新人魔導士と過保護な先輩

トキどき

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54.思わぬ提案

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「話戻すけど、何かある?今無ければ思いついた時でもいいし」

 個人的なことはあまり触れられたくないのかもしれない。
 唐突に話を切ったユールに合わせ、トートも真面目に考え出した。

「そうですねぇ」

 本当に気にしなくていいのだが、ユールとしては何かしないと気が済まないのだろう。
 思いあぐねた時、さっきの兄の話が頭を過った。

「あの、贈り物の相談に乗ってもらえますか。兄の誕生日が来月なんです」
「構わないけど、そんなんでいいの?」
「ご迷惑でなければ、ぜひ。いつもお酒ばかりだったので、たまにはちゃんとしたものあげてもいいかなって」

 兄は文句をいう割に、トートが欲しいというものをいつも用意してくれた。
 自分はというと、兄が真面目に答えてくれないものだから、いつもお酒だ。

「わかった。後で休みの日教えて。合わせるから」
「?休憩時間とかお昼休みで大丈夫ですよ」

 トートが提案したのは、何を買ったら喜ばれるかのアドバイスをもらえればという軽い気持ちだった。
 貴重な休みを使わせるほどの時間はかからないはずだ。
 だが、ユールの受け取り方は少しばかり違ったらしい。

「一緒に行って選ぶんじゃないの?」
「えっ」
「あ、俺と2人はまずい?恋人とか」
「いえ、そういう人はいないので!」

 まさか一緒に行ってくれるとは思っていなかったので、トートは驚きが隠せない。

「ユールさんはいいんですか?その…」
「構わないよ。はい、決まり」

 自分で言い出しておいてなんだが、思わぬ展開にトートの胸は早鐘を打ちはじめていた。

「あ、帰ってきた」

 ばさばさっと羽音が近づいてくる。
 音のする方を見ると、リントが降りてくるところだった。
 ヒポグリフがふんわりと足を地面につけ、ゆっくり膝を折る。
 先ほど気にするなとユールに言われたばかりなのに、乗っている者に少しの衝撃も与えまいとするかのような動作に、トートは焦燥感に駆られてしまった。
 
 当の本人はそんなことは気にもせず、するりと降りてヒポグリフの頭を優しく撫でている。
 こちらへ向き直ると、ようやくユールがいる事に気が付いたようだった。

「あれ、先輩来てたんですか」
「お疲れ様。少し前にね。だいぶ様になってきたんじゃない?」
「見かけだけですよ。まだ粗だらけで。トートさんみたいにはいきません」

 リントは『あはは』と乾いた笑いを浮かべている。
 トートはフォローしつつ、気になる点を指摘した。

「そんなことないよ。予定より進みすぎてるくらいなんだから、もっと肩の力抜いて。緊張するとその子も心配する」
「そうだね。気を付ける。トート、今日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします」

 そう言って、リントはトートに向かって丁寧にお辞儀をした。
『獣舎へ戻してきますね』というリントに、『俺も行くよ』とユールが続く。
リントが先に歩き出したのを確認して、ユールがトートに耳打ちした。

「連絡、待ってるから」

 兄の件も含めてとはわかっているが、トートは頬が赤く色づくのを抑えることができなかった。

・・・・・・

 2人が並んで歩いているのを背中に感じながら、リントはそっとため息を吐いた。
 さっき、少しだけ嘘をついた。
 本当はユールが来ていたことは知っていたのだ。
 上空から仲良く話す姿が見えていたから。

 けれど、一度降りようと高度を下げた時にユールがはにかんだ笑顔を浮かべているのが見えて、気がついたら空へと針路を戻していた。
 今降りたら2人の邪魔になることくらい、疎い自分でもわかった。

 後ろから聞こえてくる笑い声が耳に痛い。
 なぜだか、今の状況を素直に喜べない自分がいる。
 ずきずきと痛みを伝え続けてくる心臓をどうすることもできず、代わりに胸上の服をぎゅっと握った。


 リントが隊長に討伐参加の意思を伝えたのは、それから数日後の事だった。
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