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ローズ=ワーレル リリー=カンファ
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社交界で紅薔薇と呼ばれる私はワーレル公爵の第一子で、白百合と称される彼女はカンファ公爵の第一子だ。この国に二つしかない公爵家の跡取り娘。それが彼女と私だった。
政治的なものから始まり、果ては私たちの取り巻きにいたるまで何かにつけてできる二つの派閥のせいで、周りから彼女と私は犬猿の仲だと思われている。
しかし、実際はとても仲の良い親友だ。家族ぐるみの付き合いでお互いの家族とも仲がいい。ただ、王に次ぐ権力者である私たちの仲がいいことで、結託して何か企んでいるなどといらぬ誤解をされないように、互いの主催のパーティーには顔をあまり見せず、もし同じパーティに行ったとしても人前では話さないだけだ。
それはある日の午後だった。リリーが私のもとを訪ねてきた。
「こんにちは、ローズ。突然ごめんなさいね」
「ご機嫌よう、リリー。会えて嬉しいわ!急にどうしたの?」
リリーが突然訪れるのは珍しい。色白で儚い妖精のような繊細な美貌のこの親友は、しかし今日は頬を紅潮させていた。
珍しいと思い尋ねてみると、にっこり笑って答えた。
「恋人ができたの!」
「まあ!すてき。いつからのお付き合いなの?」
「2月くらい前かしら。カンファ領に戻っていた時に出会った方なのだけれど、とても素敵な方で…ローズにすぐ知らせたかったのだけれど、驚く顔を見たくて王都に戻ってくるまで我慢しちゃった!」
「あら、ありがとう!すてきね。今度紹介してくださる?」
リリーを射止めた男性はどのような方かしら、と私が思っているとリリーはニコニコしながら私を見つめた。
「どうしたの、リリー」
「ふふ、ローズも何か隠してるわね?いつもの女王様の笑みが消えてるわよ?」
そう、私はどちらかと言うときつい顔立ちで、ピンクゴールドの髪と相まって、よく女王のようだ、とこの親友から揶揄われる。
「あら、バレちゃった」
ペロッと舌を出して私は戯けた。
「実はね、リリーが帰ってきたら言おうと思ってたのだけれど、私も恋人ができたのよ!」
「まあ!いつから?ねえいつから?女王の親衛隊を泣かす男性はどなたかしら」
「私は1月前ね」
「私達、恋人ができる時期までそっくりなのね」
二人で楽しく笑いあって、そして、私は尋ねた。
「ねえ、あなたの恋人のお名前は?」
「やだ、ローズが先に言ってよ」
「それじゃあ、一緒に言いましょう!」
きゃあきゃあ言いながら二人で恋人の名前を同時に言う事にした。
「「アルフレッド=ビーガー」」
同じ言葉をハモったことに一瞬のちに、私も彼女も気づく。
「ねえ、ローズ。ビーガーって新興貴族のビーガー家?」
「ええ」
「絶対ないとわかってるけど聞かせて。私と彼が付き合ってるの知らなかったわよね」
問われて私は憤然と言い返した。
「当たり前でしょ。あいつがあなたと付き合ってるの知ってて私に声かけてきたら付き合うどころか殴り飛ばして、すぐあなたに伝えるわよ!」
「そうよね。ごめんなさい」
「いいえ、それよりリリー。このままだと悔しくない?」
「ええ、あんなやつもう要らないけど、この国で紅薔薇と白百合を敵に回したらどうなるか教えて差し上げましょう。」
「なら、今日このままここにいれる?」
「ええ大丈夫よ。なにかあるの?」
「午後からあいつがくるのよ。出会うのが楽しみね」
「ええ。私はバルコニーの部屋から見えない位置にいるわ。頃合い見計らって声をかけてくれる」
「いいわよ。それじゃあまずはランチでもしましょうか。」
「アルフレッド様がいらっしゃいました」
メイドのアンの声が響いて、私はリリーと頷きあった。
ガチャリと言う音と共にアルフレッドが現れた。私はにこやかに挨拶した。
「ようこそアルフレッド様。本当にお待ちしておりました」
「それは嬉しいな、紅薔薇の君にお待ちいただけるなんて。世の男性に恨まれそうだよ」
「まあ!アルフレッド様ったら。ところで前にお話ししてくださった婚約の件なのですが…」
「ああ。どうだろう?君に正式にプロポーズする栄誉を僕に与えてくれるだろうか」
