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「えっと、ケイビス様?いきなりどうかなさいましたか?」
「いえ、礼くらいで報われるなどと仰ったものですから…つい。兄と何かあったのかと思いまして。」

きまり悪そうな表情で答えるケイビスを見てアリアナはにこやかに微笑んだ。

「そんな。クレメント様はあまりこのようなことに関心が向かれないようなので、単純にケイビス様に褒めていただけて嬉しかっただけです」
「そう…ですか」
「ええ。私も家業に長く携わっていたせいか、このような話は好きなのですが、なかなか語れる方がおらず…ケイビス様とお話できてとても楽しいです。また相談に乗っていただけますか?」

にこりと微笑むと、ケイビスの顔がさっと朱に染まる。

「ええ。アリアナ殿が必要とあれば喜んで。」

よろしくお願いします、と告げてアリアナはその場を辞した。

帰るなりベスが満面の笑みと共に出迎えるのを見てアリアナは深い溜め息をついた。

「あなたね。なんでいきなり本人を寄越すのよ。びっくりしたじゃない」

ベスは美しい笑みを崩さないまま簡潔に告げた。

「ケイビス様がすぐに行きたそうでしたので。」
「止めてよ。というか彼もべつにすぐに行きたい訳じゃなかったでしょうに」
「あら。アリアナ様がお会いしたいと、と言いかけたあたりで席から立っておられましたけど」
「あのね」
「懐かれましたわね」

笑みを濃くしてベスは言い切った。

「年上の男性にあまりにも失礼ではなくて?」

嗜めると、ベスは口に手を当てた。

「口が滑りました」
「あなたね…」
「ハンゼ公爵家の男性はアリアナ様に惹かれるのでしょうか」
「クレメントは私のお金に、ケイビス様は経営の相棒として、ね」

自嘲気味に返すとベスは目を丸くした。

「クレメント様のおバカは知りませんが、ケイビス様はアリアナ様に気がありそうでしたが。」
「まさか、兄嫁よ」
「はい。道徳的な方でしょうから恋心をアリアナ様に直接お見せになることはございませんでしょうが」
「なら、あなたの妄想ね」

揶揄うようにアリアナが答えると、ベスは手を頬に当てて首を傾げた。

「でも、アリアナ様のことを言った瞬間、浮き足だっておられました」
「…ありがとう」

どう反応していいか分からず、そう答えるとベスはぐいっとアリアナに顔を近づけた。

「どうでしょう?ケイビス様は?」
「は?」
「クレメント様とそっくりの容姿。しかもクレメント様と異なり頭も良く誠実です。」
「引くて数多でしょうね」

投げやりにアリアナが言うとベスはさらに推してきた。

「アリアナ様も気になりませんか」



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