拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
63 / 282
第一章 4月

翼を得た者 ★2★ 陸上部のお姉さま

しおりを挟む
『お姉さまへ』
手紙を書くほど、文才には恵まれてない。
電話して話して、「やっぱりお姉さまは嫌だ」と言われたらどうしよう。
そう思った私は、なるだけ直接話す機会があった時には「お姉さま」とは呼ばないように心掛けた。
月に一、二回、絵葉書を買って来て、出たしの挨拶にだけ、『お姉さま』と書く。
あとは簡単な近況を添えて。
それだけで良かった。
大学は常葉学園ではなく、声を掛けてくれた監督がいる所へ受験した。

私は、手放したくないものの為に、柄にもなく慎重になっていた。
そうして月日を重ねて、守ろうとした私の宝物は、助言者メンター制度を象徴するとも言える『あなたにもらった片翼の翼』だった。


その日。
入学した大学で陸上部の練習を終え、帰宅しようと校門を出た所で。
「楓」
その人が待っていて、私は目を見開いていた。
「お姉さま」
思わず漏れた。
今まで直接には呼ばないように気をつけていたのに。
口から出た言葉は引っ込めようがない。

陸上部で助言者メンターであった今田智子さんは、その言葉に気づいたのか少しだけ目を見開いてから、にっこり笑った。
「会いに来たの。ちょっと付き合って」
その笑顔。
私が大好きな表情だった。

もうすっかり暗くなっていた。
大学近くの駅のベンチで、2人並んで座る。
智子さんが来た理由には一つだけ心当りがあった。
昨日、高等部の生徒会長であるという生徒から電話があった。
私のメンティであった有沢綾が助言者メンター制度でトラブルがあったらしい。
争いごとの苦手なあの子がどうしたのだろうと思ったが、話を持ってきたのが生徒会というのが引っかかって詳しく話は聞かなかった。
そして今日の夕方にも同じ生徒が尋ねてきたが、これは同じ陸上部の人に言って、帰らせてしまった。

気にならないと言えば嘘になるが、わざわざ別の大学まで来て生徒会の話を聞きたくなかった。
言い訳なら、いくらでも出来る。
例えばそう、もし智子さんが私の立場であっても、この問題には関わらないはずだ。
そもそも綾が悩んだ上に選択した答えなら、最後までやらせてみるのかも良いだろう。

私は高校在籍の間、厳しい先輩をしすぎた。人に厳しくい続けるのは、とても疲れることだった。
綾にも、後輩にも、なるだけ手をかけようと頑張っていたが、それが正しかったかどうか、誰が分かるだろう。
確かに部活として成果は上がったと思ったが、大切なことは本当にそれなのか、私は疑問に思っていた。
だから関わらないことを選んだ。

なのに。
こうして助言者だった智子さんがこのタイミングで現れたことで、なんだか急に罪悪感が生まれてしまった。間違っていたのではないかと不安になっている。
本当は、綾が心配で様子を見に行きたかった気持ちがあったから。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...