拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
上 下
25 / 282
第一章 4月

お姉さま、入学式です ★1★

しおりを挟む
寮に入ってから入学式までは慌ただしかった。
もともと数日しかない中での、寮でのルールや掃除当番などの説明会。
教科書が届いたり、文具や特別教室で使うための道具を取り揃えたり、入学式までに提出しなければならない課題もあって、やる事は山のようだった。

とても志奈さんや常葉学園について、誰かに聞く余裕なんてなく、かと言って電話して本人に聞くのも躊躇ためわれて。とうとう入学式当日。変化があったとすれば、日々を過ごす内に、ゆきかおるとより仲良くなったことだろうか?
2人とも、全く柚鈴とは違うタイプだったが、却ってバランスがいいのか、3人でいることも増え、自然と距離が近くなっていった。
呼び方もさん付けが取れ、ちゃん付けや呼び捨てなどになったし。
特に薫は、「さん付け」も面倒そうだっただが「ちゃん付け」は断固嫌がった。
まあ、さばさばした薫らしい、気がする。

入学式の前日は、上級生の始業式。
あくる日の入学式では上級生は休み。
朝、学校へ行く準備を終えて寮の玄関に行くと、はるか先輩や凛子りんこ先輩を始めとした寮の上級生が待っていた。
どうやら見送ってくれる気らしい。
皆さん一様に私服ではあるが、身なりを整えて、一分の隙もない。

「皆さん、本日は入学式ね。おめでとう」
遥先輩がにっこり笑うと、先輩方はそれぞれ新入生の身だしなみをチェックし始めた。
細かく確認をして、何かあれば丁寧に整えてくれる。

「ごきげんよう。柚鈴さんも制服チェックをしてあげるわ」
遥先輩に目の前に立たれ、あわてて姿勢を伸ばした。
な、なんか緊張する。
ぐるりと周りを回って、服装チェックをされる。
新入生1人1人が、上級生の目で制服の乱れがないか確認されているのだ。

「我が寮から出る新入生に、制服の乱れがあったら困るものね」
にっこり笑う上級生達の表情に、各々、新入生は少し照れたり、焦ったりしている。

迷ったけど、今日のセーラー服は新品の方だ。
おかげで、襟元のバッチ痕を気にせずに済んだので正解だったと思う。
志奈さんのセーラー服は、明日からに備えて、部屋できちんとしまっている。
セーラーのリボンを整えて貰うと、よしっとオッケーを貰った。
後から来た薫はいつも通りの短髪が寝癖が付いていて、先輩方が群れてヘアセットをされている。
一瞬慌てたようだったが、凛子りんこ先輩に大人しくするように言われて、肩を竦めて応じていた。
流石の薫も、凛子先輩には逆らわないようだ。

幸は部屋から出るまではゆっくりだったが、何度も鏡を見てチェックしたらしく、綺麗に準備していて、上級生からも褒められていた。
「行ってらっしゃい」
少しドキドキと胸が騒がしい。
家以外でこんな風に送り出して貰えるとは思っていなかったから。
「行ってきます」
自然と出た明るい声に、心の奥までほっこりした。
しおりを挟む

処理中です...