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ゆきちゃんとこはなちゃん
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とある町の、小さな保育園に、二人の少女がいました。
少女の名前は幸菜と心花といいます。
みんなからは”ゆきちゃん”、”こはなちゃん”と呼ばれていました。
赤ちゃんの時から保育園に通っている二人はとても仲が良く、いつも一緒でした。
そんな二人も、春からは小学生。
新しい年に変わってから、保育園でも少しづつひらがなの練習がはじまっています。
書ける字が増えるのは、とても嬉しい事です。
あっちでも、こっちでもお手紙交換がはじまります。
特に女の子の間では書いた紙を色々な形に折ってお友達に渡すのが人気でした。
そんなある日、こはなちゃんがゆきちゃんにお手紙を書いてくれました。
お手紙は、ハートの形をしていました。
こはなちゃんからのお手紙はたくさんもらっていましたが、ハートの形は初めてです。
ゆきちゃんは、とってもかわいくて、開きたくなくなってしまいました。
まだひとりでハートの形に折ることができなかったので、開けたらもとに戻せなくなってしまうからです。
ゆきちゃんは、もらったお手紙をだいじにだいじにかばんにしまい、おうちへもって帰りました。
次の日、ゆきちゃんがいつものように保育園へ行くと、こはなちゃんがいませんでした。
先生は、かぜでお休みしているのよ、と言いました。
ゆきちゃんは、こはなちゃんにお手紙を書くことにしました。
折り紙の色はピンクにしました。
こはなちゃんが一番好きな色です。
こはなちやん
へ
はやくよくな
つてね ゆき
より
習ったばかりの文字は大きかったり、小さかったり、ななめになったり、つぶれていたり。
それでも、一生懸命書いたゆきちゃんは、先生にほめられて満足顔です。
ご機嫌なゆきちゃんは、ふと思いつきました。
そうだ、こはなちゃんみたいにハートに折ってみよう。
さっそく先生に教えて、とお願いに行きました。
先生がゆきちゃんの横で見本を折ってくれます。
ゆきちゃんは、それをまねっこします。
同じに作ったはずなのに、できあがったハートは、すこし曲がってしまいました。
それでも、先生は、初めてなのにじょうずにできたね、と、たくさんほめてくれました。
きっとこはなちゃんもよろこんでくれるよ、と言われて自信が出てきたゆきちゃんは、明日こはなちゃんがきたら渡そうと、おどうぐばこの中にしまいました。
ところが、こはなちゃんは次の日も来ませんでした。
ゆきちゃんは、またお手紙を書きました。
今日は黄色の折り紙です。
ゆきちゃんの一番好きな色です。
今日も先生にお願いして、一緒に折りました。
ハートは、昨日よりもきれいに折ることができました。
ゆきちゃんは、すこしうれしくなりました。
ハートは2つになりました。
こはなちゃんは、その次の日も来ませんでした。
今日こそ渡せると思ったのに・・・。
ゆきちゃんは、またお手紙を書きました。
今度は水色の折り紙です。
今日の空の色です。
久しぶりの青空は、落ち込んでいたゆきちゃんの気持ちも明るくしてくれます。
ゆきちゃんは、先生に手伝ってもらわなくても、きれいなハートが折れるようになっていました。
ハートは3つになりました。
3つめのお手紙を書いた日の夜、ゆきちゃんは、こはなちゃんからもらったお手紙をひらきました。
もう、あけても自分でなおせます。
お手紙には、
また あそぼうね。
と書いてありました。
ゆきちゃんはお返事を書きました。
また あそぼうね。
今度はキラキラの折り紙です。
お母さんに買ってもらった、ゆきちゃんのとっておきです。
こはなちゃんとなにをして遊ぼうか考えると、とってもわくわくします。
お絵描きもいいし、折り紙もしたい。追いかけっこも楽しそうだし、なわとびもいいな。
したいことは、いくらでも出てきます。
4つめのハートは、今まででいちばんきれいに折れました。
光にあたったところが七色になって、お星さまみたいでとてもきれいです。
まがらないように、そぉっとかばんの中へ入れました。
次の日の朝、園長先生が年長さんのお部屋へやってきました。
こはなちゃんは亡くなったのだそうです。
なくなるというのは、しんだ、ということらしいです。
保育園にはもう来ないのだそうです。
ゆきちゃんは涙があふれて止まらなくなってしまいました。
泣きじゃくるゆきちゃんを、先生はいっぱいいっぱいなぐさめてくれました。
先生は、ゆきちゃんが泣いたのは、こはなちゃんと会えないことが悲しいからだと思っていました。
けれど、その時ゆきちゃんが考えていたのは、がんばって書いたお手紙たちのことでした。
せっかく上手にできたのに、渡せないなんて・・・。
おうちに帰ってお母さんにお手紙の話をすると、こはなちゃんへ届けてくれるといいました。
ゆきちゃんは嬉しくなりました。
辺りが暗くなり始めたころ、ゆきちゃんのお母さんは、黒いワンピースを着て出かけていきました。
出かける前、ていねいにお化粧をして、いつもはつけないネックレスをつけて、すてきなお洋服を着たお母さんを見て、ゆきちゃんは、とってもきれい!かわいい!と言いました。
自分のことのように嬉しそうにはしゃぐゆきちゃんを見て、お母さんは、ありがとうと言いましが、その顔はなんだか困っているようにも見えました。
まだかな、まだかな・・・。
ゆきちゃんは、そわそわしながらお母さんの帰りを待っています。
帰ってきたお母さんから、お手紙ちゃんと渡したよ、と聞いてゆきちゃんはほっとしました。
