拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 11

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確かに東郷先輩は悪いことをしていると言いきれることをしているわけではない。
もちろん今現在、柚鈴の断りの言葉は聞いてくれなくて困っているけど。
そうして選んでくれて声を掛けてくれたことは、もし『ペアを作らない』と決めていなかったら嬉しい出来事だった可能性も、ないわけでもない、かもしれない。

それでもそれを断る柚鈴が間違っているということもないのだろう。
ただしっかりと線引きをして行動しなくては、間違いになってしまう。

凛子先輩はそうして相手を傷つけて、自分も傷ついたからこそ、そう言うのではないかと思えて。
柚鈴は頷いた。

「ありがとう。そう言ってくれて」
凛子先輩は軽く笑って見せて、その潔い態度が柚鈴には少し恰好良く思えた。

「今更、生徒会手伝いしますなんて言っても、もう申し込みしている東郷さんからすれば火に油でしょうねえ」
「…そ、そうですね」
「ひとまず、先生方から手を回されないように職員方面には相談をしておくわ。東郷さんの助言者メンターの方にも話は通してみるわね」
「ありがとうございます」
「それでも駄目なら、私からも東郷さんとは話をしてみるから、少し様子を見る時間を頂戴」
「はい…」
そのどこか真摯な姿勢に、それだけで柚鈴は相談して良かったと思えていた。
凛子先輩の方は、机の上のカレンダーを見て、何かに気付いて物憂げな表情を見せる。
「出来れば、体育祭の前には片づけたいわね」
「…?」

体育祭の言葉に、一体何があるのだろうと思っていると、凛子先輩はそのまま考え込んでから気付いたようにこっちを見た。
「ああ、そうか。常葉学園の体育祭は初めてなのよね?」
「はい。何かあるんですか?」
「目玉の競技があるわ。東組の2年生が特に一番盛り上がるの」
「はあ…」
体育祭の競技と、柚鈴の現状がどう関わってくるのか分からず、気のない返事になってしまった。
凛子先輩は苦笑して説明をしてくれる。

「体育祭は所属の東西南北の組で、参加競技の数が変わることは聞いたわよね?」
「はい。南組のために体育祭みたいなものですよね」
「そう言われてしまうと身も蓋もないわね。でもその通り。東組の生徒は多少の例外もあるけど、あまり戦力にはならないわ。その戦力にならない人たちが参加しやすい競技って何だと思う?」
「え?」

戦力にならない東組の生徒が、参加しやすい競技?
なんでそんなことを問われているのか分からないまま、柚鈴は考え込んだ。
それは運動能力よりも、運とか頭脳プレーが必要だと言うことだろうか?
「障害走とか、そういう類でしょうか?」
「その通り。2年生東組の生徒中心で行われる借り物競争が、体育祭の一つの目玉よ」
「借り物競争?」
借り物競争、というと。
走った先に、お題の書いた札があって、その書いてあるものを探し出さないとゴールできない、という競技ではなかっただろうか?
それが何故、今、話に出てくるのか、柚鈴が分からずにいると、凛子先輩は肩を竦めて見せた。
「お題はもちろん『ペアにしたい人』」
「……」
「もし、自分がペアにしたい子が、他の人にも望まれてる場合は同じ順番での競うように振り分けるし、1年生は断るつもりなら、全力で走って逃げないといけないの」
凛子先輩の説明を聞きながら、柚鈴はしばし沈黙の後、声を上げた。

「…え、ええ!?」
「だから盛り上がるのよね。この競技は当日参加表明してもいいのだけどそれだと時間に限りがあって出れるか分からないから。東郷さんはきっとあらかじめ選手登録して参加してくるんじゃないかしら?柚鈴さん、脚は速い?」
鬼ごっこのように体育祭での追いかけっこ。
それは確かに盛り上がるだろう。
ちなみに柚鈴はそんなに足が速い方ではない。

「ここで見事ゴールした東組の生徒のほとんどが、その相手とペアになるわ。つまりゴールした瞬間に公認になるようなものなのよ」
「ゴールされちゃうのって、やっぱりまずいんでしょうか?」
「それだけ盛り上がってしまうから…そうなって断った生徒の前例がまだないのよ。見ていた観客がその有志を称えて応援してしまうの」
あっさりと頷かれて、柚鈴の表情は固まってしまった。

前例が、ない。
勿論、ゴールしてしまっても前例がないだけで断ることが出来る、という可能性もゼロではないのかもしれないが。そこに賭けたいと思える程、楽観的ではなかった。

体育祭で追われる立場。
もし東郷先輩が競技に参加するなら、全速力で来るだろう。
きっと迷いなんてないはずだ。
というか、借り物競争なんて、実に東郷先輩向きではないだろうか。

…なんで、そんな競技があるのよ…

これは困ったことになったと、柚鈴は大きなため息をついた。
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