15 / 16
フラー=ソート
しおりを挟む
「フラー、僕に興味ないだろ。もう限界なんだ、離縁して欲しい」
夫のデイビスにある夜告げられた。ソート男爵に嫁いで17年。長女は今月から社交界デビューの16歳、長男は今年から王都の貴族学園に通うようになった13歳だ。ここ数年、私は子ども達がそれぞれの環境に苦労しないように、子ども達に積極的に関わり、マナーや勉強の一流の教師をつけた。私も勉強のおさらいや、マナーの復習に付き合った。その間、彼のことはおざなりになっていたことは否めない。でも、私は彼をとても愛している。
言われた言葉に動揺しながらも理由を尋ねた。
「どうして。私、あなたに何かしてしまった?至らないところがあったなら教えて。お願い、そんなこと言わないで」
「ごめん、無理なんだ。」
「だから、なんで…」
「家に居場所がないんだ」
「え」
「僕は一月ごとに領地と王都の家に住んでる。でも、君はここ数年王都から出ないじゃないか。そして、僕が帰ってきた時には、家族3人の暮らしに慣れてる子ども達と共に、僕が早く領地に帰る日を待っている。」
「そんなことないわ。私も子ども達もあなたが屋敷にいてくれる日を楽しみにしてるわ」
「なら、なぜに年に一度でも良い、付いてこないんだ。」
「子ども達のためよ。社交界デビューと貴族学園の入学を控えていたのに、領地でのんびり過ごせなかったのよ!マナーも勉強も一朝一夕では身につかないわ。それらを学ばすためには王都の恵まれた環境にいた方が良かったもの。」
「そうか。わかったよ。でもごめん、僕にはもう他に好きな人ができた」
夫はうんざりした様子で私をみながら告げた。まるで私とはもう話したくないといわんばかりだ。
「え。そんな」
「彼女は領地で僕をいつも暖かく迎え入れてくれた。僕の話をじっくり聞いてくれた。」
「だれなの」
「メイドの一人だ」
「そんな」
「勘違いしないで欲しい。彼女とは決してやましい仲じゃない。彼女に私生児なんて産ませたくないからね。でも彼女もどうやら僕のことを好いてくれているみたいなんだ。だから別れてくれ」
「お願い。ちょうど2人とも入学とデビューを迎えたわ。来月から私は領地にもついていくからもう少しだけ猶予をちょうだい。」
私は泣きながら縋り付いた。夫は冷めた目で私を見た。でも私は17年間連れ添った夫とそんな簡単に別れるなんてできなかった。
翌月。子供たちを残して領地に帰る夫についていった。息子は基本的に寮生活だし、娘は信頼のおけるメイド頭がしっかり見てくれているので安心だ。
ここ数年、ほとんど領地を訪れなかった私に領地の使用人たちは歓迎しているとは言えない態度で接してきた。嫌がらせをされることはないが、夫に向けるような暖かい親しみを全く感じない。夫が居場所がないことがつらいと言っている意味がやっと分かった。
でも、私は私ですべきことがある。嘆いてばかりはいられない。領主の妻と認められるように頑張らねば。
一月ごとに王都と領地を往復し、はや一年。領地の使用人たちも今では私に心から礼を尽くしてくれている。ああ、認められたのだな、と思うと同時に私の心のもやもやは大きくなった。そんなある日、デイビスが私と二人きりで散歩がしたいと誘ってきた。
「フラー、本当にありがとう。一年間で君の誠意がよく伝わったよ。これほど僕のことを大事に思ってくれていたのに、あんなことを言ってしまってすまない。もう一度やり直そう。」
彼の瞳は自分の言葉に感極まっているようで、少しうるんでいる。当然私が泣いて受け入れると信じ切っている顔だ。
「そう、ありがとう。でもあなたを支えてくれた彼女はどうなったの」
「ああ、彼女なら君が領地に来るようになってから、ここをやめたよ。領主の妻ともめるのが嫌だったんだろう。賢明な判断だ」
一時は子供まで望んだ女性へのあまりの言い草にぞっとしてしまう。
