるメイスではどちらが有利かは言うまでもなく。
「逃げてくださいお二人とも……ここは守り抜きますので、ギルドの中へ」
ヤッコは唇を噛んで二人に逃げるように促しメイスを構える。
「で、ですがヤッコさん……」
「後で追いかけます。 今の私では、あなた方二人を守りながらでは、おそらく10秒もちません」
一切目をそらさぬヤッコの瞳はあれは格上だ、と語っており。
その意図を読み取ったキリサメは、アイシャの手を取ってギルドエントランスへと駆けていく。
「……終わったか? ほかに逃すやつがいるなら待ってやるぜ?」
廊下から消えた二人を確認し、退屈げに男は呟くと、ヤッコは不思議そうに首をかしげる。
「意外ですね、わざわざこれだけ大規模な襲撃を仕掛けたのです。 てっきり背を向けた二人に仕掛けてくると思いましたが」
「なぁに。 金で雇われた傭兵だって、仕事の好き嫌いはあるもんでね。 成り行きとはいえ、女子供を殺す仕事におまけに誘拐なんざ、楽しみの一つでもなきゃやってられないのさ」
「誘拐……というとアイシャさんのことですか」
「あぁ、うちの雇い主は強欲な上に卑怯者なんだ。ウスの異本の行方を知る人間……そいつの目の前に娘連れてきゃ、簡単に口を割るだろうってな」
「なるほど……反吐が出ますね。叩き割ってでもその雇い主とやらの居場所……吐かせてもらいます」
「そりゃ無理な話だ……」
「なぜ?」
額に青筋を浮かべ、小さく呟くヤッコ。
その表情に満足したように男は槍を構え。
跳ぶ。
「そりゃ‼︎ てめえより俺の方が強えからだよ‼︎」
「っ‼︎?」
突進を仕掛けるように放たれた白銀の矛先。
その一撃をヤッコはメイスで弾き、隙だらけの胴体に一撃を叩き込む。
が。
「遅え‼︎」
その一撃を、男は後ろに仰け反ってかわし、ヤッコの腹部に蹴りを放つ。
「うっ……」
数メートル後ろに吹き飛ばされるヤッコ。
ダメージこそ服に仕込んだ鉄板により軽減されたものの。
今の一撃で実力差は歴然となる。
「ふっははは、パワーとタフネスはたしかにすげえよ。俺の蹴り食らって平然としてんだもんな……だけどどんなパワーのある攻撃も、当たらなきゃ意味はねえ」
「……なるほど、どうにも相性は最悪のようですね」
「あぁ、その怪力、あんたはバケモンや魔物を倒すにはそら強えだろう。だけど対人戦は素人のそれだ」
「耳が痛いですね」
ヤッコはそういうと、メイスを構える。
先ほどと同じ構え……。
魔法を唱えるでもなく、型も呼吸も同じ。
その姿に、男はやれやれとためいきを漏らす。
「なんだよ、もう打つ手なしかよ。 興醒めだ……せめて苦しまねえように殺してやる」
飽きた……と言わんばかりに突進を仕掛ける構えをとる男。
それに対しヤッコは……。
「え゛ぃりえ゛ん‼︎」
奇声にも近い怒声とともに、メイスで自分の頭を強打する。
「なっ何を!?」
突然の自傷行為に驚愕をする男。
だが、顔面から血を噴き出すヤッコは不敵に笑った。
「私は殴られれば殴られるほど強くなる……もう、貴方の槍は届きません!」
「はん、顔面流血して気合が入ったってか? 気を引き締めようが何しようが、お前は俺の速さについて来れない時点で……死ぬことは決まってんだよ‼︎」
そう言いながら刃をふるう男……だが。
「いいえ、私は死にません……」
ヤッコは身構えることも回避行動を取ることもなく、差し出すようにその額を差し出す。
──────否、頭突きをかます。
「だって今は、私の方が硬いから!!」
額を穿つ槍の矛先……当然鋼で鍛えられた刃に、その男の技量であれば鉄塊にすら風穴を開けるだろう。
だがその一撃すらも、聖女の石頭は砕け散らせた。
「なっなっなっなっ⁉︎ なんだとおおおぉ⁉︎」
「私の体は特異体質でして、出血をした箇所がオリハルコン並みに硬質化するんです」
「固くなるって……ま、まさかお前、アリアン教会の戦闘聖女‼︎ 鉄百合(アイアンリリー)のシャトー・マルゴーか⁉︎ 何でこんな所に‼︎」
「そんなこと、今から吹っ飛ぶ貴方様には関係ないことですよ‼︎」
満足げな笑みとともに、回転を加えたメイスによる渾身の一撃。
「ち、ちくしょおおおぉ‼︎?」
【ダイナミック・フルスイング‼︎‼︎】
振るわれた一撃は、男の腹部を穿ち。
エントランス壁を超えて男をエントランスから冒険者広場まで吹き飛ばす。
「……ヤッコ‼︎? いくらなんでもやりすぎだあぁ‼︎」
なにかが崩れるような音に混じり、悲鳴のようなクレールの声がエントランスに聞こえてきた。
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