そして、眠りにつく前にベッドの中で、そっとお願いをしました。
「はやくお返事きますように」
少女の名前は幸菜と心花といいます。
みんなからは”ゆきちゃん”、”こはなちゃん”と呼ばれていました。
赤ちゃんの時から保育園に通っている二人はとても仲が良く、いつも一緒でした。
そんな二人も、春からは小学生。
新しい年に変わってから、保育園でも少しづつひらがなの練習がはじまっています。
書ける字が増えるのは、とても嬉しい事です。
あっちでも、こっちでもお手紙交換がはじまります。
特に女の子の間では書いた紙を色々な形に折ってお友達に渡すのが人気でした。
そんなある日、こはなちゃんがゆきちゃんにお手紙を書いてくれました。
お手紙は、ハートの形をしていました。
こはなちゃんからのお手紙はたくさんもらっていましたが、ハートの形は初めてです。
ゆきちゃんは、とってもかわいくて、開きたくなくなってしまいました。
まだひとりでハートの形に折ることができなかったので、開けたらもとに戻せなくなってしまうからです。
ゆきちゃんは、もらったお手紙をだいじにだいじにかばんにしまい、おうちへもって帰りました。
次の日、ゆきちゃんがいつものように保育園へ行くと、こはなちゃんがいませんでした。
先生は、かぜでお休みしているのよ、と言いました。
ゆきちゃんは、こはなちゃんにお手紙を書くことにしました。
折り紙の色はピンクにしました。
こはなちゃんが一番好きな色です。
こはなちやん
へ
はやくよくな
つてね ゆき
より
習ったばかりの文字は大きかったり、小さかったり、ななめになったり、つぶれていたり。
それでも、一生懸命書いたゆきちゃんは、先生にほめられて満足顔です。
ご機嫌なゆきちゃんは、ふと思いつきました。
そうだ、こはなちゃんみたいにハートに折ってみよう。
さっそく先生に教えて、とお願いに行きました。
先生がゆきちゃんの横で見本を折ってくれます。
ゆきちゃんは、それをまねっこします。
同じに作ったはずなのに、できあがったハートは、すこし曲がってしまいました。
それでも、先生は、初めてなのにじょうずにできたね、と、たくさんほめてくれました。
きっとこはなちゃんもよろこんでくれるよ、と言われて自信が出てきたゆきちゃんは、明日こはなちゃんがきたら渡そうと、おどうぐばこの中にしまいました。
ところが、こはなちゃんは次の日も来ませんでした。
ゆきちゃんは、またお手紙を書きました。
今日は黄色の折り紙です。
ゆきちゃんの一番好きな色です。
今日も先生にお願いして、一緒に折りました。
ハートは、昨日よりもきれいに折ることができました。
ゆきちゃんは、すこしうれしくなりました。
ハートは2つになりました。
こはなちゃんは、その次の日も来ませんでした。
今日こそ渡せると思ったのに・・・。
ゆきちゃんは、またお手紙を書きました。
今度は水色の折り紙です。
今日の空の色です。
久しぶりの青空は、落ち込んでいたゆきちゃんの気持ちも明るくしてくれます。
ゆきちゃんは、先生に手伝ってもらわなくても、きれいなハートが折れるようになっていました。
ハートは3つになりました。
3つめのお手紙を書いた日の夜、ゆきちゃんは、こはなちゃんからもらったお手紙をひらきました。
もう、あけても自分でなおせます。
お手紙には、
また あそぼうね。
と書いてありました。
ゆきちゃんはお返事を書きました。
また あそぼうね。
今度はキラキラの折り紙です。
お母さんに買ってもらった、ゆきちゃんのとっておきです。
こはなちゃんとなにをして遊ぼうか考えると、とってもわくわくします。
お絵描きもいいし、折り紙もしたい。追いかけっこも楽しそうだし、なわとびもいいな。
したいことは、いくらでも出てきます。
4つめのハートは、今まででいちばんきれいに折れました。
光にあたったところが七色になって、お星さまみたいでとてもきれいです。
まがらないように、そぉっとかばんの中へ入れました。
次の日の朝、園長先生が年長さんのお部屋へやってきました。
こはなちゃんは亡くなったのだそうです。
なくなるというのは、しんだ、ということらしいです。
保育園にはもう来ないのだそうです。
ゆきちゃんは涙があふれて止まらなくなってしまいました。
泣きじゃくるゆきちゃんを、先生はいっぱいいっぱいなぐさめてくれました。
先生は、ゆきちゃんが泣いたのは、こはなちゃんと会えないことが悲しいからだと思っていました。
けれど、その時ゆきちゃんが考えていたのは、がんばって書いたお手紙たちのことでした。
せっかく上手にできたのに、渡せないなんて・・・。
おうちに帰ってお母さんにお手紙の話をすると、こはなちゃんへ届けてくれるといいました。
ゆきちゃんは嬉しくなりました。
辺りが暗くなり始めたころ、ゆきちゃんのお母さんは、黒いワンピースを着て出かけていきました。
出かける前、ていねいにお化粧をして、いつもはつけないネックレスをつけて、すてきなお洋服を着たお母さんを見て、ゆきちゃんは、とってもきれい!かわいい!と言いました。
自分のことのように嬉しそうにはしゃぐゆきちゃんを見て、お母さんは、ありがとうと言いましが、その顔はなんだか困っているようにも見えました。
まだかな、まだかな・・・。
ゆきちゃんは、そわそわしながらお母さんの帰りを待っています。
帰ってきたお母さんから、お手紙ちゃんと渡したよ、と聞いてゆきちゃんはほっとしました。
そして、眠りにつく前にベッドの中で、そっとお願いをしました。
「はやくお返事きますように」
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