拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

オトウサン・お父さん ★1★

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名案だろうが迷案だろうが。
そのチャンスを最大限に生かしてしまえるが、小鳥遊家の家系なのかもしれない…。

迎えた父の日に、寮の前でオトウサンを待ちながら、柚鈴は少々虚ろな目になってしまうのを抑えることが出来なかった。
天気は曇り。
梅雨時期らしい、どこか暗い色の雲が浮かんでいて、私の心の中とよく似てるかも、なんて詩人めいた気持ちになってしまう。
念の為に持ってきたビニール傘がを手持無沙汰に回転させながら、らしくもなく文学少女気取りだ。

志奈さんとの電話をきったすぐ後には、オトウサンから電話があった。
『ありがとう!柚鈴ちゃん!早速だけど時間を決めようか。こっちの予定はどれだけでも開けておくから、その点での気遣いは無用だよ。ああ、午前中から一緒にいこうね。大丈夫!安心して。ちゃんと寮まで迎えに来るまで迎えに行くからね。帰りも勿論送るよ。うん、そういうことでよろしくね』
と感謝ときちんとした約束を要求されたのだ。

本当にいいの?とか、急にどうしたの?なんて一切聞かれなかった。
…何を安心すればいいのか分からない。そしてなにが大丈夫なのか…

二人でお出かけをするという目的において、口を挟む所のないように急速に話を持っていかれ、もしかして状況を分かっていらっしゃるのかと思ってしまうほどだ。

もはや致し方なし。
そもそも自分で言い出してしまったことなので、一緒に出掛ける、ということに関しては現実として受け入れる。
そう思うと、自分の要求を差し入れる、心の余裕がわずかに生まれてきた。

そういえば志奈さんから、幸に頼まれた3年前の生徒会作品『お嬢様の休日』の映像データを借りなくてはならない。なによりお母さんの顔も見たい。というか癒されたい。
癒し、癒しが欲しい。

というわけで、現時点の最善と思われる方法として、オトウサンの勢いにわずかに抵抗を見せ。
父の日のプレゼントを買う→横浜の家による→寮に送ってもらう、という日帰りコースの予定を組んでもらうことが出来た。

柚鈴の嘘に加担してもらっている分、生徒会の方も気にはなるが。
幸の原稿の方も、生徒会に提出され、ひとまず先輩方の手で添削されることになり、それが終わるまでは幸の仕事もない。
幸が仕事がなければ、当然柚鈴も仕事がない。
生徒会手伝いをしている振りをしているのだから、行くだけでも絵里について生徒会に行くのもアリ、だが。
正直、噂について耳にする可能性を考えると気乗りはしなかった。

目を背けていても、ダメだとは思う。
どうやら生徒会業務で忙しい凛子先輩と、寮でも中々顔を合わさないことをいいことに、柚鈴はその件をすっかり保留してしまっている。

東郷先輩が放っておいてもくれないだろうし、志奈さんを避け続けることも出来ないのは分かっているが。
進んで、問題を直視する気にも、なんとなくなれなかった。
逃げ癖がついているのかもしれない。

憂鬱にため息をついてしまうと、目の前に静かに車が止まった。
覚えのある国産車。
本当はそれなりに良い車なのかもしれないけれど、その程度の認識しか柚鈴にはない。
オトウサンである兼久さんの車だ。

にこにこと愛想の良い笑顔が見えたかと思うと、ドアが開く。
「やあ、柚鈴ちゃん。久しぶりだね」
「お久しぶりです。わざわざ、お迎えありがとうございます」
「お迎えくらい当然だよ。なんせ今日は初めてのデートだからね」
「は?」
「可愛い娘と父親の、初お出かけ。つまり親子デート。粗相があっちゃいけないでしょう?」
くしゃっと笑いじわが浮かぶ笑顔でのオトウサンの言葉に、柚鈴は固まった。
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