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第五章
空に咲く華 光は堕ちて 7
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瑞華の心がざわりと騒いだが、表情は驚くほどに穏やかだと感じた。
キラキラと輝く外の光がまぶし過ぎて、ささやかな心の波など、その前では細やかな遊戯のようではないか。
少しだけ間を持たせて、振り返った。
消した明かりのせいで、少しばかり相手の存在影が差している。
瑞華は深々と頭を下げた。
「先ほどは、申し訳ありませんでした」
その先の人影は何を思っただろう。
少しの間を空けてから気配は近づき、肩に触れて瑞華の顔を上げさせた。
それから、ふわりと頭を撫でて、瑞華を簡単に動揺させる。
「そこで謝られたら、俺は何も言えなくなるよ」
柔らかな音聞こえて、風人の表情には花火によって光と闇が混ざり、何を思っているのかは分からなかった。
ただ穏やかな声だけが響く。
頭から手を外されると、瑞華は表情の意味を考えるのは辞めて、窓の外を見た。
「綺麗、ですね」
「……」
自分の狡さは良く分かっている。
付き合って頂いたデートを逃げ出した瑞華が、風人の横に立っているのは、我ながら図々しい。
でも、いい。
この美しく散る花火の鎮魂だとでも思って。心を鎮めて、全ての罪を受け入れてしまえばいい。
どうせ贖罪の時はあるのだから。
欠片も鷹羽から逃げれると思っていない自分が少し可笑しかったが、瑞華はその輝きに心を預けた。
風人がそんな穏やかな瑞華の横顔に何を思ったかなど、知る由もない。
花火が終わって静かになると、瑞華がその後の静けさまで感じ入ってるのを待って、風人は明るく声を掛けた。
「送っていくよ。帰りはちゃんと」
そう言って促されて、後ろをついていった。
瑞華に合わせてゆっくり歩く姿に、こちらを気遣ってくれていることはわかった。
駐車場では、クルマの後部座席のドアを開けられた。風人が運転してくれる車に乗るのは初めてだった。
「ありがとうございます」
お礼を言って乗り込むが、運転席に乗り込んだ風人とは、走行中に交わす言葉もない。
そのことにまた気を使わせていると思えて仕方なかったが、無理に話しかけても気を使わせてしまうだろう。
沈黙のまま、花宮の屋敷についた。
家の人目を一応避けて、裏口に車をつけてもらう。
車が止まれば、気を遣わせないようにと自分でドアを開けて、瑞華は運転席の方まで歩き寄った。
「送って頂いてありがとうございました」
「…」
風人は無言のまま扉を開け、見送りに降りてくれる。
ふわり、微笑んだ表情は華やかだった。
「俺たちの演じてる関係はケリが着けばチャラだし。それまでは、まあ言いたいことを言いながらそこそこ楽しんで行きましょ」
軽く言われて。だが、続く言葉は目の色が変わり真剣だった。
決意を込めているように、しっかりと呟く。
「鷹羽氏を侮ったりしてねえし、出来ないけど、出来うる限り急ぐ。
絶対、助けるから」
どきり、とするが上手く返せない。
曖昧な態度をしていると、風人はお休みの挨拶をして、あっさりと車に乗り込み帰っていった。
――絶対に。
風人の言葉に揺らいでしまう自分がいる 。
風人さんの中には...可能性は一欠片でもあるんですか?
ぽつり、心の中でだけ呟いた。
可能性。望んでいるのは、助けてもらうことだけか、それとも。
贅沢な気持ちが少しばかり湧いて。
力なく首を振って項垂れた。
どこか温い風に背中を押されれば、ゆるりと敷地から屋敷へと向かう。
花火の余韻が残るような空は、星の輝きも息を潜めて、どこか寂しい。
キラキラと輝く外の光がまぶし過ぎて、ささやかな心の波など、その前では細やかな遊戯のようではないか。
少しだけ間を持たせて、振り返った。
消した明かりのせいで、少しばかり相手の存在影が差している。
瑞華は深々と頭を下げた。
「先ほどは、申し訳ありませんでした」
その先の人影は何を思っただろう。
少しの間を空けてから気配は近づき、肩に触れて瑞華の顔を上げさせた。
それから、ふわりと頭を撫でて、瑞華を簡単に動揺させる。
「そこで謝られたら、俺は何も言えなくなるよ」
柔らかな音聞こえて、風人の表情には花火によって光と闇が混ざり、何を思っているのかは分からなかった。
ただ穏やかな声だけが響く。
頭から手を外されると、瑞華は表情の意味を考えるのは辞めて、窓の外を見た。
「綺麗、ですね」
「……」
自分の狡さは良く分かっている。
付き合って頂いたデートを逃げ出した瑞華が、風人の横に立っているのは、我ながら図々しい。
でも、いい。
この美しく散る花火の鎮魂だとでも思って。心を鎮めて、全ての罪を受け入れてしまえばいい。
どうせ贖罪の時はあるのだから。
欠片も鷹羽から逃げれると思っていない自分が少し可笑しかったが、瑞華はその輝きに心を預けた。
風人がそんな穏やかな瑞華の横顔に何を思ったかなど、知る由もない。
花火が終わって静かになると、瑞華がその後の静けさまで感じ入ってるのを待って、風人は明るく声を掛けた。
「送っていくよ。帰りはちゃんと」
そう言って促されて、後ろをついていった。
瑞華に合わせてゆっくり歩く姿に、こちらを気遣ってくれていることはわかった。
駐車場では、クルマの後部座席のドアを開けられた。風人が運転してくれる車に乗るのは初めてだった。
「ありがとうございます」
お礼を言って乗り込むが、運転席に乗り込んだ風人とは、走行中に交わす言葉もない。
そのことにまた気を使わせていると思えて仕方なかったが、無理に話しかけても気を使わせてしまうだろう。
沈黙のまま、花宮の屋敷についた。
家の人目を一応避けて、裏口に車をつけてもらう。
車が止まれば、気を遣わせないようにと自分でドアを開けて、瑞華は運転席の方まで歩き寄った。
「送って頂いてありがとうございました」
「…」
風人は無言のまま扉を開け、見送りに降りてくれる。
ふわり、微笑んだ表情は華やかだった。
「俺たちの演じてる関係はケリが着けばチャラだし。それまでは、まあ言いたいことを言いながらそこそこ楽しんで行きましょ」
軽く言われて。だが、続く言葉は目の色が変わり真剣だった。
決意を込めているように、しっかりと呟く。
「鷹羽氏を侮ったりしてねえし、出来ないけど、出来うる限り急ぐ。
絶対、助けるから」
どきり、とするが上手く返せない。
曖昧な態度をしていると、風人はお休みの挨拶をして、あっさりと車に乗り込み帰っていった。
――絶対に。
風人の言葉に揺らいでしまう自分がいる 。
風人さんの中には...可能性は一欠片でもあるんですか?
ぽつり、心の中でだけ呟いた。
可能性。望んでいるのは、助けてもらうことだけか、それとも。
贅沢な気持ちが少しばかり湧いて。
力なく首を振って項垂れた。
どこか温い風に背中を押されれば、ゆるりと敷地から屋敷へと向かう。
花火の余韻が残るような空は、星の輝きも息を潜めて、どこか寂しい。
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