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「はい」

答えると、扉の向こうでベスの声が聞こえた。

「お嬢様、ベスでございます。今お時間よろしいでしょうか。」
「ええ、クレメント様もいらっしゃらないから大丈夫よ。入って」

すっと扉が開き、ベスが一礼して入ってきた。

「随分早く到着したのね。急かしてしまったかしら?」
「いいえ。私が一刻も早くお嬢様のお側に参りたかったのです」
「ありがとう。それでね。明日改めてクレメント様にベスを紹介するわね。と言っても先程あなたの名前を出した瞬間、すでにすごく嬉しそうな間抜け面見せてくれてたから、あなたのこと、多分もう気になってるわよ」

半ば呆れたようにアリアナが告げるとぎょっとした顔をしてベスは答えた。

「ですが、私はまだ何もしておりませんよ。何度かご連絡の時に顔を合わせた程度です。」

焦るベスにアリアナは笑いながら答えた。

「ばかね、あなたのことを責めるわけないじゃない。それにもちろん、あなたの言葉も信じてるわよ。彼はねあなたの容姿に骨抜きにされてるみたいよ、と言いたかったの」

アリアナが楽しげに言うと、ベスは複雑そうな顔をしながら答えた。

「もちろん、私がお役に立てるのは嬉しいのですが…正直納得がいきません。」
「あら、どうして?」
「お嬢様の方がはるかにお美しいですのに」

不貞腐れたようにいうベスを見て、アリアナは暖かい気持ちになった。

「本当にありがとう。嫌な役目をさせてごめんね」

アリアナがそういうと、ベスはぶんぶんと首を横に振りながら答えた。

「絶対にクレメント様が膝をついてお嬢様に許しを乞うようにさせてやります」
「いえ、別に謝罪は要らな…」
「お嬢様を侮ったことを後悔させて一生かけて償わせます」

あなどったことを後悔させるつもりはあったが、一生かけて自分に償って欲しいなどと、つゆほども思っていなかったアリアナはベスの言葉に思わず笑い転げた。

「大丈夫よ。そこまでして貰わなくても」

笑いながらそう言うと、ベスがきっと眦を吊り上げてアリアナに言った。

「私の大事なお嬢様が侮られるなど…許せないのです!一生かけて償っていただきます」

固い決意を秘めた物言いに、アリアナもそれ以上ベスに言うことを諦めた。

「今から恋仲になる予定のベスにここまで思われているなんて…嬉しいでしょうね」

ぼそっと呟くとベスは力強く頷いた。

「ええ。絶対後悔させてやります」
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