後宮にて、あなたを想う

じじ

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146 その日の朝

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翌朝、皇帝はまだ薄暗いうちに起きると黄怜の部屋へと一人で向かった。

住人たちが寝静まっている後宮は、いつもと異なりしんとした気配があたりを支配している。
できるだけ足音を立てないようにしながら皇帝は目的の部屋へと急いだ。

部屋に入り寝台に近づくと黄怜は静かに寝息を立てていた。
そっと頬に触れると一瞬顔顰めたあとゆっくり目を開ける。

「陛下…」

うわ言のように呟いた後、自分の声で目が覚めたらしい。がばっと起き上がると慌てて髪を抑えている。そんな様子も愛らしいと感じる自分に一瞬皇帝はげんなりした。
今はそんなことを思っている場合ではない。そう心の中で自分を鼓舞するとゆっくりと黄怜に声をかけた。

「驚かせてすまない。蔡家の件だが…一緒に来るか」

昨日と今日で真逆のことをいっている自分に嫌気がさす。ちらりと伺うように黄怜を見ると驚いたように目を瞠いていた。

「その…よろしいのですか」
「ああ」

その代わり私の非情な部分を見ても嫌いにならないでくれ、そんな言葉を続けそうになってしまう己にうんざりする。
皇帝は頷くとなんとか言葉を続けた。

「だが…やはり彼らの恨みがあなたに向くことは許せない」

驚いたような眼差しで自分を見つめる黄怜に皇帝は続けた。

「あなたがどのような意図で蔡家の夫妻に親を国のために売ったのは自分だ、と言いたいのか…正直私には分からない。あなた自身のためなのか、彼らのためなのか、それとも私のためなのか…いや、全てかもしれないが…だが利用すると決めたのも、蔡一族ではなくあなたの両親だけを断罪すると決めたのも私だ。だからあなたがどのように思おうと彼らの恨みは私が引き受けることだ。
だが、自分の全く知らないところで両親が死ぬのが耐えられないということであればあなたを連れていく。
私にできる譲歩はそこまでだ」

黄怜は困ったように眉尻を下げて答えた。

「温情に感謝します」
「後ほど迎えをよこす。正装でこい」

その言葉に黄怜は再び頭を下げた。
皇帝はそれだけ伝えるとそのまま部屋を出て行った。

入れ替わるように奏輝が入ってきたのを見て、黄怜は静かに告げた。

「陛下について行くことになったわ。正装で、と仰ったの」

それだけで彼女には十分伝わったらしい。手際よく衣装や髪飾り化粧道具を用意し始めた。
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