散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は風にさらされて 1

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その日、婚約者予定のおじ様である鷹羽たかはね一王かずきに連れていかれたレストランは、よく雑誌に載っている有名シェフのレストランだった。 
休みが合えば、何かと瑞華を連れ出したがる鷹羽には正直、辟易している。
その様子は若く美しい女性を手にしたということを見せびらかすようで、中年の成り上がり男独特の虚栄心を感じるのだ。
瑞華が心底嫌だと思っているからそう感じるのかもしれないけれど。

有名であれば、美味しいわけではないと思う。 

心の中だけでは一先ず毒づいてから
「素敵な、所ですね」 
とりあえず、口では褒めておく。
もちろん表情もそれなりにつける。別に外食程度が珍しいわけでもない。

そもそも花宮が経営している百貨店にだって、名だたる飲食店が入っている。
素晴らしく感動したなんて様子を装う必要はないはずだ。
それこそ嘘っぽい。 

美味なのか珍味なのか、微妙なラインのフルコースを頂いて。お酒は弱いからと辞退。
多少口にしたところで、この場の居心地の悪さが変わらないことは先日の高層レストランで確認済みである。
だからといって飲みすぎることは危険だと言うことぐらい、瑞華にだってわかっている。
お酒に弱いということはないが、過信して飲みすぎるほど愚かではなかった。


鷹羽は運転手を食事中は待たせているので、少々お酒を口にする。
嗜む程度。それなりに強いのだろう、飲んだからといって様子が変わったことはなかった。
飲まなくてもどこか威圧的で、支配的な様子なのだ。そもそもが。
それが瑞華に、常に本能的な恐怖を与えている。

鷹羽一王という人物は、見苦しい中年というわけでは決してない。
体力維持のためジムにも通っていてスタイルはいい。いつもブランドのスーツを着こなしていて、大人の余裕さえ感じることが出来る。
やり手なのだろうと意識させる鋭い目線や饒舌でよく動く唇も、特に嫌悪の対象になる要素はなかった。それを魅力的だと思う人も多いはずだ。
事実、瑞華の両親は、鷹羽を随分と買っている。今まで周りにいなかったタイプと称賛さえする。
一人娘を結婚させるのは、経済的な支援よりも、むしろそちらのほうに理由があるようだ。

だが、一方で。
二人で対面している時の鷹羽には何かを嫌なものを感じる。
それは男性として、欲を滲ませて瑞華を見ているという事実もあるだろう。

しかし瑞華をより不安にさせるのは違う要素だ。
こうして客として利用する店でも、移動中の車でも。
決して鷹羽は気を抜く様子はない。
周りのすべてを観察し、隙が無く支配しようとするような気配を感じるのだ。
隙を見せれば、全てを奪おうとするこうな狡猾さ。

ただ、根拠はなかった。
瑞華が感じるのは、勘に似た部分だけであり、それを誰かに理解させるまでの材料がない。
ただ息を潜めて、どうにか今、獲物にならないようにと暗闇を手探りで進むように、会話をすり抜けるだけだ。

食事が終われば、車までのエスコートで、あからさまに腰に手を置かれ、寒気を覚えた。 

離せ 

心の中だけで、ぽつりと愚痴った。 
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