拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまに聞きたいことがあります!  ★1★

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「どうしてちゃんと教えてくれなかったんですか?」 
寮で初めての夕食を頂き、言われたいた通り確かに美味しい食事でほっこりした後。
短い時間しかなかったが、意を決して部屋から、オトウサンが買ってくれた携帯電話を初めて使って掛けた相手は、他でもない志奈だった。
本当はもっと遅い時間に電話を掛けた方がゆっくり出来たが、遅いすぎる時間に掛けるのも気が引けてしまった。
そんな中なのに、質問を最初から間違った、と思った。
考えてみれば、この質問では答えは決まっているのだ。 

「だって『教えてお姉ちゃん』って言ってくれなかったじゃない?」 
電話で聞くと柔らかくソプラノの声。楽しそうにクスクスと笑う、その音の麗しさ。 
志奈さんは、お決まりの言葉であっさり柚鈴を転がすのだ。 
思わず言葉に詰まると、上機嫌で志奈さんは言葉を足した。
 
「でもこうして電話を掛けてくれて嬉しかったから、質問があれば答えちゃおうかな」 
「ど、どうも」
お礼を言うものの、心中は複雑だ。  
「そもそも、柚鈴ちゃん。今日何を聞いて、『ちゃんと教えてくれなかった』と思ったの?」 
「え、それはまず、志奈さんが随分、有名人だっていうことでしょうか?」 
そう答えると、電話の向こうで沈黙が訪れた。
何かまずかっただろうか? 
そんな考えが頭をよぎりつつ、間が持たないので言葉を続ける。

「苗字が一緒なだけでも驚かれるし、『志奈さんの親戚に私くらいの女の子はいない』とか、中等部だった子まで詳しくて」 
「あら、そうなの?何かの取材でも受けたかしら?」 
覚えがあるようなないような、という感じで、志奈がようやく口を開いた。 
だがその事には、たいして気になった風でもなく、拗ねたように言葉を繋げる。

「だって柚鈴ちゃん。自分が有名かどうかなんて、自分じゃ良く分からないものよ」 
「まぁ、そりゃそうでしょうけど」 
「逆に教えて。私のどういった話が有名なの?」 
それはほとんど、聞いてなかった。 
興味津々な様子の志奈には悪いけれど、提供出来る話がない。
「...今度聞いておきます」 
言葉に詰まって言うと、クスクスと笑われてしまった。
「それで?他には」 
「あ、あと助言者メンター制度です。家系とか、ペアとか。それにあのバッチ、助言者メンター制度のバッチなんですよね?なんで私にくれたんですか?」 
「えぇ?あのバッチは違うわよ」 
「え?」 
「私が渡したバッチでしょう?助言者メンター制度のバッチじゃないわ。だって私自身、助言者メンターにもペアにもなったことないもの。助言者メンター制度のバッチなんて持ったことないわ」 
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