「だからこれからは君と一緒にすごしていきたいんだ。」
私は、ふーっと息を吐いた。彼は不思議そうに私を眺めている。泣いて喜ばなかったのが意外なのだろう。
「こっちの領地に久しぶりに来た時、居心地がとても悪かったの。だからあなたが家に居場所がないといっていたこともよくわかるわ。」
「あ、ああ。もう気にしてないからいいよ」
「最後まで聞いて。それでね。私は頑張ったの1年かけて使用人たちにも領主の妻と認められるように。おかげで今ではみんなが笑顔で出迎えてくれるわ。」
「そうか。よかったよ。でもそれと今の話に何の関係があるんだい」
「黙って聞いて。でもそれはあなたが私をこの屋敷で受け入れられるようにしてくれたおかげじゃない。あなたはこの屋敷の使用人相手に、私の眼前で平気で私のことを冷たい妻だと言っていたもの。だから、私が必死で使用人たちとの間に信頼関係を築いて今の居場所を作ることができたの。」
「…」
「あなたは王都の家に居場所がないと言っていたけれど、私は別に王都で遊び暮らしていたわけじゃない。私とあなたの子どもが人前に出たり学校に入ったときに、困らないように躾けたり、勉強に付き合ったりしていたのよ。それに、あなたのことを子どもたちの前で悪く言ったこともない。だからといってあなたが居心地の悪さを感じのは本当なんでしょうけれど、それなら王都にいる間は、もっと子どもたちとコミュニケーションを取ればよかったのよ。それもしないでずっとご友人たちと出歩いておきながら、帰ってきた時に子どもたちと私が話している姿を見かけただけで仲間外れにされたとすねるような人、どうなのかしらね。」
「でも、君だってさっき居心地が悪いの辛いと…」
「ええ、だからね、私は自分で居心地の良い場所となるように努力したのよ。あなたはそれすらもしなかった。あなたはね、もう面倒見てもらう側の人間じゃないの。居場所でもなんでも、気に入らないものは自分で変えていく側の人間なの。それすらできない人間に用はないな、って自分がやってみて思ったのよ。」
「そんな…」
「ごめんなさいね。やっぱりあなたが別れようと言ってくれた時にうなずいておくべきだったわ。自分に置き換わった時に、こんな状況一つ打開できないあなたの矮小さを知らずに済んだもの。だからあなたのことは、もういらないわ」
完
夫のデイビスにある夜告げられた。ソート男爵に嫁いで17年。長女は今月から社交界デビューの16歳、長男は今年から王都の貴族学園に通うようになった13歳だ。ここ数年、私は子ども達がそれぞれの環境に苦労しないように、子ども達に積極的に関わり、マナーや勉強の一流の教師をつけた。私も勉強のおさらいや、マナーの復習に付き合った。その間、彼のことはおざなりになっていたことは否めない。でも、私は彼をとても愛している。
言われた言葉に動揺しながらも理由を尋ねた。
「どうして。私、あなたに何かしてしまった?至らないところがあったなら教えて。お願い、そんなこと言わないで」
「ごめん、無理なんだ。」
「だから、なんで…」
「家に居場所がないんだ」
「え」
「僕は一月ごとに領地と王都の家に住んでる。でも、君はここ数年王都から出ないじゃないか。そして、僕が帰ってきた時には、家族3人の暮らしに慣れてる子ども達と共に、僕が早く領地に帰る日を待っている。」
「そんなことないわ。私も子ども達もあなたが屋敷にいてくれる日を楽しみにしてるわ」
「なら、なぜに年に一度でも良い、付いてこないんだ。」
「子ども達のためよ。社交界デビューと貴族学園の入学を控えていたのに、領地でのんびり過ごせなかったのよ!マナーも勉強も一朝一夕では身につかないわ。それらを学ばすためには王都の恵まれた環境にいた方が良かったもの。」
「そうか。わかったよ。でもごめん、僕にはもう他に好きな人ができた」
