拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
157 / 282
第三章 5月‐結

お姉さま、デートの時間です 15

しおりを挟む
そんな思いを巡らせている柚鈴の気持ちなど知らない志奈さんは、そうだ!と思いついたように声を上げた。

「柚鈴ちゃんも先に競技に参加して、誰かとゴールしてしまう、というのはどう?良い手かもしれないと思わない?」
「え。私が借り物競争に出るってことですか?」
「そう。自分の目当ての子が、別の人とゴールしちゃったのなら、やっぱり諦めるしかないでしょう?」
「……」

まあ、確かに一理あるかもしれないけれど…
一体、誰とゴールしろと言うのだろうか。突然言われた言葉に、柚鈴は全く思いつかない。
そもそも、『ペアになりたい人』を柚鈴が探してゴールしたとして、それでその人とペアを組むことになったら全く意味がない。
にこやかに笑っている志奈さんも、それで良いのだろうか。
答えに窮して。それから、思いついたことがあり口を開いた。

「まさか志奈さん。当日は体育祭にくるんじゃないでしょうね?それで、自分とゴールすればいいとか思っていませんか?」
「え?」
その質問には、本当に考えていなかったように志奈さんは目を見開いた。
「常葉学園の体育祭って…月末の平日じゃない。私は大学があるし見に行くことは出来ないわ。もちろん行けたら行きたいけれど…」
「じゃあ、私に誰とゴールしろと言うんですか?」
「だから例えば、既にペアを組んでいる先輩とか。あとは生徒会メンバーとか」
「え?」
「お題はあくまでも『ペアになりたい人』っていう希望だもの。別に本当になれなくてもいいでしょう?1年生は思い出作りに敢えて手の届かない人とゴールするっていうことはあったわ」
「そうなんですか?」
「ええ。確かにお互いにペアを組んでいないのなら、そのままペアになっていたのも確かだけど。憧れている人が、3年生の既にメンティを持っている人だったり、そもそも資格のない誰かだったり。そういう場合もあったのよ。感動的だったわ」

何かを思い出したように、ほうっとため息をついた様子はどこか懐かしんでいる様子だ」

「…志奈さんも誰かとゴールしたわけですか?」
「ええ」
躊躇いなくにっこり笑って答えた志奈さんの笑顔は曇りがなかった。

なるほど、この人は助言者メンターを作らないと宣言して、メンティも作らなかったのだから、きっと借り物競争でのお呼び出し率も高かったことだろう。
それこそ、上級生からも下級生からも。
だからこそ、そういう方法が自然と浮かぶのか、と思う。

だが、確かにそれは一つの手かもしれない。
敢えて、ペアになれない相手とゴールしてしまう。

それでもあきらめずに、自分の順番に柚鈴に向かってくる可能性があるかもしれないけれど。
気持ちがないことを先に明確にしておけば、少なくともその様子を見ていた周りからの干渉は減らせるかもしれない。
なんせ借り物競争での結果で、もっとも柚鈴が恐れているのは、周りが祝福ムードになって、断りにくい雰囲気を作ってしまうことだ。
そう考えると希望が見えてきた気がする。

「それは、良い手かもしれません」
「本当?」
「はい。誰を相手に選ぶかも重要ですが、そこも含めて体育祭への対策にします」
「そう?そうね。誰を選ぶかかぁ」

志奈さんは考え込むように目を閉じて、やがて悲しそうに目を伏せた。

「…柚鈴ちゃんが、誰かとゴールしちゃったら焼きもち妬いちゃうなあ」
「はあ…?」

それが拗ねたような顔に変化していくことに気付いて、柚鈴は急展開に戸惑う。
「今度は何を言い出してるんですか」
「だって。改めて想像したら、私は一緒にゴール出来ないんだもの」

今まで想像していなかったんですか…
柚鈴は呆れてしまう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...