拝啓、お姉さまへ

一華

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第二章 5月‐序

一歩、進んで ★4★

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カレーパウダー、コリアンダー、ガラムマサラ。
クローブ、クミン、ナツメグ、それから鷹の爪。
果物やココナッツオイルや諸々を並べて、柚鈴は楽しそうに笑った。
寮で食事を作る機会はないし、こういったスパイス類も勿論ないので、久しぶりだ。
カレーの材料は、なんだか柚鈴を楽しくさせる。
肉は鶏肉、包丁やまな板と準備を始める。

「僕はとびきり辛くなくていいからね」
料理を始める前の柚鈴に、早々に言ったのはオトウサンだ。
「普通の、普通に辛いので充分だから」
念を押すように言ったオトウサンに、志奈さんが眉をひそめて反論する。
「お父様、そんなことでいいの?辛くても食べようとする気持ちが大切なんじゃない?」
そういうと、オトウサンは小さく両手を上げて、降参の意を表した。
「いや、僕はもういい。志奈は知らないだろうけどね、僕は柚鈴ちゃんと百合さんがよく行くカレーやさんに行って、一番辛いカレーを食べたことがあるんだよ」
「そうなんですか?」
その話は初耳で柚鈴が聞くと、オトウサンは重々しく頷いた。
少々、苦い思い出であるような反応だ。
思い当たる所があるのだろう。お母さんは、何も言わずに笑って聞いている。

「美味しかったよ。美味しかったけどね、本当に辛くて途中で味が分からなくなってくるし、量が多かったのもあったけど、ちょっと全部完食するのは難しかったよ」
「ああ…そうですよね」
その言葉に、柚鈴は納得した。
お店の人が、初心者にはお勧めしない程に辛いカレー。
一口目は甘味すら感じる。辛さも辛くて美味しい、と柚鈴は思っている。
お母さんもそう思っているようだけど、やっぱり辛さがつらい、と思う人も多いはずだ。
しかも量もかなり多い。辛くなればなるほど多い。
その量の増減は、実は足される唐辛子などの量らしい。
一番辛いカレーだとしたら、さぞ多かっただろう。

ちなみに、お店のカレーは量の面から柚鈴も一人前を全部食べることはできない。
一人前をお母さんとシェアし、後はサイドメニューを頼むようにしている。
ただ、頻繁に行って一人前をシェアするのは少し申し訳ない気がする。
それもあって、一人が食べれる量を調節できる、家でのカレー作りに至ったという経緯もあるのだ。

「志奈、お前知らないだろうけど。今日のカレーだって、まず普通にスープカレーを作ってから、唐辛子とか鷹の爪を足していくんだよ。普通のカレーだって、そこそこに辛いんだから、無理する必要はないと思わないか?」
「……お、思わないわ。というより、尚更普通じゃないカレーを食べたくなってきたくらいよ」
志奈さんが、一瞬怯んだものの断固譲らないので、オトウサンは肩を竦めた。
言い出したら聞かない、というより、オトウサンがすでに体験した、柚鈴とお母さんの普通を自分も体験したい、という所だろうか。
うん、きっとそうに違いない。

「何にしろ、僕は普通の辛さでお願いします」
「わかりました」
話を聞いていたお母さんがクスクス笑う。
柚鈴はとりあえず、普通のカレーも二人分作っておくことにした。
余ったら、タッパにいれて寮に持ち帰ればいいのだ。
「本当に手伝わなくていいの?」
「いいの。一応、前倒しの母の日だから」
それにしても、と柚鈴は付け加えた。
確かに広い台所だが、目の前に大人が3人もいるのだ。
なんでこの家族は、台所に集まってきているんだろうと、呆れたように目を向けた。


「みんな、リビングにいていいんですよ」
邪魔とまでは言えないが、思わず率直に言ってしまった。

料理を作る姿を見守ろうとする保護者。
それがここでは3人もいたようだ。反論が出る前に。

「というか、リビングにいてください」
重ねて、嘆願の気持ちで言葉を重ねた。
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