夫はうんざりした様子で私をみながら告げた。まるで私とはもう話したくないといわんばかりだ。
「え。そんな」
「彼女は領地で僕をいつも暖かく迎え入れてくれた。僕の話をじっくり聞いてくれた。」
「だれなの」
「メイドの一人だ」
「そんな」
「勘違いしないで欲しい。彼女とは決してやましい仲じゃない。彼女に私生児なんて産ませたくないからね。でも彼女もどうやら僕のことを好いてくれているみたいなんだ。だから別れてくれ」
「お願い。ちょうど2人とも入学とデビューを迎えたわ。来月から私は領地にもついていくからもう少しだけ猶予をちょうだい。」
私は泣きながら縋り付いた。夫は冷めた目で私を見た。でも私は17年間連れ添った夫とそんな簡単に別れるなんてできなかった。
翌月。子供たちを残して領地に帰る夫についていった。息子は基本的に寮生活だし、娘は信頼のおけるメイド頭がしっかり見てくれているので安心だ。
ここ数年、ほとんど領地を訪れなかった私に領地の使用人たちは歓迎しているとは言えない態度で接してきた。嫌がらせをされることはないが、夫に向けるような暖かい親しみを全く感じない。夫が居場所がないことがつらいと言っている意味がやっと分かった。
でも、私は私ですべきことがある。嘆いてばかりはいられない。領主の妻と認められるように頑張らねば。
一月ごとに王都と領地を往復し、はや一年。領地の使用人たちも今では私に心から礼を尽くしてくれている。ああ、認められたのだな、と思うと同時に私の心のもやもやは大きくなった。そんなある日、デイビスが私と二人きりで散歩がしたいと誘ってきた。
「フラー、本当にありがとう。一年間で君の誠意がよく伝わったよ。これほど僕のことを大事に思ってくれていたのに、あんなことを言ってしまってすまない。もう一度やり直そう。」
彼の瞳は自分の言葉に感極まっているようで、少しうるんでいる。当然私が泣いて受け入れると信じ切っている顔だ。
「そう、ありがとう。でもあなたを支えてくれた彼女はどうなったの」
「ああ、彼女なら君が領地に来るようになってから、ここをやめたよ。領主の妻ともめるのが嫌だったんだろう。賢明な判断だ」
一時は子供まで望んだ女性へのあまりの言い草にぞっとしてしまう。
「だからこれからは君と一緒にすごしていきたいんだ。」
私は、ふーっと息を吐いた。彼は不思議そうに私を眺めている。泣いて喜ばなかったのが意外なのだろう。
「こっちの領地に久しぶりに来た時、居心地がとても悪かったの。だからあなたが家に居場所がないといっていたこともよくわかるわ。」
「あ、ああ。もう気にしてないからいいよ」
「最後まで聞いて。それでね。私は頑張ったの1年かけて使用人たちにも領主の妻と認められるように。おかげで今ではみんなが笑顔で出迎えてくれるわ。」
「そうか。よかったよ。でもそれと今の話に何の関係があるんだい」
「黙って聞いて。でもそれはあなたが私をこの屋敷で受け入れられるようにしてくれたおかげじゃない。あなたはこの屋敷の使用人相手に、私の眼前で平気で私のことを冷たい妻だと言っていたもの。だから、私が必死で使用人たちとの間に信頼関係を築いて今の居場所を作ることができたの。」
「…」
「あなたは王都の家に居場所がないと言っていたけれど、私は別に王都で遊び暮らしていたわけじゃない。私とあなたの子どもが人前に出たり学校に入ったときに、困らないように躾けたり、勉強に付き合ったりしていたのよ。それに、あなたのことを子どもたちの前で悪く言ったこともない。だからといってあなたが居心地の悪さを感じのは本当なんでしょうけれど、それなら王都にいる間は、もっと子どもたちとコミュニケーションを取ればよかったのよ。それもしないでずっとご友人たちと出歩いておきながら、帰ってきた時に子どもたちと私が話している姿を見かけただけで仲間外れにされたとすねるような人、どうなのかしらね。」
