拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、お茶会参加のはずでした! 4

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「花蓮?そんなことないよ」
岬さんは意外なことを聞かれたというように。
驚いた表情を見せた。

それは冗談なく素で思っているようで、柚鈴を戸惑わせる。

「でも、さっきは良さそうに見えませんでしたけど…」
遠慮がちにそういうと、岬さんはクスクスと笑って肩を竦めた。
「あれは、花蓮なりの愛情表現。といっても信じないよね」

特に気にしていないのだろう、壁に背をもたれさせて、コーヒーを開けて飲んでから、なんてことない様子で答えた。

「花蓮はね、在学中は私の監視員みたいなものだったのよ。放っておくと何をしでかすと分からないっていうんでね。だから、その癖が抜けないんじゃないかな?私は問題児だったから」
「そうなんですか?」
「あんまり人の言うこと聞かないしねえ」

それはそうなのかも知れないけれど。
この人が部長をしていた茶道部での昨年の業績を、色んな人から聞いている。
なのにこれは謙遜なのか何なのか。飄々として、平気で自分を皮肉るので不思議な人だ。
…そういえば。
相原先輩も、昨年の茶道部の功績については自慢に思っているようなことを言っていたことを思い出す。
それを思うと、相原先輩が目の前のこの人を嫌っていないのは確かなのかもしれない。
分かっていて周りを振り回しているのだろうか?謎だ。

一体この人は、志奈さんとどんな友情を築いているのだろう。全く想像がつかなかった。

「…志奈さんの言うことは聞くんですか?」
「志奈?志奈はね、言うことを聞かせようなんて思ってないんじゃないかな」
「そうなんですか」
「いっつも楽しそうなことやってて、私はそれに参加させてもらってるだけ」
「確かに、志奈さんはいつも楽しそうかもしれませんけど」
「何?振り回されちゃってるの?」
ニヤニヤと。楽しそうに笑われて、柚鈴は口を閉ざした。
そこで黙ってしまえば、肯定していることと一緒なのかも知れないけれど。
とりあえず黙秘。

「志奈はね、そういう星の下に生まれてるのよ」
「…」
「黙っていても色んなものが向こうからやってくる。そういうのを嫌がらずに受け入れていくから、益々引き寄せる能力が上がる。実に面白い」
「はあ…」
一応、これは友達自慢なのだろうか?
しのさんの独特な言い回しに首を傾げていると、こちらを面白そうに見つめてくる。
どうしたんだろうと言葉を待っていると、じっくり間を持たさせるようにコーヒーを一口味わってから、ようやく口を開いた。

「私は、志奈が自分から欲したものは二つしか見たことがない」
「なんの話ですか?」
「柚鈴ちゃんの話」

志奈さんが自分から欲したもの。
その言われようの心当たりはあったものの、柚鈴はそんなストレートな言い方には耐えきれなかった。

「…そんな御大層なものじゃありませんけど」
「御大層かどうかは、人に寄っての考え方の違いということで済ませましょうよ」
「そう、言われましても」
「実質が御大層でなくて普通でもいいのよ。志奈にとって柚鈴ちゃんが大したものだったら、私はそれでいいんだもん」
「…言われていることの意味が、良く分かりません」
「うん」
しのさんは愛想よく笑った。それで良いんだけどね、と言わんばかりだ。
「柚鈴ちゃんて、本当に普通ねぇ。なんだか安心しちゃった」
「どういう意味ですか」
「良い意味よ。あの志奈の妹なのにそんな感じが全くしないところとか、私と話していてもペースを崩さないで当たり前でいてくれるところとか」
全く同意出来るところのない意見には、もはや曖昧に笑うしかない。

「志奈さんにも、しのさんにも、私は十分に振り回されていると思うんですけど…」
そう小さく反論した。
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