142 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 11
しおりを挟む
確かに東郷先輩は悪いことをしていると言いきれることをしているわけではない。
もちろん今現在、柚鈴の断りの言葉は聞いてくれなくて困っているけど。
そうして選んでくれて声を掛けてくれたことは、もし『ペアを作らない』と決めていなかったら嬉しい出来事だった可能性も、ないわけでもない、かもしれない。
それでもそれを断る柚鈴が間違っているということもないのだろう。
ただしっかりと線引きをして行動しなくては、間違いになってしまう。
凛子先輩はそうして相手を傷つけて、自分も傷ついたからこそ、そう言うのではないかと思えて。
柚鈴は頷いた。
「ありがとう。そう言ってくれて」
凛子先輩は軽く笑って見せて、その潔い態度が柚鈴には少し恰好良く思えた。
「今更、生徒会手伝いしますなんて言っても、もう申し込みしている東郷さんからすれば火に油でしょうねえ」
「…そ、そうですね」
「ひとまず、先生方から手を回されないように職員方面には相談をしておくわ。東郷さんの助言者の方にも話は通してみるわね」
「ありがとうございます」
「それでも駄目なら、私からも東郷さんとは話をしてみるから、少し様子を見る時間を頂戴」
「はい…」
そのどこか真摯な姿勢に、それだけで柚鈴は相談して良かったと思えていた。
凛子先輩の方は、机の上のカレンダーを見て、何かに気付いて物憂げな表情を見せる。
「出来れば、体育祭の前には片づけたいわね」
「…?」
体育祭の言葉に、一体何があるのだろうと思っていると、凛子先輩はそのまま考え込んでから気付いたようにこっちを見た。
「ああ、そうか。常葉学園の体育祭は初めてなのよね?」
「はい。何かあるんですか?」
「目玉の競技があるわ。東組の2年生が特に一番盛り上がるの」
「はあ…」
体育祭の競技と、柚鈴の現状がどう関わってくるのか分からず、気のない返事になってしまった。
凛子先輩は苦笑して説明をしてくれる。
「体育祭は所属の東西南北の組で、参加競技の数が変わることは聞いたわよね?」
「はい。南組のために体育祭みたいなものですよね」
「そう言われてしまうと身も蓋もないわね。でもその通り。東組の生徒は多少の例外もあるけど、あまり戦力にはならないわ。その戦力にならない人たちが参加しやすい競技って何だと思う?」
「え?」
戦力にならない東組の生徒が、参加しやすい競技?
なんでそんなことを問われているのか分からないまま、柚鈴は考え込んだ。
それは運動能力よりも、運とか頭脳プレーが必要だと言うことだろうか?
「障害走とか、そういう類でしょうか?」
「その通り。2年生東組の生徒中心で行われる借り物競争が、体育祭の一つの目玉よ」
「借り物競争?」
借り物競争、というと。
走った先に、お題の書いた札があって、その書いてあるものを探し出さないとゴールできない、という競技ではなかっただろうか?
それが何故、今、話に出てくるのか、柚鈴が分からずにいると、凛子先輩は肩を竦めて見せた。
「お題はもちろん『ペアにしたい人』」
「……」
「もし、自分がペアにしたい子が、他の人にも望まれてる場合は同じ順番での競うように振り分けるし、1年生は断るつもりなら、全力で走って逃げないといけないの」
凛子先輩の説明を聞きながら、柚鈴はしばし沈黙の後、声を上げた。
「…え、ええ!?」
「だから盛り上がるのよね。この競技は当日参加表明してもいいのだけどそれだと時間に限りがあって出れるか分からないから。東郷さんはきっとあらかじめ選手登録して参加してくるんじゃないかしら?柚鈴さん、脚は速い?」
鬼ごっこのように体育祭での追いかけっこ。
それは確かに盛り上がるだろう。
ちなみに柚鈴はそんなに足が速い方ではない。
「ここで見事ゴールした東組の生徒のほとんどが、その相手とペアになるわ。つまりゴールした瞬間に公認になるようなものなのよ」
「ゴールされちゃうのって、やっぱりまずいんでしょうか?」
「それだけ盛り上がってしまうから…そうなって断った生徒の前例がまだないのよ。見ていた観客がその有志を称えて応援してしまうの」
あっさりと頷かれて、柚鈴の表情は固まってしまった。
前例が、ない。
勿論、ゴールしてしまっても前例がないだけで断ることが出来る、という可能性もゼロではないのかもしれないが。そこに賭けたいと思える程、楽観的ではなかった。
体育祭で追われる立場。
もし東郷先輩が競技に参加するなら、全速力で来るだろう。
きっと迷いなんてないはずだ。
というか、借り物競争なんて、実に東郷先輩向きではないだろうか。
…なんで、そんな競技があるのよ…