「とても嬉しいのですが…心配ごとがございます」
「僕の爵位が低いことなら…すぐにでも不安を払拭させられると思うよ。手がけてる商売は上り調子だし、このまま行けば来年には伯爵位は貰えると思う。」
「ですが、その商売の主な取引先はカンファ公爵を筆頭とする向こうの派閥ではございませんか」
「ああ。だが、君との婚約がマイナスになることはないよ。向こうだって商品の質が良いからこそ、僕の仕入れた物を購入してくれているのだから。」
よく言う…私は呆れた。もちろんアルフレッドの仕入れたものが一級品なのは間違いないが、貴族にビーガー男爵の仕入れた品が人気を博したのはカンファ公爵やリリーの口添えがあったからに他ならない。
こいつも欲をかくにしても、私か彼女かどちらかだけにしておけばよかったものを。
思うに、貴族間に影響力を持つ、カンファ公爵家と王族に影響を与えられるワーレル公爵家のどちらも欲しかったのだろう。
まず、リリーを落として、次いで私を落とす。私が婚約を承知すれば、リリーとは別れる。
もちろん多少揉めることは想定しているだろうが、リリーと私はライバルだと思っているこいつのことだ。ライバルに恋人を取られたなどと恥ずかしくて、リリーが騒ぎ立てることはないと踏んでいる。だからカンファ派ともそのまま付き合い続けられる。
一方私が、婚約を断れば素知らぬ顔してリリーにプロポーズするのだろう。
「そう…」
「浮かない顔をしてどうしたんだい」
「いえ、あの…ごめんなさい。やっぱりあなたのことが信じきれなくて。出会ってすぐなのに婚約してもいいものなのか。カンファ公爵とも繋がりがあるのがどうしても心配で」
「そんな。君より愛しい人はいないよ。どうすれば信じてくれる?カンファ派と取引しなければ信じられるのか?それならここで一筆書くよ」
「でも、あなたの出世はカンファ派にかかっているんでしょう?」
「僕は0から男爵位を得たんだよ。大丈夫君のためならカンファ派に頼らずともできるよ」
「まあ!それならお願いします。カンファ派とは取引をしない旨書いてくださいますか」
「わかったよ…これでいいかい?」
「ええ…リリー、出てきて!これでいいかしら?」
「まあ!さすがローズね、ありがとう。これでカンファ派の貴族に大々的にビーガーの商品を取り扱えなくなった旨、告げられるわ。一方的な納品不履行だからあなたの信頼も地に落ちるわね、アルフレッド。」
「え。リリーなんで?」
訳がわからず、私とリリーの顔を交互に見るアルフレッドに、私はにこやかに種明かしをした。
「振興貴族のあなたはご存知なかったでしょうけど、私たち仲が良いの」
「え」
「びっくりしたわよ、ローズの恋人があなただって知って。」
「本当よね。うちもリリーのお家も、恋愛も結婚も自由にして良いって親だからうっかりあんたみたいのと付き合っちゃったじゃない」
「そうねぇ。私達、容姿も雰囲気も正反対だけど、男の趣味が最悪なところが似てるなんて嫌よね、ローズ」
「ええ。ビーガー男爵家はもう商売で身を立てることはできないでしょうけど…ねぇ、リリー私達傷ついたわよね?」
「とっても。他に傷つく女の子がいるなんて耐えられないわ」
私達二人の会話を聞いて呆然とするアルフレッドを見ながら私とリリーは続けた。
「とりあえず、紅薔薇派の女の子達にアルフレッドの所業は伝えておかなきゃ。騙されてたなんて恥ずかしいけれど、他の女の子が毒牙にかかるの見たくないもの」
「では、私は白百合派に伝えておくわ。大丈夫よ、ローズ。恥ずかしい思いは一緒にしましょう。あ、それとローズ。紅薔薇派のあなたの取り巻きの男性にも伝えておきなさいよ。こいつに逆恨みされたら怖いから。守ってもらいなさい。私もそうするわ」
「そうね。あらあら、あなたってば貴族のほとんどを敵に回すんじゃないかしら?大丈夫?」
顔面が蒼白になっているアルフレッドに私は優しく告げた。
「せっかく手に入れた男爵位。いつまで持つか見ものね。」
そこまで言って彼は、ようやく唇を振るわせながら私達に懇願してきた。
「お二人を欺くつもりなどなかったのです。お二人ともそれぞれに美しく…どうかお許しください。どうかこのことはお二人の胸のうちに秘めていただけませんか」
