拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、デートの時間です 15

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そんな思いを巡らせている柚鈴の気持ちなど知らない志奈さんは、そうだ!と思いついたように声を上げた。

「柚鈴ちゃんも先に競技に参加して、誰かとゴールしてしまう、というのはどう?良い手かもしれないと思わない?」
「え。私が借り物競争に出るってことですか?」
「そう。自分の目当ての子が、別の人とゴールしちゃったのなら、やっぱり諦めるしかないでしょう?」
「……」

まあ、確かに一理あるかもしれないけれど…
一体、誰とゴールしろと言うのだろうか。突然言われた言葉に、柚鈴は全く思いつかない。
そもそも、『ペアになりたい人』を柚鈴が探してゴールしたとして、それでその人とペアを組むことになったら全く意味がない。
にこやかに笑っている志奈さんも、それで良いのだろうか。
答えに窮して。それから、思いついたことがあり口を開いた。

「まさか志奈さん。当日は体育祭にくるんじゃないでしょうね?それで、自分とゴールすればいいとか思っていませんか?」
「え?」
その質問には、本当に考えていなかったように志奈さんは目を見開いた。
「常葉学園の体育祭って…月末の平日じゃない。私は大学があるし見に行くことは出来ないわ。もちろん行けたら行きたいけれど…」
「じゃあ、私に誰とゴールしろと言うんですか?」
「だから例えば、既にペアを組んでいる先輩とか。あとは生徒会メンバーとか」
「え?」
「お題はあくまでも『ペアになりたい人』っていう希望だもの。別に本当になれなくてもいいでしょう?1年生は思い出作りに敢えて手の届かない人とゴールするっていうことはあったわ」
「そうなんですか?」
「ええ。確かにお互いにペアを組んでいないのなら、そのままペアになっていたのも確かだけど。憧れている人が、3年生の既にメンティを持っている人だったり、そもそも資格のない誰かだったり。そういう場合もあったのよ。感動的だったわ」

何かを思い出したように、ほうっとため息をついた様子はどこか懐かしんでいる様子だ」

「…志奈さんも誰かとゴールしたわけですか?」
「ええ」
躊躇いなくにっこり笑って答えた志奈さんの笑顔は曇りがなかった。

なるほど、この人は助言者メンターを作らないと宣言して、メンティも作らなかったのだから、きっと借り物競争でのお呼び出し率も高かったことだろう。
それこそ、上級生からも下級生からも。
だからこそ、そういう方法が自然と浮かぶのか、と思う。

だが、確かにそれは一つの手かもしれない。
敢えて、ペアになれない相手とゴールしてしまう。

それでもあきらめずに、自分の順番に柚鈴に向かってくる可能性があるかもしれないけれど。
気持ちがないことを先に明確にしておけば、少なくともその様子を見ていた周りからの干渉は減らせるかもしれない。
なんせ借り物競争での結果で、もっとも柚鈴が恐れているのは、周りが祝福ムードになって、断りにくい雰囲気を作ってしまうことだ。
そう考えると希望が見えてきた気がする。

「それは、良い手かもしれません」
「本当?」
「はい。誰を相手に選ぶかも重要ですが、そこも含めて体育祭への対策にします」
「そう?そうね。誰を選ぶかかぁ」

志奈さんは考え込むように目を閉じて、やがて悲しそうに目を伏せた。

「…柚鈴ちゃんが、誰かとゴールしちゃったら焼きもち妬いちゃうなあ」
「はあ…?」

それが拗ねたような顔に変化していくことに気付いて、柚鈴は急展開に戸惑う。
「今度は何を言い出してるんですか」
「だって。改めて想像したら、私は一緒にゴール出来ないんだもの」

今まで想像していなかったんですか…
柚鈴は呆れてしまう。
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