新人魔導士と過保護な先輩

トキどき

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70.謝罪と依頼の品

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「ご無沙汰しております。申し訳ありません。なにぶんお会いしたのが幼少の頃でしたので」
「父が亡くなってから、母の実家に戻りまして。名前も変わりましたし、もう10年以上前になりますから、わからないのも無理ないことです。今回ご縁をいただきましたので、一度お会いして謝罪をしたいと、こちらから彼に申し出た次第です。子供の頃とは言え、あの時は大変失礼な物言いを致しました。心から、謝罪を」
「いえ。こちらは気にしておりませんので、ウェイトナーさんも忘れていただけると」
「ありがとうございます」

 リントの不安をよそに、彼は至極真面目な顔で謝罪してきた。
 自分にとってはかなり鮮烈な記憶だが、彼にしてみれば突然父親を亡くした辛さの当てつけのひとつでしかないだろうと思っていたので、覚えている事自体驚きだった。
 それでもこうして謝ってもらうと、わだかまりが解けていく気がするのだから、思っていた以上に傷ついていたのかもしれない。

「そろそろ料理運んでもらう?」

 成り行きを横で見守っていたユールが口を開いた。
 ウェイトナーが頷くのを確認してから、ユールが扉の向こうへ声をかけると、給仕が姿を現す。
 ユールがなんとなく安堵の表情を浮かべている気がして、今更ながら『会えばわかる』と言った彼の言葉を思い出した。
 無事友人の謝罪が受け入れられたことで安心したのだろう。
 今のリントにとっては過去の謝罪よりも、ユールが喜んでいることの方が何倍も嬉しく感じた。

 それにしても、縁とは奇妙なものである。
 まさか今更出会うとは思ってもいなかったし、食事を共にするなど昔の彼からは想像もつかない。
 時間の流れを肌で感じて感慨深く思っている間にも、給仕は空になった皿を片付け、新しい料理を置いていく。
 2人がうまく回してくれるおかげで食事中の会話には事欠かなかった。

 王道のコース料理は奇をてらわないシンプルな味付けで、素直に美味しい。
 彼らの余裕と所作の美しさに、やはりちゃんと先生について習った方がいいんだろうなと思ったが、やることだらけの今の自分では一体いつになることだろう。

 デザートも終わり、食後酒が運ばれてくる。
 リントはハーブティーだ。
 給仕を下がらせたところで、ウェイトナーが魔法板を取り出した。

「こちらがご依頼の品になります」
「これが…」

 小さな木箱がユールを介してリントに渡される。
 蓋を開けた中には磨き上げられた銀板が納められていた。
 緻密に組まれた魔法陣は、まるで芸術品のようだ。
 横からひょいと覗いたユールが軽く眉根を寄せた。

「俺のより小さくない?」
「彼女の魔力値は4と聞いたからな。お前程貯めなくても同等の力が出せるはずだ。それに、女性が持つものは少しでも軽い方がいいだろう」
「貯める?」
「その板、魔石が使われてるんだ」

 それであの威力か。
 業務に支障が出ないよう、何日かに分けて充填しているらしい。
 間に合わないときは回復薬頼みとのことだったが、リントが加われば、それもなくなるだろう。
 帰ってから詳しく解読するつもりだが、ぱっと見ただけでも、隙がないというか、完璧な魔法陣だった。

 一通りの説明が終わったところで、話に夢中でお茶を飲むのを忘れていたことに気がついたリントは、既に冷めたお茶を喉に流し込んだ。
 ほどなく腕輪に魔力が流れるのを感じ、戸惑う。
 腕輪が作動しているという事は、何か薬を盛られたという事である。
 ユールに聞いてみたいが、客人の前だ。
 それに、彼には悪いが目の前の人間が薬を盛った本人である可能性が高い。
 そんなリントの様子を見ていたウェイトナーが、淡々と言い放った。

「その腕輪、やはり魔道具でしたか」
「え?」
「理由をお伺いしても?」

 ユールの間の抜けた声と、リントの剣呑な声が重なった。
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