私と彼女は顔を見合わせたあと、優しくアルフレッドに対して微笑んだ。
「するわけないでしょう?あなたみたいなのに貴族を名乗られるだけでも虫唾が走るわ。だからあなたはね、もう要らないのよ」
完
政治的なものから始まり、果ては私たちの取り巻きにいたるまで何かにつけてできる二つの派閥のせいで、周りから彼女と私は犬猿の仲だと思われている。
しかし、実際はとても仲の良い親友だ。家族ぐるみの付き合いでお互いの家族とも仲がいい。ただ、王に次ぐ権力者である私たちの仲がいいことで、結託して何か企んでいるなどといらぬ誤解をされないように、互いの主催のパーティーには顔をあまり見せず、もし同じパーティに行ったとしても人前では話さないだけだ。
それはある日の午後だった。リリーが私のもとを訪ねてきた。
「こんにちは、ローズ。突然ごめんなさいね」
「ご機嫌よう、リリー。会えて嬉しいわ!急にどうしたの?」
リリーが突然訪れるのは珍しい。色白で儚い妖精のような繊細な美貌のこの親友は、しかし今日は頬を紅潮させていた。
珍しいと思い尋ねてみると、にっこり笑って答えた。
「恋人ができたの!」
「まあ!すてき。いつからのお付き合いなの?」
「2月くらい前かしら。カンファ領に戻っていた時に出会った方なのだけれど、とても素敵な方で…ローズにすぐ知らせたかったのだけれど、驚く顔を見たくて王都に戻ってくるまで我慢しちゃった!」
「あら、ありがとう!すてきね。今度紹介してくださる?」
リリーを射止めた男性はどのような方かしら、と私が思っているとリリーはニコニコしながら私を見つめた。
「どうしたの、リリー」
「ふふ、ローズも何か隠してるわね?いつもの女王様の笑みが消えてるわよ?」
そう、私はどちらかと言うときつい顔立ちで、ピンクゴールドの髪と相まって、よく女王のようだ、とこの親友から揶揄われる。
「あら、バレちゃった」
ペロッと舌を出して私は戯けた。
「実はね、リリーが帰ってきたら言おうと思ってたのだけれど、私も恋人ができたのよ!」
「まあ!いつから?ねえいつから?女王の親衛隊を泣かす男性はどなたかしら」
「私は1月前ね」
「私達、恋人ができる時期までそっくりなのね」
二人で楽しく笑いあって、そして、私は尋ねた。
「ねえ、あなたの恋人のお名前は?」
「やだ、ローズが先に言ってよ」
「それじゃあ、一緒に言いましょう!」
きゃあきゃあ言いながら二人で恋人の名前を同時に言う事にした。
「「アルフレッド=ビーガー」」
同じ言葉をハモったことに一瞬のちに、私も彼女も気づく。
「ねえ、ローズ。ビーガーって新興貴族のビーガー家?」
「ええ」
「絶対ないとわかってるけど聞かせて。私と彼が付き合ってるの知らなかったわよね」
問われて私は憤然と言い返した。
「当たり前でしょ。あいつがあなたと付き合ってるの知ってて私に声かけてきたら付き合うどころか殴り飛ばして、すぐあなたに伝えるわよ!」
「そうよね。ごめんなさい」
「いいえ、それよりリリー。このままだと悔しくない?」
「ええ、あんなやつもう要らないけど、この国で紅薔薇と白百合を敵に回したらどうなるか教えて差し上げましょう。」
「なら、今日このままここにいれる?」
「ええ大丈夫よ。なにかあるの?」
「午後からあいつがくるのよ。出会うのが楽しみね」
「ええ。私はバルコニーの部屋から見えない位置にいるわ。頃合い見計らって声をかけてくれる」
「いいわよ。それじゃあまずはランチでもしましょうか。」
「アルフレッド様がいらっしゃいました」
メイドのアンの声が響いて、私はリリーと頷きあった。
ガチャリと言う音と共にアルフレッドが現れた。私はにこやかに挨拶した。
「ようこそアルフレッド様。本当にお待ちしておりました」
「それは嬉しいな、紅薔薇の君にお待ちいただけるなんて。世の男性に恨まれそうだよ」
「まあ!アルフレッド様ったら。ところで前にお話ししてくださった婚約の件なのですが…」
「ああ。どうだろう?君に正式にプロポーズする栄誉を僕に与えてくれるだろうか」
「とても嬉しいのですが…心配ごとがございます」
「僕の爵位が低いことなら…すぐにでも不安を払拭させられると思うよ。手がけてる商売は上り調子だし、このまま行けば来年には伯爵位は貰えると思う。」
