拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

翼を得た者 ★2★ 陸上部のお姉さま

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『お姉さまへ』
手紙を書くほど、文才には恵まれてない。
電話して話して、「やっぱりお姉さまは嫌だ」と言われたらどうしよう。
そう思った私は、なるだけ直接話す機会があった時には「お姉さま」とは呼ばないように心掛けた。
月に一、二回、絵葉書を買って来て、出たしの挨拶にだけ、『お姉さま』と書く。
あとは簡単な近況を添えて。
それだけで良かった。
大学は常葉学園ではなく、声を掛けてくれた監督がいる所へ受験した。

私は、手放したくないものの為に、柄にもなく慎重になっていた。
そうして月日を重ねて、守ろうとした私の宝物は、助言者メンター制度を象徴するとも言える『あなたにもらった片翼の翼』だった。


その日。
入学した大学で陸上部の練習を終え、帰宅しようと校門を出た所で。
「楓」
その人が待っていて、私は目を見開いていた。
「お姉さま」
思わず漏れた。
今まで直接には呼ばないように気をつけていたのに。
口から出た言葉は引っ込めようがない。

陸上部で助言者メンターであった今田智子さんは、その言葉に気づいたのか少しだけ目を見開いてから、にっこり笑った。
「会いに来たの。ちょっと付き合って」
その笑顔。
私が大好きな表情だった。

もうすっかり暗くなっていた。
大学近くの駅のベンチで、2人並んで座る。
智子さんが来た理由には一つだけ心当りがあった。
昨日、高等部の生徒会長であるという生徒から電話があった。
私のメンティであった有沢綾が助言者メンター制度でトラブルがあったらしい。
争いごとの苦手なあの子がどうしたのだろうと思ったが、話を持ってきたのが生徒会というのが引っかかって詳しく話は聞かなかった。
そして今日の夕方にも同じ生徒が尋ねてきたが、これは同じ陸上部の人に言って、帰らせてしまった。

気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ別の大学まで来て生徒会の話を聞きたくなかった。
言い訳なら、いくらでも出来る。
例えばそう、もし智子さんが私の立場であっても、この問題には関わらないはずだ。
そもそも綾が悩んだ上に選択した答えなら、最後までやらせてみるのかも良いだろう。

私は高校在籍の間、厳しい先輩をしすぎた。人に厳しくい続けるのは、とても疲れることだった。
綾にも、後輩にも、なるだけ手をかけようと頑張っていたが、それが正しかったかどうか、誰が分かるだろう。
確かに部活として成果は上がったと思ったが、大切なことは本当にそれなのか、私は疑問に思っていた。
だから関わらないことを選んだ。

なのに。
こうして助言者だった智子さんがこのタイミングで現れたことで、なんだか急に罪悪感が生まれてしまった。間違っていたのではないかと不安になっている。
本当は、綾が心配で様子を見に行きたかった気持ちがあったから。
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