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その言葉を聞いた途端、ユージンは相好を崩した。

「なるほど、それなら仕方ないね。本当にケイビス様と結婚できて幸せなんだ。それを皆にも知って祝って欲しいってわけか」
「ふふ。アリアナ様も存外可愛らしいところがおありですわよね」

紅い髪に萌黄のドレスという組み合わせはクルーゼの女王が最愛の夫と結婚した時の姿として有名だ。物語で描かれる時もその場面は必ず萌黄のドレスを着ている。逆にフォレスティアの初代王に求婚された時に自害した際に着用していたとされるドレスの色は不明で多くは赤や、白、黒と言った色で表現されている。

「前回の結婚は不本意だったけれど、今回の結婚は本当に望んだもの、って言うのをドレスで表現するあたりが姉さんらしいっちゃ姉さんらしいけど」
「そうですね。前回お召しになった白いドレスや赤いドレスも、結婚式としてはごく一般的なものですし…」
「まあ、なんにせよ、そのドレスを着たいって姉さんが思ってるなら仕方ないな」

苦笑いと共に、先ほどまでの怒りをおさめたユージンをベスは優しい眼差しで見つめた。

「そういえば、ふと気になったのですが当日クレメント様はどうなさるのでしょう」

問われたユージンは、顎に手をやりながら考えた。

「どうだろう。確かに微妙な立ち位置だしね」
「使用人として扱われるのは、私としてはとても小気味が良いのですが、その立場を悪用して式を台無しにされないか心配です。」
「いや、ケイビス様は頭の良い方だ。そんな大勢が集まる時にわざわざ、兄へのともすれば嫌がらせとも取られかねないような待遇はしないと思う」
「嫌がらせなどと。躾直されてるだけです!」
「もちろん、多くの人間はそう思うと思う。でも中にはクレメントに要らぬ進言をするものが出てくるとも限らないし…」
「なら公爵家の一員として遇するのでしょうか」
「いや、それもないと思うよ。公爵家の一員として認めてしまえば、下手すれば兄から無理やり兄嫁と爵位を奪ったようにも捉えられかねない。もちろんケイビス様は、そう言われても構わないくらいの思いで姉さんを妻にと望んでくれているだろうけど、実際そう言われて困るのは姉さんだからね」
「それならどうされるのでしょう」

不安気な声で尋ねるベスを安心させるようにユージンは答えた。

「もし僕なら、低い爵位を買い取ってクレメントに与えるかな」
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