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109.不可解な訪問
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背後からの声に驚いたものの、先に間合いを取るべき場面で振り返ることを選んだのは、その声の主を知っていたからだった。
「ノエル!?」
「周りも確認しろよ。相手が1人とは限らねーんだから」
呆れの混じった説教と同時に、こつん、と頭に硬いものが触れる。
何かわからぬまま手を伸ばして受け取ったそれは、数秒前までリントが握っていたはずの魔法板だった。
「いつの間に…」
「むしろ、気づかない方がおかしい」
「そんなこと言われても…」
リントの拗ねた口調に、ノエルは苦笑いしただけだ。
言ってみたものの、ノエル自身リントに出来るとは思っていないのだろう。
ノエルもユールも軍部の人達も、何かしら武術を修めている人間というのは、他人が自分の間合いに入ってくると察知できるのだそうだ。
戦いとは無縁だったリントには、その感覚がよくわからない。
そして、誰に聞いても『鍛錬すればそのうち出来るようになる』としか言わない。
リントとしては、もう少し言葉の補足が欲しい所だが、こういうのは体で覚えるしかないという。
力を持て余しているだけの自分の不甲斐なさから手元の魔法板をぎゅっと握りしめたリントは、そこでようやくここへ来た目的を思い出した。
「じゃぁ、あれってもしかして」
「俺が置いた」
「えぇ―…」
人だと思っていたのは、ノエルが魔法でそれらしく見せていただけだという。
遠目とはいえ、見抜けなかった自分に嫌気が増す。
「『えー』じゃねーよ。なんで結界張らなかった。基本だろ」
「それ、は」
ノエルの正論に、つい言葉が詰まった。
リントだって、結界を張るのが最善だとわかっている。
ただ、結界は魔力消費が激しいのだ。
今朝回復薬を飲んだといっても、リントの魔力が充足したわけけではない。
魔力値のように計測器がないので正確にはわからないが、ここ数日の体感からいうと、1本で普段の6割といったところだ。
日々の業務をそつなくこなす為には十分な量。
しかし、既に『壁』に使った状態で結界を張れば、確実に途中で切れる。
そのうえ、2本目の回復薬に手をつけるには規定の服用間隔を満たしていなかった。
結果、最善と思っての選択だったのだが、これを素直に話してしまうと回復薬の話まで説明しなくてはいけなくなる。
ノエルがユールに黙っていてくれる保証もない中、どう言い繕うかを必死に考えていると、ふとある事に気がついた。
「ノエル、魔法陣読めるようになったの?」
「あ?…ああ。けど、板に描くのは難しいな。一番簡単なやつでも半日かかった」
奪った魔法板が捕縛用だと気づいての問いかけだと気づいたノエルが、何の感慨もなく答えた。
「……」
「…なんだよ」
じっと見つめてくるリントに、ノエルが焦れて先を促す。
「いや、頭の中どうなってるのかなって」
「バカにしてんのか」
「違うよ!感服してたのっ」
顔を顰めたノエルに、リントは慌てて補足をはじめた。
彼に魔導書を貸してからまだ半月と経っていないのだ。
学生だって基礎の習得だけで数か月かかるというのに、仕事の合間に読んだだけで描けるようになるなんて。
飛び級したと言っても、出自の差くらいに思っていたが、それだけではなかったらしい。
如何に凄いのかを本人に事細かに説明したら、返ってきたのは『そーかよ』と興味なさそうな返事だったのに、頬にはほんのり赤みがさしているのが見えて、リントの顔がつられて緩む。
初めてノエルの年下らしいところを見た気がして微笑ましかっただけなのだが、じろりと睨まれたので慌てて顔を整えた。
小言でも言われるかと身構えていたのに、何故か手を差し出される。
「手、貸せ」
「手?」
「ほら」
せかすように先端がひらひらと揺れる。
疑問を持たなかったわけではないが、話しが逸れた事にほっとしていたこともあり、深く考えもせず指先をその手に乗せた。
「ノエル!?」
「周りも確認しろよ。相手が1人とは限らねーんだから」
呆れの混じった説教と同時に、こつん、と頭に硬いものが触れる。
何かわからぬまま手を伸ばして受け取ったそれは、数秒前までリントが握っていたはずの魔法板だった。
「いつの間に…」
「むしろ、気づかない方がおかしい」
「そんなこと言われても…」
リントの拗ねた口調に、ノエルは苦笑いしただけだ。
言ってみたものの、ノエル自身リントに出来るとは思っていないのだろう。
ノエルもユールも軍部の人達も、何かしら武術を修めている人間というのは、他人が自分の間合いに入ってくると察知できるのだそうだ。
戦いとは無縁だったリントには、その感覚がよくわからない。
そして、誰に聞いても『鍛錬すればそのうち出来るようになる』としか言わない。
リントとしては、もう少し言葉の補足が欲しい所だが、こういうのは体で覚えるしかないという。
力を持て余しているだけの自分の不甲斐なさから手元の魔法板をぎゅっと握りしめたリントは、そこでようやくここへ来た目的を思い出した。
「じゃぁ、あれってもしかして」
「俺が置いた」
「えぇ―…」
人だと思っていたのは、ノエルが魔法でそれらしく見せていただけだという。
遠目とはいえ、見抜けなかった自分に嫌気が増す。
「『えー』じゃねーよ。なんで結界張らなかった。基本だろ」
「それ、は」
ノエルの正論に、つい言葉が詰まった。
リントだって、結界を張るのが最善だとわかっている。
ただ、結界は魔力消費が激しいのだ。
今朝回復薬を飲んだといっても、リントの魔力が充足したわけけではない。
魔力値のように計測器がないので正確にはわからないが、ここ数日の体感からいうと、1本で普段の6割といったところだ。
日々の業務をそつなくこなす為には十分な量。
しかし、既に『壁』に使った状態で結界を張れば、確実に途中で切れる。
そのうえ、2本目の回復薬に手をつけるには規定の服用間隔を満たしていなかった。
結果、最善と思っての選択だったのだが、これを素直に話してしまうと回復薬の話まで説明しなくてはいけなくなる。
ノエルがユールに黙っていてくれる保証もない中、どう言い繕うかを必死に考えていると、ふとある事に気がついた。
「ノエル、魔法陣読めるようになったの?」
「あ?…ああ。けど、板に描くのは難しいな。一番簡単なやつでも半日かかった」
奪った魔法板が捕縛用だと気づいての問いかけだと気づいたノエルが、何の感慨もなく答えた。
「……」
「…なんだよ」
じっと見つめてくるリントに、ノエルが焦れて先を促す。
「いや、頭の中どうなってるのかなって」
「バカにしてんのか」
「違うよ!感服してたのっ」
顔を顰めたノエルに、リントは慌てて補足をはじめた。
彼に魔導書を貸してからまだ半月と経っていないのだ。
学生だって基礎の習得だけで数か月かかるというのに、仕事の合間に読んだだけで描けるようになるなんて。
飛び級したと言っても、出自の差くらいに思っていたが、それだけではなかったらしい。
如何に凄いのかを本人に事細かに説明したら、返ってきたのは『そーかよ』と興味なさそうな返事だったのに、頬にはほんのり赤みがさしているのが見えて、リントの顔がつられて緩む。
初めてノエルの年下らしいところを見た気がして微笑ましかっただけなのだが、じろりと睨まれたので慌てて顔を整えた。
小言でも言われるかと身構えていたのに、何故か手を差し出される。
「手、貸せ」
「手?」
「ほら」
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