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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭です! 4 ~幸~
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黄組の待機場所にて。
ほへぇ…
100m走の結果に、幸はポカンと口を開けたまま、しばらく驚きの表情を浮かべたままだった。
沢城先輩は運動神経が良い人だとは、全く想像していなかったのだ。
気さくで優しくて、少し変わっているけれど人懐こい人。
なんとなくマイペースで、ふわふわした所があるから、きっと運動していても変な所でミスをしちゃう人なのかと思っていたのだ。
あの人柄で、あれだけ体も動かせるのなら。
助言者資格を持っていたら、大人気だったんじゃないかなあ。
しかしながら、沢城先輩は持っていないので、がっかりした1年もいたのかもしれない。
そんなことを思うと、少し今まで感じた事のない、自分自身に刺さるようなようなものを感じてしまい、我ながら意味が分からずに首を振った。
これ、なんだろうと考えようとした時。
「こ~ら、なに百面相しているの?」
幸の頭に、コツンと小突いたのは、同じ黄組の2年生の川合麻紀さんだった。
本来は南組に所属している新体操部。花奏の部活の先輩にもあたる。
応援合戦の練習では、幸のチアの練習を付ききりで見てくれた人でもある。
…本当は、花奏が最初に見ていてくれたのだが、あまりにも上達が遅いため、体育祭の応援合戦、ダンス部との共同ダンス競技の両方で、センターポジションにいることが多い花奏が見ていることが出来なくなり、交代してくれたのだ。
川合先輩自身も応援合戦では重要なポジションなのだが、ダンス部との共同ダンスには出ないから時間があったらしい。
薫が指摘した盆踊りっぽさが中々抜けない幸に対して、丁寧に根気よく教えてくれた体育祭で恩の出来た人だ。
「あ、いえ。みんな、足が速いなあと思って、びっくりしてました」
「なるほどねえ。驚くのはいいけど、衝撃受けすぎて、どうにか頭に入れ込んだチアの振り忘れないでよ?」
「はい!頑張ります」
勢いついて両手を振りながら答えた幸に、川合先輩はクスクス笑ってから、他の人に呼ばれて行ってしまった。
入れ替わりのように花奏が幸の背中から抱き付いてくる。
「仲イイネ~」
「へぇえ!?」
思いも寄らない言葉に変な声が出てしまうと、花奏は幸の心の内面でも探るかのように、じぃっと見つめてきて、う~んと考え込んだ。
「幸は川合先輩には興味ない…?」
その言い方の意味は分からないものの、川合先輩にもなんだか失礼な話の流れになっている気がして、幸は答えた。
「良い先輩だよ。私の練習が遅れてて、お世話になってるし」
「それだけ?」
花奏には、その答えでは足りなかったらしく、更に追及されるが幸には意味が分からない。
「それだけってなあに?」
「川合先輩からペアになってとか言われたらどうする?あの人、助言者資格持ってるよ」
「まさかあ」
何を言い出すのかと、花奏に朗らかに笑って見せると、そうかそうかと心から納得したように相槌を打ってから、ぽんぽんと幸の肩を叩いた。
「全く考えてなかったのは分かった。でも考えておきたまえ。川合先輩は、急遽『借り物競争』への競技にエントリーしている」
「へ?」
「チアの練習が始まった後に、一度決まっていた所に申し入れをしたらしい」
「え?」
まるきり他人事のような答えをする幸の肩に、更にポンと花奏は手を置いた。
「私は目的が幸ちゃんにある気がするのだよ」
その言葉に、幸は目を丸くして驚きの表情を見せた。
それから最初は小さく、やがて大きく。何度も首を横に振る。
「えええ。ないよないよ!そんなのないって」
「うん。答え合わせは午後の借り物競争だね。じゃあ、私は長縄に出るから!」
困惑の幸に手を振って。花奏は軽やかに競技へと走って行ってしまった。
