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アリアナが支度を整えている間に、ユージンはクレメントを居間に通したらしい。
アリアナが入ると、天の助けと言わんばかりにアリアナの方を見つめた。おそらく待っている間にユージンから爽やかな嫌味を山ほど浴びていたのだろう。

「お久しぶりですね、クレメント

アリアナがにっこり笑いながら呼びかけると、クレメントは一瞬たじろいだ。今までアリアナには様付け以外で呼ばれたことがなかったから当然だ。

「あー…久しぶり、ですね。アリアナ…様」

呼び捨てにしかけた直後、アリアナが片眉をあげたのを見て、すぐに敬称を付け足す。
アリアナは微笑みながら尋ねた。

「それで?ケイビス様が領主となられて自由を満喫されているのではありませんでしたの?」
「それが…」
「二度と私の顔など見たくないと仰ったのに…」

傷ついたようにアリアナが言うと、クレメントはここぞとばかりに話し始めた。

「アリアナ、私が悪かった。あなたのことも弟のことも何にも分かっていなかったのだ。あなたは私を愛してくれていたからこそ私に諫言をし、私を正すために自ら身を引き、私を形だけ使用人にし、弟に領主を継がせたのだろう?
それなのにあいつと来たら、私のことを本当に使用人扱いで、毎日毎日こき使って来るんだ。遊びに行く暇どころか、休む暇もない。それに女性達からも愛想を尽かされた。
最初はあなたを恨んだよ。でも、冷静になって考えてみると、私を正しい道に導くためにあなたがわざと離縁を申し出たと気づいた。
私は心を入れ替えると誓うよ。だからどうか元の身分に戻して、あなたにも戻ってきて欲しい。もうケイビスの言いなりはごめんなんだ!」

これで本人がまともなことを言っているつもりなのが恐ろしい、そう思いながらアリアナは答えた。

「私のことはアリアナ様、とお呼びいただけるかしら?クレメントさん。」

その答えを聞いて、クレメントの顔が絶望したように歪む。

「なぜ…こんなに反省しているのに。あなたに吐いた暴言なら取り消す。すまなかった…許してください」

頭を垂れ悄然とした姿に、アリアナ柔らかい声音で尋ねた。

「ケイビス様がこき使うといいましたね?どのような生活なのかしら」

その問いかけが、自分の憐れな扱いを知ってもらえる機会だとばかりにクレメントは現状を話し出した。



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