新人魔導士と過保護な先輩

39.嫌悪

「ねぇ、トートと一緒にいる子、見かけない顔ね」

　足を組み、椅子の背もたれに片肘を乗せたカミラは、爪先のマニキュアの擦れを気にしつつ、隣の男に聞いた。

　外は、夕闇。
　店の窓から見る往来は、それなりに人が多い。
　仕事を終えて家へ帰る者、飲みに出かける者、これから仕事の者、観光客。
　様々な予定と事情を抱えて歩く人々の中に、はしゃぐ2人の若い女がいた。

「新しい隊員じゃないのか？」

　男の『隊員』の言葉に近寄ってきたのは、先ほどリントと馬車で一緒だった男だ。
　ちらりと窓の外を確認すると、ああ、と納得した顔をした。

「あれ、新しく来た魔導士だよ」

　その言葉に、店内にいた男たちがざわめいた。
『魔導士』『女の魔導士だって』『若いのか』『ほら、まえに討伐で』『ああ、ユールの』

『ユール』の名前に、カミラがぴくりと反応した。
　しっかり容姿を確認しようと、身を乗り出す。

　艶やかな長い髪が、街灯の明かりに煌めいていた。
　瞳の色は珍しい方だが、トートのアースアイに比べたらそれなりにいる。
　服も着飾ったところが無く、体型もほっそりしているだけで、凹凸が足りていない。
　自分のほうが、よほどユールに似合いではないか。

「なによ、大したことないじゃない」

　カミラは嘲るように口の端をあげた。
　しかし、彼らはそんな彼女の言葉など気にすることなく、話題の魔導士を一目見ようと、窓前に集まりだす。
『いくつ？』『若いな』『ちょ、見えない』『トートと同じくらいじゃないのか』『だから、押すなって』『魔導士なら20過ぎてるだろ』『誰か声かけて来いよ』

　店内は、すっかり女魔導士の話題一色になってしまった。
　彼女と話したことがあるという隊員が―実際は、書類を隊長へ渡しに来た彼女に応対しただけなのだが―自慢気に嘯うそぶいている。

　―気に入らない。

　勝手に盛り上がっている男どもを一瞥して、カミラは席を立った。