「ですが、その商売の主な取引先はカンファ公爵を筆頭とする向こうの派閥ではございませんか」
「ああ。だが、君との婚約がマイナスになることはないよ。向こうだって商品の質が良いからこそ、僕の仕入れた物を購入してくれているのだから。」
よく言う…私は呆れた。もちろんアルフレッドの仕入れたものが一級品なのは間違いないが、貴族にビーガー男爵の仕入れた品が人気を博したのはカンファ公爵やリリーの口添えがあったからに他ならない。
こいつも欲をかくにしても、私か彼女かどちらかだけにしておけばよかったものを。
思うに、貴族間に影響力を持つ、カンファ公爵家と王族に影響を与えられるワーレル公爵家のどちらも欲しかったのだろう。
まず、リリーを落として、次いで私を落とす。私が婚約を承知すれば、リリーとは別れる。
もちろん多少揉めることは想定しているだろうが、リリーと私はライバルだと思っているこいつのことだ。ライバルに恋人を取られたなどと恥ずかしくて、リリーが騒ぎ立てることはないと踏んでいる。だからカンファ派ともそのまま付き合い続けられる。
一方私が、婚約を断れば素知らぬ顔してリリーにプロポーズするのだろう。
「そう…」
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「いえ、あの…ごめんなさい。やっぱりあなたのことが信じきれなくて。出会ってすぐなのに婚約してもいいものなのか。カンファ公爵とも繋がりがあるのがどうしても心配で」
「そんな。君より愛しい人はいないよ。どうすれば信じてくれる?カンファ派と取引しなければ信じられるのか?それならここで一筆書くよ」
「でも、あなたの出世はカンファ派にかかっているんでしょう?」
「僕は0から男爵位を得たんだよ。大丈夫君のためならカンファ派に頼らずともできるよ」
「まあ!それならお願いします。カンファ派とは取引をしない旨書いてくださいますか」
「わかったよ…これでいいかい?」
「ええ…リリー、出てきて!これでいいかしら?」
「まあ!さすがローズね、ありがとう。これでカンファ派の貴族に大々的にビーガーの商品を取り扱えなくなった旨、告げられるわ。一方的な納品不履行だからあなたの信頼も地に落ちるわね、アルフレッド。」
「え。リリーなんで?」
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「振興貴族のあなたはご存知なかったでしょうけど、私たち仲が良いの」
「え」
「びっくりしたわよ、ローズの恋人があなただって知って。」
「本当よね。うちもリリーのお家も、恋愛も結婚も自由にして良いって親だからうっかりあんたみたいのと付き合っちゃったじゃない」
「そうねぇ。私達、容姿も雰囲気も正反対だけど、男の趣味が最悪なところが似てるなんて嫌よね、ローズ」
「ええ。ビーガー男爵家はもう商売で身を立てることはできないでしょうけど…ねぇ、リリー私達傷ついたわよね?」
「とっても。他に傷つく女の子がいるなんて耐えられないわ」
私達二人の会話を聞いて呆然とするアルフレッドを見ながら私とリリーは続けた。
「とりあえず、紅薔薇派の女の子達にアルフレッドの所業は伝えておかなきゃ。騙されてたなんて恥ずかしいけれど、他の女の子が毒牙にかかるの見たくないもの」
「では、私は白百合派に伝えておくわ。大丈夫よ、ローズ。恥ずかしい思いは一緒にしましょう。あ、それとローズ。紅薔薇派のあなたの取り巻きの男性にも伝えておきなさいよ。こいつに逆恨みされたら怖いから。守ってもらいなさい。私もそうするわ」
「そうね。あらあら、あなたってば貴族のほとんどを敵に回すんじゃないかしら?大丈夫?」
顔面が蒼白になっているアルフレッドに私は優しく告げた。
「せっかく手に入れた男爵位。いつまで持つか見ものね。」
そこまで言って彼は、ようやく唇を振るわせながら私達に懇願してきた。
「お二人を欺くつもりなどなかったのです。お二人ともそれぞれに美しく…どうかお許しください。どうかこのことはお二人の胸のうちに秘めていただけませんか」
私と彼女は顔を見合わせたあと、優しくアルフレッドに対して微笑んだ。
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