「え、えええ!?」
幸の状況を受け入れきれない叫び声のようなものだけが。
黄組の片隅で響いた。
ほへぇ…
100m走の結果に、幸はポカンと口を開けたまま、しばらく驚きの表情を浮かべたままだった。
沢城先輩は運動神経が良い人だとは、全く想像していなかったのだ。
気さくで優しくて、少し変わっているけれど人懐こい人。
なんとなくマイペースで、ふわふわした所があるから、きっと運動していても変な所でミスをしちゃう人なのかと思っていたのだ。
あの人柄で、あれだけ体も動かせるのなら。
助言者資格を持っていたら、大人気だったんじゃないかなあ。
しかしながら、沢城先輩は持っていないので、がっかりした1年もいたのかもしれない。
そんなことを思うと、少し今まで感じた事のない、自分自身に刺さるようなようなものを感じてしまい、我ながら意味が分からずに首を振った。
これ、なんだろうと考えようとした時。
「こ~ら、なに百面相しているの?」
幸の頭に、コツンと小突いたのは、同じ黄組の2年生の川合麻紀さんだった。
本来は南組に所属している新体操部。花奏の部活の先輩にもあたる。
応援合戦の練習では、幸のチアの練習を付ききりで見てくれた人でもある。
…本当は、花奏が最初に見ていてくれたのだが、あまりにも上達が遅いため、体育祭の応援合戦、ダンス部との共同ダンス競技の両方で、センターポジションにいることが多い花奏が見ていることが出来なくなり、交代してくれたのだ。
川合先輩自身も応援合戦では重要なポジションなのだが、ダンス部との共同ダンスには出ないから時間があったらしい。
薫が指摘した盆踊りっぽさが中々抜けない幸に対して、丁寧に根気よく教えてくれた体育祭で恩の出来た人だ。
「あ、いえ。みんな、足が速いなあと思って、びっくりしてました」
「なるほどねえ。驚くのはいいけど、衝撃受けすぎて、どうにか頭に入れ込んだチアの振り忘れないでよ?」
「はい!頑張ります」
勢いついて両手を振りながら答えた幸に、川合先輩はクスクス笑ってから、他の人に呼ばれて行ってしまった。
入れ替わりのように花奏が幸の背中から抱き付いてくる。
「仲イイネ~」
「へぇえ!?」
思いも寄らない言葉に変な声が出てしまうと、花奏は幸の心の内面でも探るかのように、じぃっと見つめてきて、う~んと考え込んだ。
「幸は川合先輩には興味ない…?」
その言い方の意味は分からないものの、川合先輩にもなんだか失礼な話の流れになっている気がして、幸は答えた。
「良い先輩だよ。私の練習が遅れてて、お世話になってるし」
「それだけ?」
花奏には、その答えでは足りなかったらしく、更に追及されるが幸には意味が分からない。
「それだけってなあに?」
「川合先輩からペアになってとか言われたらどうする?あの人、助言者資格持ってるよ」
「まさかあ」
何を言い出すのかと、花奏に朗らかに笑って見せると、そうかそうかと心から納得したように相槌を打ってから、ぽんぽんと幸の肩を叩いた。
「全く考えてなかったのは分かった。でも考えておきたまえ。川合先輩は、急遽『借り物競争』への競技にエントリーしている」
「へ?」
「チアの練習が始まった後に、一度決まっていた所に申し入れをしたらしい」
「え?」
まるきり他人事のような答えをする幸の肩に、更にポンと花奏は手を置いた。
「私は目的が幸ちゃんにある気がするのだよ」
その言葉に、幸は目を丸くして驚きの表情を見せた。
それから最初は小さく、やがて大きく。何度も首を横に振る。
「えええ。ないよないよ!そんなのないって」
「うん。答え合わせは午後の借り物競争だね。じゃあ、私は長縄に出るから!」
困惑の幸に手を振って。花奏は軽やかに競技へと走って行ってしまった。
「え、えええ!?」
幸の状況を受け入れきれない叫び声のようなものだけが。
黄組の片隅で響いた。
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