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「ユーズル侯爵家は後継者以外の子どもを豪農達の伴侶としています。それが侯爵家が成り立ってより今日まで続いてきたことのようです。ですが、侯爵家が必ずしも4人以上の子に恵まれるとは限らない。そのため度々養子をとり、侯爵家の子どもとしてあてがっていたようです」
「それについて先方は受け入れるのですか」

不思議そうにアリアナが首を傾げると、ケイビスは真面目な表情で続けた。

「もちろん彼らが受け入れるのは正式に侯爵家と養子縁組したものだけです。侯爵家の血筋の者であってもその存在が認知されていない庶子などは断るそうですから」
「ということは血筋が条件ではないのですね」
「むしろ何度も近い血を受け入れるより、かえって好まれる側面すらあるのかもしれません」
「なるほど…ですが、話をお聞きするだけではそれほど悪いお話ではないような…」
「ええ。ですが、彼らは自分たちのお陰で侯爵家が富んでいることをよく分かっている。しかし均衡している3つの勢力のおかげで侯爵家は歯向かわれることなく今日まできていると言っても過言ではありません。」
「どこかが反旗を翻したりしたら…いえ、少しでも侯爵家が彼らの意に沿わないことをすれば、侯爵家の者は殺されるかもしれないってこと?」
「ええ。体のいい人質ですね」
「まさかそこまでは…」

苦笑いしようとしたアリアナに、ケイビスは表情を変えないまま告げた。

「我々の曽祖父母世代で、ユーズル侯爵家の血筋は傍系へとかわっているんです」
「え」

表情を凍りつかせたアリアナにさらりとケイビスは告げた。

「当時疫病が流行っていたそうですから、当主一家は罹患した結果命を落とした、とされていたそうですが…実際のところその混乱に乗じて豪農達のいずれかが殺したという話も出ています。強ち作り話ではないかもしれません。それ以降侯爵家は三家の扱いを徹底して平等にしているそうですから。」
「そうですか…」
「とはいえ、侯爵家が上手くやっているうちは兄の身に何か起こることなど早々ないでしょうが。むしろ貴族から農民という立場に変わることで華やかな暮らしができない方が兄には堪えるかもしれません」
「賭場が、とか仰っていましたものね」

呆れたように笑いながら答えるアリアナにケイビスは苦笑する。

「この状況で今と同じ暮らしができると思うことが不思議です。例え侯爵家の養子として婿に行ったとしても相手は貴族ではありません。朝から働くことになるでしょうし、そんな暇はないでしょう。」

それは気の毒に、そう思いながらアリアナは微笑んだ。
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