「でも、君だってさっき居心地が悪いの辛いと…」
「ええ、だからね、私は自分で居心地の良い場所となるように努力したのよ。あなたはそれすらもしなかった。あなたはね、もう面倒見てもらう側の人間じゃないの。居場所でもなんでも、気に入らないものは自分で変えていく側の人間なの。それすらできない人間に用はないな、って自分がやってみて思ったのよ。」
「そんな…」
「ごめんなさいね。やっぱりあなたが別れようと言ってくれた時にうなずいておくべきだったわ。自分に置き換わった時に、こんな状況一つ打開できないあなたの矮小さを知らずに済んだもの。だからあなたのことは、もういらないわ」
完
30
あなたにおすすめの小説
婚約破棄は予定調和?その後は…
しゃーりん
恋愛
王太子の17歳の誕生日パーティーで婚約者のティアラは婚約破棄を言い渡された。
これは、想定していたことであり、国王も了承していたことであった。
その後の予定が国王側とティアラ側で大幅に違っていた?
女性が一枚上手のお話です。
疑い深い伯爵令嬢 アマリアの婚約破棄から始まる騒動とその行方
有栖多于佳
恋愛
疑い深い伯爵令嬢ジェマイマの兄マルコスとその妻アマリアの馴れ初めから結婚まで、そしてジェマイマが疑い深くなっていった様子を書いた前日譚と後日談です。
アマリアが貴族学院で婚約破棄を言い渡されてから、25歳になるまでの間に起こった、アマリアとその周辺のお話。
25歳の時にはどんなことになっているのでしょうか。
疑い深い伯爵令嬢と併せてお読みいただければ幸いです。
あなたの思い通りにはならない
木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。
しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。
*後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。
セカンドバージンな聖女様
青の雀
恋愛
公爵令嬢のパトリシアは、第1王子と婚約中で、いずれ結婚するのだからと、婚前交渉に応じていたのに、結婚式の1か月前に突然、婚約破棄されてしまう。
それというのも、婚約者の王子は聖女様と結婚したいからという理由
パトリシアのように結婚前にカラダを開くような女は嫌だと言われ、要するに弄ばれ捨てられてしまう。
聖女様を名乗る女性と第1王子は、そのまま婚前旅行に行くが……行く先々で困難に見舞われる。
それもそのはず、その聖女様は偽物だった。
玉の輿に乗りたい偽聖女 × 聖女様と結婚したい王子 のカップルで
第1王子から側妃としてなら、と言われるが断って、幸せを模索しているときに、偶然、聖女様であったことがわかる。
聖女になってからのロストバージンだったので、聖女の力は衰えていない。
クリスティーヌの華麗なる復讐[完]
風龍佳乃
恋愛
伯爵家に生まれたクリスティーヌは
代々ボーン家に現れる魔力が弱く
その事が原因で次第に家族から相手に
されなくなってしまった。
使用人達からも理不尽な扱いを受けるが
婚約者のビルウィルの笑顔に救われて
過ごしている。
ところが魔力のせいでビルウィルとの
婚約が白紙となってしまい、更には
ビルウィルの新しい婚約者が
妹のティファニーだと知り
全てに失望するクリスティーヌだが
突然、強力な魔力を覚醒させた事で
虐げてきたボーン家の人々に復讐を誓う
クリスティーヌの華麗なざまぁによって
見事な逆転人生を歩む事になるのだった
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
侯爵令嬢の置き土産
ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる