新人魔導士と過保護な先輩

トキどき

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31.魔力値

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 リントの魔力に応え、濃い緑色の液体が、するすると上へ伸びていった。
 70を過ぎても止まらず、リントは焦る。
 結局、そのまま一番上まで行きついてしまった。
 唖然としているリントに比べ、ノエルはそれほど驚いているようには見えなかった。

「これ、壊れてるってことは?」
「ちょっと貸せ」

 ノエルはリントから測定器を取り上げると、今度は自分の魔力を込め始めた。
 ノエルよりやや薄い緑に、赤と白が時々混ざる。

「多属性…」
「少し混じってるだけで、大したことねーよ」

 リントの呟きに、ノエルは何でもないかのように答えた。
 確か、赤は火、白は聖属性だったはず。
 教科書の文字をリントは必死に思い出していた。
 液体は95の位置でぴったり止まった。

「壊れてない。あんた本当にこの国の人間?」
「父も母もこの国出身です」
「祖先は?」
「そんな先まで知りませんよ」
「家系図は?」
「ないですよ。貴族じゃあるまいし」

『貴族』の言葉にノエルの肩がぴくりと震えた。
 まずいところに触れてしまったのだろうか。
 リントは身構えたが、ノエルが何か言う事はなかった。

「そうだ、無属性だけでも測れるって言ってたな。それも見せてもらっていいか?」

 頷いたリントが深く呼吸をしてからそっと石に手を当てた。
 透明だが、温かみのある光が随所に瞬いている。
 44を少し超えた辺りで動かなくなった。

「ほんとに出来んだな。これ、大変じゃないのか?」

 ノエルが感嘆の声をあげた。

「出来るまでは大変でしたよ。小さいころの魔法の授業はほとんどこれに費やしてました。おかげで通常の課題が全然進まなくて。成績、いっつも下の方を彷徨ってたんです」

 リントは苦笑交じりに言った。

「それにしても、属性と無属性で数値が違うってどういう事だ?」
「知りませんよ。さすがに数値までは操れませんし。他の人のを見たこともないですし」
「俺がその技使えれば検証できるってことか」
「そうなりますね」

 リントは『やってみます?』と測定器を差し出す。
 意外にもノエルは素直に受け取った。

「どうすればいい?」
「魔法を使うときと一緒です。頭の中でしたいことを想像します。私は、混じりあっているものを分離して、無属性だけを抽出するような感じを思い浮かべてます」

 魔法の授業の難しいところはここである。
 魔法陣のように理論に従って展開されていくのであれば、書物に載っている通りに覚えればいいが、こればかりは感覚で覚えるしかない。

 その為、教える側はその感覚をどれだけうまく伝えられるかが重要になるし、教えられる側も、師の言葉をどれだけ咀嚼できるかがものを言う。
 理詰めで話すのが得意な人もいれば、擬音で全てを語る人もいるので、相性はとても大事だ。

 ノエルは、短く『わかった』とだけ言い、石に触れ、目を閉じた。
 集中しているのが傍から見てもよくわかる。
 揺らめいた魔力は、最初だけ透明に見えたが、あっという間に元に戻ってしまった。

「どうだ?」

 目を開けたノエルが色を確認して落胆する。

「やっぱ無理か」
「最初は少し薄かったですよ。1回目で出来るなんて凄いです!練習すれば、早いうちにうまくいくようになると思いますよ?」
「そうだな。時間ある時にでもやってみるか」

 リントの言葉に気を良くしたらしいノエルは、かなり乗り気に見えた。
 ふと思い出したらしく、ノエルが質問してくる。

「さっき、先生のせいで魔力値が上がったって言ってたけど?」
「そうですね。6歳くらいまでは属性込みで43でした」

 明らかに不可解な顔をするノエルに、リントは付け加えた。

「高熱を出したことがあって。その後に上がったらしいです」
「先に言えよ」
「聞かれなかったから…」

 言い返そうとして、ついため口になってしまった。
『らしい』と言ったのは、リントがその値を見ていないからだ。
 すべて、自分が寝ている間に終わっていた。
 あとは言われたままを信じ、言われるままに努力を積み重ねてきただけだ。
 全く疑問を持たなかったと言えば嘘になるが、幼い自分に師の言葉は絶対だった。

「ただ、最期に先生が『自分のせい』って言われてたので、本当に高熱が理由だったのかは…」

 ノエルはしばらく考え込んでいたが、『だめだ、わかんねぇ』と頭を抱えた。

「とりあえず魔力値はわかったし、今日はこれで終わりにしようぜ。時間も用意もないから、教えるのは次からな」

 お互いの予定を確認し、日取りを決めた。
 用は済んだとばかりにノエルが帰る準備を始める。
 彼が馬に手をかけるその背に向かって、リントは声をかけた。

「あの、やっぱり気になるので、1つだけいいですか」
「なに?」

 振り向いたノエルの顔には、明らかに『めんどくさい』と書いてある。
 一瞬怯んだリントだったが、せっかく勇気を出したので最後まで続けた。

「どうして教えてくれる気になったんですか?」

 そんなことか、とノエルは呆れた声で返した。

「ただの気まぐれ」
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