これは困ったことになったと、柚鈴は大きなため息をついた。
もちろん今現在、柚鈴の断りの言葉は聞いてくれなくて困っているけど。
そうして選んでくれて声を掛けてくれたことは、もし『ペアを作らない』と決めていなかったら嬉しい出来事だった可能性も、ないわけでもない、かもしれない。
それでもそれを断る柚鈴が間違っているということもないのだろう。
ただしっかりと線引きをして行動しなくては、間違いになってしまう。
凛子先輩はそうして相手を傷つけて、自分も傷ついたからこそ、そう言うのではないかと思えて。
柚鈴は頷いた。
「ありがとう。そう言ってくれて」
凛子先輩は軽く笑って見せて、その潔い態度が柚鈴には少し恰好良く思えた。
「今更、生徒会手伝いしますなんて言っても、もう申し込みしている東郷さんからすれば火に油でしょうねえ」
「…そ、そうですね」
「ひとまず、先生方から手を回されないように職員方面には相談をしておくわ。東郷さんの助言者の方にも話は通してみるわね」
「ありがとうございます」
「それでも駄目なら、私からも東郷さんとは話をしてみるから、少し様子を見る時間を頂戴」
「はい…」
そのどこか真摯な姿勢に、それだけで柚鈴は相談して良かったと思えていた。
凛子先輩の方は、机の上のカレンダーを見て、何かに気付いて物憂げな表情を見せる。
「出来れば、体育祭の前には片づけたいわね」
「…?」
体育祭の言葉に、一体何があるのだろうと思っていると、凛子先輩はそのまま考え込んでから気付いたようにこっちを見た。
「ああ、そうか。常葉学園の体育祭は初めてなのよね?」
「はい。何かあるんですか?」
「目玉の競技があるわ。東組の2年生が特に一番盛り上がるの」
「はあ…」
体育祭の競技と、柚鈴の現状がどう関わってくるのか分からず、気のない返事になってしまった。
凛子先輩は苦笑して説明をしてくれる。
「体育祭は所属の東西南北の組で、参加競技の数が変わることは聞いたわよね?」
「はい。南組のために体育祭みたいなものですよね」
「そう言われてしまうと身も蓋もないわね。でもその通り。東組の生徒は多少の例外もあるけど、あまり戦力にはならないわ。その戦力にならない人たちが参加しやすい競技って何だと思う?」
「え?」
戦力にならない東組の生徒が、参加しやすい競技?
なんでそんなことを問われているのか分からないまま、柚鈴は考え込んだ。
それは運動能力よりも、運とか頭脳プレーが必要だと言うことだろうか?
「障害走とか、そういう類でしょうか?」
「その通り。2年生東組の生徒中心で行われる借り物競争が、体育祭の一つの目玉よ」
「借り物競争?」
借り物競争、というと。
走った先に、お題の書いた札があって、その書いてあるものを探し出さないとゴールできない、という競技ではなかっただろうか?
それが何故、今、話に出てくるのか、柚鈴が分からずにいると、凛子先輩は肩を竦めて見せた。
「お題はもちろん『ペアにしたい人』」
「……」
「もし、自分がペアにしたい子が、他の人にも望まれてる場合は同じ順番での競うように振り分けるし、1年生は断るつもりなら、全力で走って逃げないといけないの」
凛子先輩の説明を聞きながら、柚鈴はしばし沈黙の後、声を上げた。
「…え、ええ!?」
「だから盛り上がるのよね。この競技は当日参加表明してもいいのだけどそれだと時間に限りがあって出れるか分からないから。東郷さんはきっとあらかじめ選手登録して参加してくるんじゃないかしら?柚鈴さん、脚は速い?」
鬼ごっこのように体育祭での追いかけっこ。
それは確かに盛り上がるだろう。
ちなみに柚鈴はそんなに足が速い方ではない。
「ここで見事ゴールした東組の生徒のほとんどが、その相手とペアになるわ。つまりゴールした瞬間に公認になるようなものなのよ」
「ゴールされちゃうのって、やっぱりまずいんでしょうか?」
「それだけ盛り上がってしまうから…そうなって断った生徒の前例がまだないのよ。見ていた観客がその有志を称えて応援してしまうの」
あっさりと頷かれて、柚鈴の表情は固まってしまった。
前例が、ない。
勿論、ゴールしてしまっても前例がないだけで断ることが出来る、という可能性もゼロではないのかもしれないが。そこに賭けたいと思える程、楽観的ではなかった。
体育祭で追われる立場。
もし東郷先輩が競技に参加するなら、全速力で来るだろう。
きっと迷いなんてないはずだ。
というか、借り物競争なんて、実に東郷先輩向きではないだろうか。
…なんで、そんな競技があるのよ…
これは困ったことになったと、柚鈴は大きなため息をついた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる